H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME & EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引し、現在フリーランスバイヤーとして活躍する鎌倉泰子さんが、気になるデザイナーを訪問。対談を通じて、その魅力やものづくりに迫ります。
今回尋ねたのは、「HELMAPH & RODITUS(ヘルマフ・アンド・ロディタス)」。鎌倉さんが初めて「HELMAPH & RODITUS」を見たのは13AWの合同店展示会でのこと。重めの単色展開で、圧倒的な仕事量。「ほかにはないものを作っているけど、奇をてらっているんではないんだな」と、興味を持ったのがきっかけだといいます。
それから4年。あらためて「HELMAPH & RODITUS」のものづくりについて、デザイナーの樋口公博さんと、ディレクターの柳田明子さんに尋ねました。
鎌倉: 今年でブランドが始まって4年目。17SSで7シーズン目ですが、2016年は「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」受賞がありました。おめでとうございます! 月並みな質問ですが、その前後でなにか変わったことはありますか?
柳田: 特にありません(きっぱり)! 「さぁ、新シーズン。樋口さん、お好きにどうぞ!」というスタンスも変わりません(笑)。「これは売れない……」と、思ったりもしますが、樋口が思い描くまま「服」という形になっていればOK。樋口が全力を注いだキーピースに、わざわざ「商品性」を入れることは私たちはやりません。
樋口: ただ、服を作る順番は変わりました。いままで、1着ずつ順番に作っていたんですよ。1着のMA-1だけに1カ月以上かけたこともあるくらい! 今回は展示会時期を早めたため、時間が圧倒的に足りず、キーピースからデザインポイントをほかのアイテムに展開する……という、妥協はしないけどスピードアップする、というやり方を体得できました。
鎌倉: 「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」では、ブランド初となるランウェイもありました。
柳田: 「HELMAPH & RODITUS」の服は、最初から立体、それも本番の生地でサンプルを作っています。特殊な生地を使うことが多いので、トワル生地(仮縫い使う生地のこと)だと、生地の張り感や光り方が分からない。だから、体を入れて動いてこそ良さを発揮します。
その点でショーは、しっかり服の良さをアピールできた手応えがあります。同時に、数体のルックと2分40秒という限られた時間の中で、誤解されないようつくり込む難しさも体験できて良かったです。
樋口: ランウェイでかけた音楽はDavid Bowieの「LITTLE WONDER」。ちょっと不思議で、ちょっと変わったものを表現したかったので、まさにぴったりでした。
柳田: 私は「あなたが『LITTLE WONDER』じゃん!」って思いましたけどね(笑)。
2017SS見せた新しい一面
鎌倉: 今シーズンは、いままでの「HELMAPH & RODITUS」と、また違う一面が全面に出ていたように思いました。固定観念を持たないように、あまり尋ねないのですが、「HELMAPH & RODITUS」のコンセプトはなんでしょう?
樋口: 僕の頭の中にあるのは形ではなく「イメージ」。「〈◎◎年代の△△のイメージ〉というような具体的なテーマを持てませんし、持ちません。
柳田: 「HELMAPH & RODITUS」のコンセプトは「樋口の頭の中」。「樋口がいま思っていること」「樋口がいままでに経験したこと」です。
17SSは、「いままでのシーズンと全く違う色使いですが、なにがあったんですか?」と、バイヤーさんたちによく聞かれたのですが、私たちにとってはなにか特別なことがあったわけではないんです。バイヤーさんたちが見ているブランドの変化は、持っているアイデアの振り幅ではなくて、樋口がいままで生きてきた経験値なんです。
鎌倉: 私はブランドにとって、立ち上げ、もしくは展示会に出るようになってから「2年」がとても大事だと思っています。初年度にオーダーがつかなくても、さらに次のシーズン、作風を変えずに再チャレンジするブランドには特に注目します。
ただ、いまだから思い切って言うと、いままでの「HELMAPH & RODITUS」らしいままのも私は大好きなんですけど、「もし私がバイヤーだったら、何回続けて買い付けるだろうか?」と、実は思っていました。見た目が強いアイテムは、お客さまは何度も買い続けるとは限りませんし、フリーのお客さまがすぐに手を出せるデザインでも値段でもない。
こういう舵を切った今シーズンは、自分の服と合わせられるのに、「HELMAPH & RODITUS」だとひと目で分かるコレクションで、本当に素晴らしいと思いました。コーディネイトを考えるのが楽しめると感じました。
樋口: 嬉しい! 実は、今期はどの展示会でも「着るのが難しい」って言われていたので、なおさら嬉しいです!
