H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME&EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引してきた鎌倉泰子さんが、気になるブランドを訪問。その魅力やものづくりに迫ります。
今回訪ねたのは、一見斬新でアヴァンギャルドな浴衣屋さん「月影屋」の重田なつきさん。
「月影屋」は「白と紺以外の浴衣は作らない」というのが信念。描かれるモチーフは、イチゴやお金、ツッパリ言葉?! と思うワードが。帯にはスワロフスキーをあしらったり、蛇革を使ったり、ほかにはない奇抜なものばかり!
最初は「前衛的」と思っていたという鎌倉さんですが、型は「伊勢型紙」。染めは日本橋の老舗による伝統工芸「注染」。仕立ては「手縫い」。モチーフや色づかいも、歌舞伎や浮世絵などの伝統的な江戸文化から着想を得たものばかり。これぞ「クラシック」な江戸の浴衣だったのです。
日本に長く根づいた浴衣から、「100年残るもの」「クラシック」について、いっしょに考えてみました。
鎌倉: 恥ずかしながら、私自身日本の文化にも疎いし、いまから付け焼刃で調べても仕方ないから、今回のインタビューでは良い質問ができないんじゃないかと思いながら来たの。でも、まずはお話を聞こう、と。ほかの対談記事も読んだけど、「(月影屋が提案している浴衣は)クラシック」という話がおもしろかった! 「月影屋」を初めて見たときは、正直、「インパクトがあるアレンジをした浴衣」なんだと思ってたの。その後、なつきさんにお会いして、話を聞いたり調べたりしたら、これこそがクラシックな浴衣なんだって知ってびっくりしたの。
重田なつきさん(以下、なつき): 浴衣も服も一緒で、背景にある意味を知らないまま、ただ奇抜なだけのものとクラシックを区別していない人もいる。バックグラウンドを知っていると、「月影屋」の浴衣の見え方も変わると思う。もともと浴衣をちゃんと知っている人は、見た瞬間「
鎌倉: そもそも、なんで浴衣屋さんをやろうと思ったの?
なつき: あたしこう見えて、作業はものすごい細かくて正確。浴衣は直線でできているから、ちょっとしたズレが美しさを左右するんだけど、あたしが初めて帯を作ってみたとき、自分でもびっくりするくらい上手にできちゃったのよ。「あら! これならできるじゃないの♪」って思って決めた。それに、ほかにやってる人がいなかったからライバルいないし(笑)! 「これはきちんと続けていけば商売になる」と。自分でなんでも決めたかったから、自分でどんどん決めてやっていったの。簡単ではなかったけど、なんとかうまくく進んでこれたかな。
鎌倉: 「月影屋」は最初、帯だけの展開だったよね?
なつき: 浴衣を染めるのには、まず職人さんを見つけないとできないから、最初は帯だけでやってたの。半端なものは作りたくなかったからね。でも、帯だけ売っても仕方ないから、セカンドハンドの
鎌倉: 浴衣って、昔からずっと形が変わっていないから、限られた条件の中で柄を変えてアイディアを出し続けていくってことでしょう? それは毎シーズン全く新しい服をゼロから作るのとぜんぜん違うと思うんだけど。
なつき: 「それならあたし、できる!」と思ったのよ。例えば、「ヨコシマな浴衣」とか我ながら良いわよね! これをひらめいたときは、その先の広がりも確信したし、「もう、勝ったわ!」と思ったわ(笑)。「ヨコシマな男達」みたいに呼んでね。「ヨコシマな浴衣」は5種類あって、きれいに作れる限界の幅である7mm。その次が、よくある幅の11mm。そして、18mm、29mm、47mmっていう展開になってて、幅の大きさが数列になってるの。
鎌倉: そのグラフィックも、見たときはびっくりした!
なつき: 「月影グラビア」ね。そもそも、浴衣を作りたいっていうより、この「月影グラビア」を作りたくてやっているようなものなの(笑)。あたしにとって、商品を作って人に見てもらうのは「お芝居」を作る感覚に近い。「今年の演目はこんな感じで、出演はあの子で……」って。衣装はもちろん、浴衣だけどね。
「ヨコシマな浴衣」のときは、どうしても「Borsalino」の帽子をかぶってもらいたくて自分で買いに行ったし。しかも、エクストラファインのやつ(笑)! あと赤い口紅を持ってもらったんだけど、それも「『CHANEL』の真っ赤じゃないとイヤ!」って。脚本家でもあり舞台監督みたいな感じかな。
鎌倉: じゃあ、「月影屋」のビジュアルは、「お芝居のパンフレット」みたいな感じって考えたらいい?
なつき: そうね。よくインタビューなどで「コンセプトは?」って聞かれるけど、そんなのないから「あたしが今年作りたいお芝居はこんな感じ」って見せて説明してるの。あたしは「コンセプト」っていう考え方が嫌いなの。あたしは大学で建築を専攻してたけど、課題をやるとき、「コンセプトは?」って流れに絶対なるんだけど、それが「なんかかっこ悪いなー」って、思ってた。「コンセプトを説明しなくても、素晴らしいものであれば、それを作った意志は伝わんだからいーじゃん!」って。
鎌倉: ブランドの認知度を上げながら奥行きを持たせるにあたっても、核の部分を守ってぶれないでいるためには、コンセプトの設定が絶対に大事だと思っているんだけど、違うんだ?
なつき: そうね。そもそも「月影屋」は、「伝統的なものを派手に見せて、再注目してもらって、日本の文化を見直してもらいたい……」っていう意図じゃなくて、本来の江戸のクラシックに、ちょっとあたしの好きなものを入れただけなんだよね。突飛なことをしようとしているんじゃなくて、考え方はとってもシンプル。
屋号の「月影屋」もそんな感じ。あたしは歌舞伎や浮世絵が好きだから「○○屋」ってしたかったのと、名前が「なつき」だから、「つき」も入れたかった。それだけなんだよね。物心ついたときから30歳くらいまでにインプットされて来たことが、なにかをきっかけに「月影屋」という形になってアウトプットされるようになっていままで続けてきた、って考えるのがいいんじゃないかしら。
鎌倉: つまり、「月影屋」の核にあるのは、「生身のなつきさんの目」なのね。
なつき: でも、みんなそうなんじゃないの? 音楽とか読みものとか、見たものとか、自分の中に入れ続けて、自分でも忘れてしまっているかもしれないほど貯め続けたものから生まれてくるんでしょ。あたしはマリアカラスも、昔の歌謡曲も、ノイズも聞くの。カセットテープ、いっぱい持ってるわよ〜。そういう、あたしが自分の中に注ぎ続けたものを形にすると、こういう浴衣になるわけよ。
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