ドイツ生まれのナチュラルヘア・ボディケアブランド「STOP THE WATER WHILE USING ME(以下、STW)」の日本展開をするBIOTOPE INC.のCEOである中森友喜(とものぶ)氏。背がすらりと高く、笑顔がほがらかな山口県出身の34歳の若手社長。
大学卒業後は国税局へ入局し、国家公務員として勤務。その後は、毎回20万人以上を集客する最大級のファッションの祭典イベント・TOKYO GIRLS COLLECTION(以下、TGC)の運営企業へと転職して最高財務責任者にまで上りつめた後、次には「Maison Gilfy」などのいわゆる「マルキュー系」アパレルの社長に。そして、昨年にはナチュラル系化粧品の企業の設立。
全く異なるフィールドから異なるフィールドへ…というバックグラウンドを拝見し、ちょっと珍しい経歴なのでは? いったい何が中森さんを「エコ系」へと駆り立てたの? そう感じ、たどり着いた同氏のブログを見て惹かれたのは、中森氏独自のライフハック術のほかに、この一文でした。
僕は、会社を取り巻く人々との関係性=繋がりを作り替えたいと考え(*起業し)ました。
・株主と会社との関係性。
・社員と会社との関係性。
・外注スタッフと会社との関係性。
・取引先と会社との関係性。
・お客様と会社との関係性。
さて、異業種から異業種へとフィールドを移しながら前進する中で、いったいどういった経緯があってこのように思われたのでしょうか。
中森さんは、自営業の父の影響があって、「会社をやりたい」とずっと考えていたといいます。しかし、「何の」会社をしたいかということには一切アテはなかったそう。そこで、お金のフローと経営を学ぶため、卒業後は国税局に入局します。
―― 国税局からガールズファッション産業への転身について、お話を聞かせてくださいますか?
国税局ではあらゆる企業のお金の流れを見ることができます。TGCを開始・運営していた株式会社ブランディングは当時、社員数も少ない小さな企業でしたが、大きく成長していました。なおかつTGCのように非常に大きなイベントも運営しています。そのポテンシャルある経営を肌で知りたくて転職を決めました。
その後さらに、アパレル企業の代表取締役にも就任させていただきましたが、「企業は生き物」だと強く感じましたね。そのとき、一度は一世を風靡したにもかかわらず、人気が低迷していたブランドの立て直しをしたことがあります。社員一人ひとりの話を聞き、その不安を聞き出していきました。そして気づいたのは、みんなそれぞれ考えていても、根本にあるものはいっしょ。みんなブランドをよくするためにどうしたらいいか考えているんです。僕の役目は、みんなが力を発揮できるように環境を整えることだと思いました。そのことを知るには、数字を追うだけでは分からなかったことだと思います。全員の思いが同じ方向を向いている会社は強いですね。
よく、アパレルは販売員が命といいますが、販売員の子たちのモチベーションを上げるために、インセンティブ制度を設けるなどの試みに挑戦したこともありました。しかし、何よりも彼らのモチベーションを上げるのもコミュニケーションではないでしょうか。いっしょに考え、意見を吸い上げ、実際に彼らの夢を叶える道を作っていく必要があると感じていました。
―― アパレルから化粧品事業という異業種参入のきっかけは何だったのでしょう?
アパレルにいたときから、化粧品事業で新しいことをやりたいという興味がありました。化粧品事業って10億円広告宣伝費を掛けて売りだして、30億円を売上として回収するという、大仰で少し乱暴ともいえるお金の使い方をする業界でもあります。しかし、公開されている原価率を調べると、10%からそれ以下のものも少なくなく、広告費が30%ほどを占めるという原価構造になっています。そうした数字の構造が、消費者に対する姿勢として、僕にとっては違和感が残るものでした。
そんな業界だからこそ、もっと数字をオープンにして、「これくらいの価格で商品を調達し、これくらいのコストでみなさんに認知してもらおうと思っていて、これくらいのお給料を報酬としてもらっていて、会社にはこれくらい残ります」と、ブランドについて伝えることをしたいと思っています。それで、業界に新しい風を吹き込むことができると嬉しいですね。
―― 「STOP THE WATER」との出合いは?
