品質の高さや技術、美しさから高い評価を得ている日本のものづくり。新しい技術の台頭や後継者不足などにより存続の危機が叫ばれる中、国や民間、個人によるさまざまな取り組みが行われている。
兵庫県の播州刃物や播州そろばん、島根県の
前半に続き、後編は、デザイナーの枠を超え、商品のビジネスモデルを作り、販売も行う小林さんが、昨年末オランダに設立した「MUJUN」という会社の取り組みについて尋ねる。「MUJUN」が今後、見据えるものとは?
文化ごと根付かせるために。ディストリビューターのあるべき姿。
ブランディングを行い、価格と後継者問題の改善を実現した播州刃物のビジネスモデルは、2015年のグッドデザイン・ベスト100・特別賞を受賞。日本の文化や地域を生かした商材を扱う中小企業の海外展開を後押しする、経済産業省主導の「MORE THAN プロジェクト」にも選ばれた。
デザイナーの枠を超え、コンサルタント顔負けのビジネスを作り、営業さながらの販売もこなす小林さんはいま、購入後の刃物をメンテナンスする環境づくりに取り組んでいる。
材料や製法にこだわって作られる播州刃物は、研ぐことにより切れ味を保つ設計になっている。昔は、商店街の金物屋に研ぎ師がいたが、いまは産地でも残り少ない。買ったものを使い続けられるものにする存在は普及の鍵だが、後継者育成の気運の盛り上がりはまだだ。
一方、海外では、道が開けようとしている。
研ぎのワークショップをすると、めっちゃ来るんですよ。切れ味が戻った刃物に、みんな感動します。それまで商品の箱の中にいくらチケットを入れてもオーダーはなかった。送料もかかるし、現実味もなかったと思うんです。
やりたい人は海外にもいっぱいいる。いかに育てるか。地元の研ぎ師を連れて行って、技術を教えるのもありかなって。職人がいない状況を疑似体験できれば、動くと思うんです。ヤバくなってからでないと動かない(苦笑)。
なぜ、ここまでやるのか。
商品を売って終わりでは意味がない。生活の中で使い続けられ、文化として根付かせないと、本当の意味での販路開拓とは言えない。それには、現地にいることが必要。
と、小林さんは答える。
MUJUN
2016年12月、小林さんは、海外でのビジネスをさらに拡大していく土台づくりとして、オランダに会社を設立した。会社名は「MUJUN」。現地の小売店に直接卸しを行いながら、自らも店を持つことが目標だ。
店舗にはワークショップスペースを設け、メンテナンスも請け負う。アメリカ、オーストラリアにも拠点を作り、数カ国に広げていきたい。
他方、いまも商品や会社、また地域を再生させたいという多くの依頼が舞い込むが、「クライアントワークは、徐々に辞めていきたい」と小林さんは考えている。
直接売ることでみんなにとって良い状況を作りたい。そもそも僕のところに来る依頼は、見え方を変える“デザイン”だけではどうにもならないし、デザインは問題解決の手段でしかない。であれば、将来的には「MUJUN」というブランドに集中して、全てのパワーを注ぎたい。
MUJUNという名前の由来を聞いた。
僕に来る依頼が全部矛盾しているから。AとBの選択肢にそれぞれメリットとデメリットがあるから、矛盾が発生して悩み果てて、どうしたら良いか分からなくなる。でもどちらかを選ぶんじゃなくて、両方やれるCっていう選択肢がまったく別のところにある。それが、僕がやっていることだと思っています。
播州刃物からの当初の依頼は、「新しい刃物を作ってほしい」。目的は、売上をあげること。
しかし、安すぎる単価や従来の国内販路、また、高齢化が進む、数少ない職人で、これ以上生産量と利益率を増やすことは難しかった。
他方、商品は、長い歴史の中で技術の粋を集められた一級品。新作など必要なかった。
届けられるべき市場に商品が届いていないことに注目した小林さんは、海外に販路を見出し、「高くても売れる」という生産者側の意識改革を行い、ブランディングを実施。新たな販路獲得と売上の向上に成功した。
また、需要が増えても応えられるよう、職人の後継者育成にも着手。問屋や職人だけでなく行政も含め地域の人々を巻き込み、地元のものづくりの課題を解決した。
地元から世界へ
MUJUNで扱う商品は、日本にこだわらない。
例えば、オーストラリアに店を作ったら、包丁の刃は日本、柄はアボリジニとかでもいい。その国その国に文化があるし、こういう日本の文化との共存はある意味、進化かなと。
いま、小林さんの考えに共感する人たちが集まり、アムステルダムのほか、ニューヨークとシドニーで、かたちになり始めている。ニューヨークでリードしているのは、大学生のとき、小林さんを島根に誘った先輩だ。
小林さんの一番の目標は、日本の職人の地位が上がること。職人に憧れる子どもが増え、後を継ぐ人を増やしていきたい。
次の世代を生きる子どもたちには豊かに生きてほしい。より良い未来には、地域の財産を残すことが不可欠。グローバリゼーションの中で生き残るには、どこにも真似できないものを育て、その価値を伝えること。だから、僕は地元で仕事をし、世界へ出て行くんです。
「自分たちの持っているもの。すなわち文化の中に答えがある。外にあるのはヒントだけ」と、小林さんは力強く語った。
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