さまざまなナチュラルコスメの中で、堅実な人気を誇る粘土コスメ。地下の粘土層から採掘された粘土は、古来から自然療法として広く活用されてきた。一説には、古代ローマ時代では、炎症、骨折などの治療に使われていたとも。
そんな粘土の力が見直されている昨今。東京江戸川区に、30年以上にわたって粘土を使ったコスメのみを作り続けている会社がある。創業は、現・代表取締役の手塚平さんの祖父。それを受け継いだ手塚さんの探求の結晶「KURUMU」について尋ねた。
会社と僕は、生まれが同じ年。僕は今年34歳になりますが、会社も実は長く続いてる会社なんです。
株式会社粘土科学研究所の若き代表取締役・
粘土科学研究所が取り扱う商品は、名前のとおり、粘土を使ったスキンケア商品。それのみ。「粘土がスキンケアにすごく向いているものと信じて、作り続けてきました」と、ワンストップで企画から製造・充填・梱包まで一貫して行っている、OEM(※相手先ブランド名製造。他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業)メインの会社だ。
現在手塚さんは母と二人で共同で代表を務めているが、創業は手塚さんの祖父。手塚さんの祖父は、探究心の塊のような人だったそうで、「なににでも興味があった人」と、手塚さんは振り返る。
聞くところによると、興して潰した会社も相当数あるそうですよ(苦笑)。
手塚さんの祖父が「粘土科学研究所」を始めたのは、知人から「粘土を使ってシャンプーを作ってくれ」と、言われたことだったと聞く。創業とともに生まれた手塚さんにとって、物心ついた頃から、粘土は身近な存在だった。
お風呂には大きな缶が置いてあって、そこにドロドロした粘土が入っていて、頭から足まで全部それで洗っていました。
「汗もができた」「乾燥する」と言えばクリームみたいなものを渡されましたし、「乾燥する」と言えばローションみたいなものを渡してくれました。祖父が、「ジャバジャバ使え!」って(笑)。すると、次の日には少し良くなっていたりする。だからスキンケアは、粘土以外に使ったことがないんです。いまでも、シャンプーは粘土で洗顔したそのまま洗っています。
そのためだろう。手塚さんの肌は驚くほどきめ細やかで、髪もサラサラだ。
さて、ここで手塚さんに、粘土についてあらためて詳しく教えてもらおう。
粘土はもともとは鉱物で、もとは「石」の状態。粘土ができるためには長い年月、圧力、熱が必要だ。そうして生まれた鉱物を砕き、精製すると、粒子の細かい滑らかなパウダー状になる。
粘土とは、読んで字のごとく、「粘る土」。ここに水を加えると粘り気が出るようになり、これをそのまま肌に塗布するだけでも保湿できるという。
粘土には、【落とす・届ける・守る】という、3つの効果があります。まず、粘土は水を抱え込む力が強いのですが、汚れも同じように抱え込んでくれます。これが「泥パック」の原理ですね。粒子が泡より細かいため、毛穴の奥までしっかり落とせます。次に、汚れを受け取って代わりに水分や保湿成分を届ける力があります。そして最後に、皮膜を張って乾燥を防いで肌を守る効果があります。
つまり、洗顔するだけでもこれら3つの効果を果たすことが可能。男性の中には、化粧水はしないという人もいるだろうが、そんな人には特に粘土が便利に違いない。
「粘土科学研究所」が使うのは、日本の粘土。粘土はもともと火山灰。火山列島である日本は、実は粘土だらけだ。日本各地それぞれの山の石の状態によって、成分が異なる。
昔から弊社は、山形・新潟・群馬でとれる3種類をブレンドしたものを使っています。微調整はあれど、祖父が編みだした配合そのままです。
そんな祖父の手伝いを幼少期からしていた手塚さん。白衣を着た子どもの頃の写真が残っているとも。
科学の実験みたいで、すごく楽しかったですね。幼稚園で将来の夢を聞かれて、「科学者」って書いていたみたいです。勉強というかたちではないですが、粘土は本当によく「いじり」ました。夏休みの課題では、界面活性剤を少なくしたクリームを作ったくらい。
しかし大学は文系を専攻し、その後は、音楽の道に進む。忙しいときには手伝ったりしていたものの、家業からは離れていた。しかし……。
離れてみると、「こうしたほうがいいな」「こうしたほうが効率的だな」って思うことも多々あって、数年前から母といっしょにやることにしたんです。
そんな手塚さんの発案で「KURUMU(くるむ)」というオリジナルブランドを作ったのは、3年前。音楽をやっていたということもあり、依頼があったものを作るだけじゃなく、自分たちで表現してみたいという気持ちもあったという。
でももっと正直に言うと、それまではOEM製造がほとんどで、「怖かった」というのがイチバンの理由かもしれません。
OEMは、お客さんである企業の方針に従うよりほかはない。例えば、「来年から粘土じゃなくてオイルを使ったものにするから」と、言われたらそれでおしまいだ。しかし、ほかに売り込めるものがあれば万が一のことがあっても、生命線になる。
「KURUMU」は成分としてはほかのOEMとあまり変えていないというが、特にこだわったのは香り。マンダリンやベルガモットに始まり、シナモン中心のスパイシーな香りに終わるミステリアスな香りは、「和モダン」がテーマ。年配の方には懐かしい感じがするかもしれない。東京農業大学のオホーツクキャンパスにある食品香粧学部といっしょに開発したものだ。
パッケージも、箱が風呂敷のように製品を「くるむ」ような作りになっており、「くるむ」というコンセプトがふんだんに詰め込まれている。
「良いものを作れば、見た目が悪くても売れる」という考えの人もいますが、洗面台にかわいくないものを置きたくないですよね。僕も作るならかっこいいものを作りたい。一見すると本質的ではないのかもしれないけど、そういうところを含めて、しっかりこだわりました。
ラインナップは、洗顔料、化粧水、パックとクリーム、そして歯磨き粉。保湿まである粘土スキンケアコスメはなかなかない。
中でもオススメは、歯磨き粉。「モンモリロナイトと銀と水の歯みがき」という名のとおり、水、モンモリロナイト、カオリン、酸化銀(そのほか、フェノキシエタノール、フィチン酸、ペンテト酸5Na 含む)でできている。泡も立たない、味もしない、研磨剤も入っておらず、粘土の吸着力だけで歯を磨く、ごくごくシンプルな歯磨き粉だが、歯医者さんでも取り扱ってもらってるほどの実力。モンモリロナイトの自然な吸着力が汚れをくるみ取り、虫歯を防ぐ。
成分はシンプルだが、メッセージの伝え方は、これまでの経験を生かして、いままでにないものに。もともと音楽をやっていた人脈を生かして、知り合いのラッパーにミュージックビデオとオリジナルのラップを作ってもらったという。
今後は、入り口商品としてハンドクリームなんかも考えているというが、しばらくはスキンケアを育てていきたいと話す。OEMと「KURUMU」では、売上の9割がまだOEM。いまは主にウェブでの販売が中心だが、どんどん広げていきたいとも。
粘土細工の粘土とは別物ですけど、僕にとって粘土は石で、ドロドロした土みたいなもの。これに音楽をやっていたバックグラウンドも生かしながら、いろんな実験をこれからもしていきたいですね。
手塚さんが祖父から受け継いだのは会社以上に、“探究心”に違いない。
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