鎌倉: いままでの「HELMAPH & RODITUS」は、「着る人のパーソナリティを引き出せるブランド」というより、明日捨ててもいいようなTシャツを着ていても、その上から「HELMAPH & RODITUS」の服を着れば素敵になれる! というか、誤解を恐れず言えば、なんでも「HELMAPH & RODITUS」になってしまう。
今シーズンはアイテムも豊富で、透ける素材や柔軟性の違う素材の組み合わせでできているから、自分でいろいろコーディネートできる。「買った人が自分なりのコーディネートで着てくれてこそのブランド」と、以前おっしゃっていましたが、今回はまさにそんな感じ。
難しいからこそ「どう着てやろう?」
柳田: でも、尖っていて有名なショップのバイヤーさんには、「すごく良いと思うし単価は下がったけど、想像力がないと着られないコレクション」と、おっしゃっていました。
鎌倉: 販売員にも想像力がないと勧められない。着るほうも、センスも技術も必要な服……ということですよね。
柳田: 樋口の頭の中にある断片的なものを表現しているものなので、日常的に着られる服かというと、そうではないものがあるのは確かです。バイヤーさんには「どうやって着るんですか?」と聞かれてばかり。私たちから「こんな着こなしができるよ」という、具体的な提案は必要だと思います。
樋口: 自分たちが、着こなしの難しい服を「どう着てやろう?」って思うタイプなんですよ。昔から、「人と違っていたい」と思ってしまう(笑)。社名の「ONE OF AK IND」も、「一点もの」という意味です。あまのじゃくなのかも。
柳田: ただ、「挑戦してみたいけど、けっこう難しいな」というときに、もう少し値段の安いものがあれば挑戦しやすい……というのは分かります。1点もので、「HELMAPH & RODITUS」らしさがありながら、値段が控えめなので、最近はヴィンテージや古着を使ったリメイクアイテムにも注力していて好評です。
柳田: MDのやり方を知らないままブランドを始めてしまったということもありますが、「売れたい」とは思うけど、ぶれたくはない。〈ブランドを知って欲しい=売れたい〉と、考えてたら、なんだか分からなくなって、楽しくなくなってしまいました。
賞をいただいた期待には応えなければ、というプレッシャーはありました。でも、私たちは楽しいことをやりたいし、楽しくなければ私たちじゃない。だから、こんなことを言ってはいけないのですが、「これで続けられなくなってもいい!」と、覚悟を決めてショーに挑みました。やっぱり、作っているほうが楽しくないと、着る人に伝わるとは思えません。「HELMAPH & RODITUS」を本当に愛してくれる大事な人たちの期待に応えなければ、結果的に続けられなくなってしまうと思ったんです。
ただ、「これが『HELMAPH & RODITUS』です!」と、自分たちが「良い」というものを納得がいくまで突き詰めた服づくりは、この3年でやりきってしまっていた。だから3人とも、もう次の段階に進むときなんだと感じていました。服だから、着る人が自分なり変化させられる余白のようなものが欲しい。それで17SSは、着ている人が自分なりに楽しめるコレクションになりました。
樋口: それが結果的に良かったと思っています。展示会でも、興味のない人は完全にスルーする。けれど、興味を持ってくれる人は本当に丁寧に見て、話を聞いてくれました。
美しい縫製を支える第4の存在
鎌倉: 話は変わりますが、「HELMAPH & RODITUS」は、縫製が美しいのも特徴です。いつもお願いしている縫製をする方はどんな方なんですか?
柳田: すごい技術の持ち主です! 私の古い友人でもあります。厚みも固さも違う生地を正確に縫うのが難しいことは分かってはいたんですけど、やっぱりいくつもの工場で縫製を断られていました。それで相談したところ、試しにやってくれたものの仕上がりがスゴくて!
樋口: 「おぉぉぉぉーっ!」ってなりました。この人にしか頼めない、むしろ頼みたくない! と思いました。スピードも早いし。
柳田: それからずっとお願いしているのですが、本格的な製作が始まる前から、そのシーズンはどんな生地でどんなものを作るのかを聞いてくれて、新しいことをするのを楽しみにしてくれています。「よく思いついたね! こんなの縫えないよ!」っていうのを楽しんでくれる。お互いに、相手の期待を裏切らないようにしよう、という良い関係。彼女がいてこそ私たちのチームです。
樋口: 量産するものはほかの工場にも頼みます。こちらが言ったことをそのとおりにしてくれる工場さんも安心できるんですけど、楽な方法より、「手間だけどもっと良い方法もある」ということを教えてくれる工場さんもあって、それはすごくありがたい。彩乃(樋口の妹であり、「HELMAPH & RODITUS」の生産を務める)も、とても勉強になると言っていました。本当に職人さんに助けられています。
両性具有のミックス感
鎌倉: いままで聞いたことなかったのですが、樋口さんはニューヨークに4年いらした後、メンズ中心のショールームで働いておられましたね。そこからなぜレディースのブランドをやろうと思ったんですか?
樋口: 学生のときからレディースのブランドを作りたいと思っていたんです。レディースはいろんなデザインができるし、なにより美しいものを作りたいから。レディースの服には、美しさや華やかさを感じるんです。毎シーズン取り入れている「レース」は、その現れの一つ。
樋口: David Bowieのイメージもそうですけど、僕は「両性具有」的なもの、ミックスされたイメージのものが好き。「HELMAPH & RODITUS」という名前も、ギリシャ神話のエルメスとアフロディーテの子どもであり、両性具有の神・ヘルマプロディトスからきています。僕自身、昔はヴィンテージはもちろん、スカートを履いたり、思うままにいろんなものを合わせて着ていました。
デザインとしても、なにか見たものや感じたものに、ほかで見つけた美しいものが重なると、何通りもの新しい表現になっていくと思います。
鎌倉: 樋口さん自身が積み重ねてきた、断片的な記憶やいまの気持ちの中から生まれてきているもの。それがブランドのオリジナリティにつながっているのですね。
柳田: 樋口の頭の中を、工場さんや縫製をするかたにそれを伝えるのは本当に大変です……。
鎌倉: 「ONE OF A KIND」だけどみんなに愛される「HELMAPH & RODITUS」として、これからやりたいことは?
柳田: 「HELMAPH & RODITUS」がお客さまと世界へ歩きだして、人と人のコミュニケーションのきっかけになりたいです。セレクトショップでも、ヴィンテージショップでも、バーの片隅でもいい。これからも、「HELMAPH & RODITUS」が1つの美しい媒体として誰かに選ばれ、人と人とをつないで幸せを届けられる存在でありたいです。
(インタビューここまで)
どのブランドもそうでなくてはいけないと思いますが、「信頼」からなる結束力を感じました。「HELMAPH & RODITUS」のお洋服は、まだ1点しか持っていませんが、チャレンジしたい……! というか、ファッション業界にいるからにはやっぱりいろいろチャレンジしなきゃ! と、いう気分になりました。
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