服を大切に長く着続けるお手伝いをしてくれるクリーニング店が、愛媛県松山市にあります。株式会社清水屋では、クリーニングもおしゃれを楽しむファッション業界の一員であるという意識で、自社内に「お洋服のお直し部門」を設け、細かなトータルメンテナスまで行っています。
そんな清水屋から、2018年2月、100%ナチュラル成分の、お洗濯用のランドリー洗剤がお披露目されました。
ナチュラルな洗剤の開発で、創業およそ60年の老舗が、新しい一歩を踏み出すきっかけにもなったそう。クリーニングに新しい風が吹き込む! そこで、二代目の清水栄治さんに、清水屋の始まりからお話を伺ってみました。
清水屋が創業したのは58年前。現在は、一般クリーニング工場に特殊品工場、132の営業店舗を展開しています。
創業当時、クリーニングは「洗濯ものはないですか?」と一軒一軒お宅を回る御用聞きのような形態でした。それがしだいに、お客さまが店舗へ服を持っていく取次店集中方式へ変わっていきました。(清水屋・清水さん)
タバコ屋さんやお酒屋さんが兼業とした始めた取次店のおかげで、御用聞きの手間賃をクリーニング業務に投資できるようになっていきます。
日本の経済成長とともに、クリーニングもどんどん技術が発達し、値段も手頃に。そして、人々の環境意識も高まるにつれ、インバーター制御やソフト脱水ソフト乾燥の洗濯機が登場。
自宅で洗える服が大幅に増えていく時代の流れの中、清水屋では、新しい付加価値の必要性を探しはじめました。
ヨーロッパでのクリーニングの始まりは、貴族がずっと着っぱなした後に捨てていたドレスをお手入れする「メンテナンス」。一方、日本のクリーニングは、敗戦直後GHQが清潔な生活環境のために広めていったもの。
今後クリーニング店を利用してくれるお客さまはどんな人だろう、と考えてみると、服にこだわりが強い人、プリーツなどのディテールや肌触りなど細かいところが気になる人ではないかと。そこで、3年前にヨーロッパのメンテナンスの文化を、応用してお直しサービスをスタートしました。(清水屋・清水さん)
洗剤づくりへの挑戦
日本でもホテルや病院などで使われるシーツや枕カバー、タオルをクリーニングする「リネンサプライ」に、ドイツの厳しい環境基準が取り入れられはじめ、クリーニング業界にもその波がきているのを感じていました。
そこで転機となったのは、デザイン事務所の方を通じて紹介された「BIO HOTELS JAPAN(ビオホテルジャパン、以下BHJ)」との出会い。
BHJは、ヨーロッパビオホテル協会の公認を受けて、2013年5月にスタート。日本でのBIO HOTEL®の普及、空間やサービス、製品の体験を通じBIOという新たな価値観をカルチャーとして創造することをミッションにしています。
ちょうど、BIO HOTEL®の厳しい環境基準に合うランドリーを手がけたいと思っていた、BHJ代表理事・中石和良さんと意気投合して、新しい洗剤を作ることになったと言います。
BHJを通じて紹介されたのは、「PALSEYLLE®(パルセイユ®)」という会社。福岡県芦屋町にある石油系合成成分ゼロで石鹸やコスメを作っている企業ですが、実は、すでに2016年に、ナチュラルなランドリー洗剤づくりに成功していたのです。
同社が開発したナチュラルなランドリー洗剤について、代表の金井誠一さんに、お話を伺ってみました。
アルカリ性の石けんシャンプーで洗うと髪にきしみを感じますが、それと同じことが繊維でも起きます。紀元前から使われている石けんが、実は、いちばん汚れが落ちます。ただ課題は、石けんカスが出るところ。そこで、PALSEYLLE®のアミノ酸系シャンプーの技術を応用して、ふんわりと仕上がるように改良していきました。(PALSEYLLE®・金井さん)
界面活性剤には、サトウダイコンから抽出される天然の素材を使用し、ナチュラルさを追求したそうです。
清水さんは、そんなPALSEYLLE®のものづくりへの意識に感動したと振り返ります。
会社の裏には有機JAS認定を受けた自社農園まであって、ものづくりの意識が非常に高い会社だと感じました。(清水屋・清水さん)
今回は、その洗剤をベースに愛媛の原料をプラス。愛媛県でオーガニック栽培されたミカンのエキスが配合されています。
それは、「清水屋が60年近く続けてこれたのは、地域の方々の優しさにほかならない」と感じているからだそう。これからも愛媛という場所で、いろいろなかたちで愛媛にお返しをしていきたい、という思いがあると言います。
ほかにもユーカリ葉油を配合し、殺菌効果と消臭効果を高めました。洗濯しながらリラックスできるアロマ効果も期待できます。石けんカスもなく、水量30Lに対して洗剤の量は5~8ml程度で十分な洗浄力があります。さらにボトルも、インテリアとして置いても心地良いものを……と、デザイナーさんもこだわられたようです。(PALSEYLLE®・金井さん)
こうして、柔軟剤もいらず、毎日の洗濯が快適になるような、ボディソープと同じ原料で作られた洗剤「SHIMIZUYA Laundry Soap」が完成しました。
ナチュラルへの取り組みをサービスにも広げる
お洋服のお直しサービスのほか、収納小物や生活雑貨が並び、ライフスタイルショップのような雰囲気な清水屋のお店。
「こんなクリーニング屋さんがあったら嬉しい」を実現してきた清水屋ですが、このコラボレーションがきっかけで、新たな展開も生まれています。
清水さんは、天然由来の洗剤を発売するにあたって、成分などの勉強を重ねたそう。「いろいろなことを知れば知るほど、今後もっともっと関わっていかなくてはいけない、行動しなくてはいけない」と、考えささせられたと振り返ります。
当社は県内にコインランドリーを現在9軒展開していますが、その洗濯機では、当社が用意した洗剤が自動投入されます。この洗濯機で使用する洗剤も、徐々に天然由来の洗剤に変えていきたいと考えています。現在、機械での試用テスト中で、夏までにはスタートしたいと思います。
清水さんはまた、「サービス業のクリーニング店としても、あらゆるニーズに応えたい」とも。
「買ったときの状態をキープしたい」というお客さまの要望に応えるため、色落ちや型崩れを起こしにくい溶剤も使わなくてはいけません。しかし、より健康や環境に配慮したサービスを作り出していく重要性を感じました。なにかできることからすぐに行動しようと思い、今回作った洗剤の使用をベースに、天然由来のクリーニングサービスを始めようと思っています。
シミの除去や特殊な汚れに対しては、ナチュラルな洗剤だけではうまくいかない部分をどうするのかを試行錯誤している最中だそう。この夏から秋にかけて実際にお客さまにサービスを提供できるようにしたい、とも話します。
愛媛・松山という地域から、いちはやく。ミカンのように清々しい気概で、クリーニングに取り組む清水屋に、お気に入りの服を持ち込みたいと思いました。
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