2009年9月に丸の内ブリックスクエア内にオープンしたリサイクルショップ「PASS THE BATON」。2010年4月には、2店舗目として大型ショップを表参道ヒルズにオープンしました。
「PASS THE BATON」は、Recycle、Remakeという既存のテーマに加え、「Relight」という新しい視点から商品の提案を行う「新しいコンセプトのリサイクルショップ」。運営する株式会社スマイルズ(以下、スマイルズ)の社長・遠山正道氏は、「『リサイクルショップと思って来てみたらスゴかった』という、ギャップのある店を作ろうと思った」と話します。
「PASS THE BATON」には、字義通りのリサイクルショップのように服や雑貨などありとあらゆる物が置かれていますが、欧州のヴィンテージショップのような洗練されたアルカイックな雰囲気と都会的な雑多な感覚が交じり合い、「何かありそう!」と思わせられるのです。それも、「本当に素敵な何か」が……。
では、「PASS THE BATON」が掲げる「New Recycle」とは何なのか? その洗練さはどこからくるものなのか? Relightとは? リサイクルのイメージを変えた「PASS THE BATON」の秘密について、遠山社長に聞きました。
―― 遠山社長もおっしゃっていましたが、これまでの3R(リサイクル、リメイク、リユース)にはおしゃれなイメージはありませんでした。このイメージはどこから来るものなのでしょう? 「PASS THE BATON」はなぜそのイメージを覆すことができたのでしょう?
リサイクルというと、単純にモノの循環。その意味でのリサイクルショップは、モノの良し悪しは別にして買い取り販売するからどうしても有象無象になってしまうと思うんですよ。それはある種の宿命かもしれません。そこへ行くとヴィンテージショップやコンセプトのある古着屋さんでは、お店のコンセプトに沿ってバイヤーが見立て、そのお眼鏡に適うモノが陳列されています。
「PASS THE BATON」はその中間あたりに位置していると思っています。ショップのスタッフが優先的に選択しているのでもなく、着ないものをどれもこれも持ち込むのでもなく、出品者自身が「PASS THE BATON」に合うものをすでに選別して持ってきてくれるのです。
―― この確固たる世界観を作るにあたり、クリエイティブチームのみなさんにはどのようにしてイメージを伝えましたか?
「時代国籍不明」というのは言っていました。宝探しのようにしたかったんですよ。ごちゃごちゃしていて、小さな雑多なものが積み上げられていて、その裏に回りこむと、また次の世界が広がっていて。
お店のイメージを伝えるにあたって、自分で現物として持っていったのは「そば猪口」でした。そば猪口にチョコレートを添えてラッピングをして、「そば猪口をこんなふうにして売りたい」と伝えました。というのも、そば猪口のような生活骨董品は趣味性が強くて、人にプレゼントするのも少しためらいますよね。でもこうやってお菓子とくっつけてチャーミングなラッピングをつけるという「魔法をかける」ことでプレゼントになる。「PASS THE BATON」の店内にあることで、従来のそば猪口とちょっと違う新しい見え方がする。そんなお店にしたいと伝えました。
―― さまざまな企業やデザイナーと提携してデッドストック品のコラボ商品の販売もあります。
そうですね。例えば、「minä perhonen」の皆川明さんとコラボレートしたオリジナル食器があります。鉄粉という小さな黒い点が付着してしまったり釉薬のムラが出てしまっていたり、ほんのわずかなことでB品として世に出回らない業務用食器があります。それに皆川さんに描いていただいた絵をプリントしたものを販売しています。日本の基準が厳しすぎるところがあって、本来なら処分されてしまうものです。全く気にならないのにもったいない。
また「THEATRE PRODUCTS」さんには、過去のアーカイブ生地を新しい商品としてリメイクしていただいて販売したり、「THEATRE PRODUCTS」の倉庫に眠る膨大なオリジナル生地のストックを、生地屋さんとしてそのまま販売したりしました。それらはそのままだと「こんなにあって、どうするの?」というほどで、陽の目をみないままだったかもしれません。過去のコレクションの生地は、リメイクすることでさらに素敵なものとして売ることができます。生地として売ったものは、購入者の方が新しい価値を発見して与えることができます。これを我々は「Relight(リライト;「再び光を当てる」の意)」と呼んでいます。
―― 「PASS THE BATON」がリサイクルショップとして何が新しいのかというと、出品者も物語を作るプレーヤーになる点を含め、この場に関わる一人ひとりがアクションするための場になっていることだと感じます。
さらにもう一つ付け加えるなら、「もったいない」を具現化したところだと思います。私自身、「PASS THE BATON」の構想を練っているときに紙袋2つにシャツを詰めてリサイクルショップに持ち込みました。そうすると、単純なグラム売りなので980円という値段になりました。確かに、もう着ないけれど捨てるよりはいいやというところで目的は達成されていますが、気持ちが消化不良の状態なんですよ。
捨てるに捨てられないモノを持ち込むときって、なにかしら「もったいない」と感じる理由があると思います。例えば、「気に入っているものだけれど、40歳になってコレを着るのは気恥ずかしい」「新婚旅行で行ったイタリアで買ったシャツなんだ」ということであるかもしれません。モノに対して持っていた気持ちがあるのに、「50円」「100円」という一種の評価をされるのは、納得しにくいところがある。そういう「もったいない」という気持ちの部分まで含めて価格を付けるショップというのが、いままでなかったのだと思います。
―― 「PASS THE BATON」ではどのようにしてその気持ちの部分にフェアに接しているのでしょう?
