品質の高さや技術、美しさから高い評価を得ている日本のものづくり。新しい技術の台頭や後継者不足などにより存続の危機が叫ばれる中、国や民間、個人によるさまざまな取り組みが行われている。
兵庫県の播州刃物や播州そろばん、島根県の
「グローバリゼーションの中で生き残るには、どこも真似できないものを育て、伝えること」と考える小林さんに話を聞いた。
文化は国力。ものづくりが文化を支えている。
兵庫県のデザイン事務所「シーラカンス食堂」の代表小林新也さんが、日本のものづくりに危機感を持ち始めたのは、10代。
日本の文化を支えている「ものづくり」をする人がいなくなったら、文化も衰退していくのでは? ――実家の表具屋(※紙や布、糊を使い、屏風や襖、掛物などを作る)の仕事を間近に見ながら、こう思った。
大学ではデザインを専攻、在学中に世界最大のインテリアと家具の見本市「ミラノサローネ」にも出展した。
海外に出ると、日本のものづくりのすごさが分かる。でも蓋を開けてみると、『この人が最後の職人です』っていうことがあまりにも多い。文化に勝るものって、国の力で言ったらほかにはない。それを絶対に絶やしたくない。
日本が抱える課題はどこも同じ。地元は?
大学2年生のとき、先輩に誘われ、島根県で古民家をリノベーションし若者が訪れるカフェ作りに取り組んだ。多く残る空き家と若者離れを解決する、一種の町おこしだった。
卒業後、このまま島根に住むことを考えていたが、瀬戸内海の島々で開催される「瀬戸内国際芸術祭」に出展しないか? と、教授に声をかけられた。作品やコンセプトのデザイン、会場となる
話を聞く内に、過去の風評被害の影響で、まだ使える漁船や海苔の加工工場が使われないまま残っていることを知った。
「状況、一緒やな」。
島根と豊島に関わり、そう感じた。
「地元は? なにか産業あったな……そろばんや!」。
それまで当たり前過ぎて“地元”のことを考えたことがなかったが、早速、同級生の父親が経営するそろばん製造会社の門を叩いた。
創業100年の歴史ある問屋だが、需要が減る中、生産量を落とさないため、社長自らそろばんの珠を生かしたおもちゃやそろばんの枠に囚われない商品開発をしていた。小林さんは共感した。
おっちゃん、もうちょっとデザインしたほうがええで。
新しいはさみをデザインしてくれないか? ――金物との出会い
そろばんの珠の数で時間を表示する掛け時計「そらクロ」や、そろばんを自分で作って持ち帰れるワークショップスペース「そろばんビレッジ」。それまでにないデザインの視点を入れた取り組みは、メディアでも取り上げられ、話題になった。
新也くん、小野には、
金物 もあんねんぞ。新しいはさみのデザインできひんか?
小林さんに声をかけたのは、評判を聞きつけた、知り合いの刃物問屋。興味はあったが、金物のことはなにも知らなかった。
人間業じゃないな。
実際にはさみの製造工程を見た小林さんは、職人の巧みな技術によって作られるはさみの美しさに驚いた。これ以上のものを作れるのか、という疑問と同時に感じたのは、いままで“知らなかった”こと。
自分が生まれ育った町に、こんなにすごい人たちがこんなにすごいものを作っていることを知らなかった。これが足りてないことだって思ったんです。絶対、いまあるものを知ってもらう努力をしたほうがいいなって。
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