オリジナルの化粧品を作るにあたって、海外の事例を研究している中で見つけました。見たときに、モノが話しかけてくるという「モノと人との新しい関係」が新しいと感じ、もっと話を聞いてみようと、去年の8月にオーナーさんに直接コンタクトをしました。それがすっかり意気投合して、10月には輸入を担当するという話になりました。
ただ最初は、少し長い英語のメッセージがすんなりと入ってきたわけではありませんでした。見た目が純粋にかわいいと思って、よく読んでみると「水、止めろよ」と命令口調(笑)で言っている。その、見た目から入って次にメッセージを受けるという順序が、すごく気持ちよかったんです。
僕自身、「STOP THE WATER」を知って初めてバーチャルウォーターなどの水問題というのがあると知りましたが、このシリーズはそういう問題を知る良い窓口だと感じています。人間はやっぱり何事も完璧にはできない。僕も「STOP THE WATER」を使いながらもたまに水止めてませんし。人間、自分にできないことだからこそ、目をつむりたいものってある。でも関わってみると、意外と思うほど難しいことではなかったりします。
そうやって、一人ひとりの意識が少し変われば、世界も変わると思いますし、目や耳をふさいでしまっている人々に対して、変化するきっかけになったらいいなと思います。それで、興味が湧いた人が自然なかたちでもっと問題に取り組めるようなしくみをデザインしてお手伝いしていきたいですね。
―― 「BIOTOPE」という社名は、多様な生命があふれて輝いている感じがしますね?
この会社では、人をどんどん入れていたずらに規模を大きくするのではなく、社外の人と対等な関係でコラボレーションしていっしょに何かを作っていけるという、一つの生態環境を作りたいと思っています。
前職のときにも、社員と会社の関係性にすごく悩みました。経営者としてリストラを行ったこともありました。利益は出ていても、もっと利益を作るために人件費を下げる必要があり、それは本当につらかった。
今は、自分の仕事を分担してくれる人としてどんどん社員を抱えるのではなくて、自分たちは小さくていい。その代わりに、社内外のいろんな人たちとゆるやかだけれど対等で確かな関係を結び、いっしょに成長していく企業になりたいと思っています。会社としても、あんまり今後の予定を考えていません。みんなで話し合いながら、生まれてきたものをやっていくというスタンスでやっていきたいと思っています。もちろん事業計画も作ってますし、数字にもちゃんと起こしてやっていますが、そこを無視してやっていきたいですね。
(インタビューここまで)
社長時代に感じた社員と会社の関係性。消費者との関係性。モノと人との関係性。そのコミュニケーション――1プレーヤーとしてフェアであれる環境が「BIOTOPE」という社名に込められているのだと感じます。全てのことを完璧にすることは難しい。だから人は手を取り合う。それでも完璧にできないかもしれないけれど、できることの可能性はもっと増えるはず。人と人の可能性が、いろんな方向に枝葉が伸びた木々のように絡み合って、また新しい生命を生み出す「BIOTOPE」」――柔らかな中森さんの笑顔を見ていると、その予感を存分に感じます!
さて、現在準備中のオリジナル化粧品も、「余計なことは一切しない」ものを考えているそう。
化粧品は、含有量0.01%も入っていない有効成分を取り上げて「これは効く!」と謳って、消費者に訴えます。でもそれが本当に効くかといえば、ハテナが残る。なので、そういった余計に飾り立てることをしないで、とにかくシンプルな化粧品にしたいと思っています。来年にはみなさまにお披露目できるように進めていますので、楽しみにしていてください!
コメントを投稿するにはログインしてください。