まず、持ち込まれる商品の販売価格は最初に出品者の希望を伺い、そこから担当者が相談して双方が納得する価格に決定されます。つまり、新婚旅行で買った年代モノのシャツであれば、既存のリサイクルショップなら一方的に80円とされるかもしれませんが、「PASS THE BATON」なら2,000円、3,000円で販売することも可能です。
さらに、購入された場合、購入者の方にメッセージを書いていただくようにしています。なぜそのアイテムに惹かれたか、今後どのように使用しようと思っているか、使用しているかなどを記入していただき、出品者の方に届けています。これがたいへん喜ばれています。
―― スマイルズとしては、「Soup Stock Tokyo」を手がけられています。「Soup Stock Tokyo」をやっておられたことで、「PASS THE BATON」に役立ったことはありますか?
「Soup Stock Tokyo」はスープのファストフードです。自分たちのこだわりを持ちながらも、ファストフードなので高齢者の方、外国の方、子ども、ビジネスマンなど、誰にでも開かれた場所になっていなければなりません。大衆的だけどかっこいい、というような堂々としたお店づくりを心がけてきましたが、その経験があったのは良かったですね。開かれた場を作る中で、必要のないこだわりを捨てていけたと思います。
―― 震災前と後で、リサイクルに対する人々の意識に変化があったと思いますか?
どうでしょう。「もったいない」という気持ちは誰しも潜在的に持っているものだと思います。ただ、その気持ちをより大事にしようというのは少なからずあるかもしれませんね。
―― 最後に、スマイルズは「giraffe(ジラフ)」、そして10月にローンチする「my panda」といったファッションブランドも展開しています。いまの時代、ファッションブランドをやっていくにあたって重要なことはなんでしょう?
スマイルズとしては、「開かれた」というのが一つのキーワードだと思っています。先月「my panda」のファーストコレクションを発表しましたが、これはPARCOの小口ファンド「Fight Fashion Fund」を利用したブランドです。およそ70名の方に事前に出資していただいたのですが、製作の過程で出資者の方とのミーティングをやるわけです。ただ、これが経済ないしビジネス的におもしろい取り組みだったせいか、日経新聞やワールドビジネスサテライト、NHKといったビジネス寄りのメディアでも大きく取り上げられたので、出資者の方も経済のしくみとして興味を持ってくださったビジネスマンの方が多かった。
「my panda」はそもそもレディースブランドで、そういった方々はブランドのターゲットとしては意外な層の方々です。もしこれが通常であれば、ターゲット層以外の方のコメントに耳を傾けるのは難しい部分があるのかもしれません。しかし、レディースアイテムのほかにメンズアイテムを増やしたりなど、ターゲット層以外の方の声を取り入れることで、変なこだわりを捨てられました。それに、できた製品をお見せすると「かわいい!」と我がごととして喜んでくださる。そういった姿を見ると、純粋にすごくうれしいんですよ。自分たちのこだわりを持ちながらも扉を大きく開いてやっていくというのがすごく気持ちいい。そうやって新しい可能性を開いていきたいですね。