功利的でリアリスト。物質至上主義なマテリアルガールたちは、富、地位、名誉が大好き。それらを手にしたときに浴びせられる人々からの羨望を糧に生きている。
その欲求を満たすには絶好のフィールドである東京で、彼女たちはいかにして「利益」を勝ち取っているのだろうか? また、その先になにを見ているのか……。
この連載では、なかなか語られることのない東京マテリアルガールのホンネを紹介していく。
そんな願いを叶えるのは簡単だ。
仕事の鬱憤晴らしに、1人の男性に連絡をした。
平均年収は1,500万円を軽く超えるような外資系銀行に勤める33歳。既婚で、子どもも3人いる。中年太りが始まりつつあるも、顔立ちはベイビーフェイスで整っている。30歳を超えたいまでも、潤んだ少年のような目をしていた。若い頃はさぞモテただろう。
その彼にメッセージ……。
「久しぶりに食事でもご一緒しませんか? お友だちも呼んで」
もちろん2人では会わない。
「会いたいと思ってたんだ! 行こう行こう! いつ暇かな?」
妻子持ちとは思えないレスの速さ。なんと話の早いことか!
「8月◯日はどうですか?^^」
3つめのメッセージでなにを食べるかまで決まるのが、割りきれた関係の良いところ。
当日、指定されたお店は期待どおりのクオリティ。それに応えるよう、かわいさと器量を兼ね備えた自慢の友だちを連れていくと、男性陣は大盛り上がり。
両者大満足に終わり、帰りのタクシーを捕まえようとしたところ、誘った彼が一緒に乗ってきた。
「どうしたんですか?」
「俺も同じ方向だからさ、送るよ」
さっさと一息つきたいところだったが、ご馳走してもらった手前、しぶしぶ了承してタクシーを走らせた。
しばらくすると、彼は私の手を握り、こともあろうにキスしようと迫ってきた。
「えっ……なんなんですか?」
「だって好きなんだもん」
絶対に、この人は私のことは好きではない。ただ人肌恋しい、寂しがり屋なのだ。奥さんと喧嘩でもしたのだろうか? そういう関係を求めてこないところが良いところだったのに……。
「やめてください。奥さんいるじゃないですか」
そう言って突き放すと、
「なんでそんな悲しいこと言うの?」
そう言って子犬のような目で見つめてきた。
大人になったいまも、自分のベイビーフェイスが武器になることをよく分かっているようだ。全く悪いことはしていないのに、心が痛む……。
しかし、このセリフはどこかで聞いたことがある……誰だろう……?
「そんなさみしいこと言わないでよ…」子犬その2
セリフの主はすぐに思い出せた。学生時代からの友人(……と言えるのか?)で、同じようにタダでおいしいお酒が飲みたいときにだけ会う男性だった。
その彼は芸能業界の裏方で働く31歳。年収は前者ほど振るわなくとも、1,000万円以上は稼いでいるはず。女性の扱いがうまく、盛り上げ上手。学生時代はクラスの人気者だっただろう。そして見た目はやはり、ベイビーフェイス。業界人ということもあってか、もしかしたら大学生に見紛うほど若く見える。
その彼はホームパーティーの最中、私の隣に腰掛け、手をつなぎ、やはりキスをしてこようとした。
「やめて? 私たちそういう関係じゃないでしょ? 友だちでしょ?」
このオトコは、子どももいなければ結婚もしていない。
そこで彼は言った。
「そんなさみしいこと言わないでよ……」
これだ……。
2人の男性のスペックや状況は酷似している。特にベイビーフェイスと若い頃はモテただろうという2点。
同様の男性が、女性に否定されては良心に訴えるかたちですがり付いてくる……といった光景は、もはや定番。
なぜ、彼らはこのフレーズを使うようになったのだろうか?
子犬系ハイスペック男性のCVパターンの推移
考察にあたり、まず前提として、彼らは若い頃はモテた。
顔も良く、話もうまい。女性の扱いもうまく、高収入。黙っていても女性の方から寄ってくる。20代は、ちょっと手間を掛ければ、すぐCV(コンバージョン)できた。
彼らは、少々陥落させにくいオンナに出会っても、「こんなに女性に魅力を感じたことないよ……」とか「いままで会ったどんな人よりも気になってしまう……」と、手を握りながら言っておけば、女性たちに甘い表情で見つめ返してもらえることも知っている。「いいじゃん」だけでCVできた例もきっとあっただろう。
これまで
そんな調子で、日々飲み会・食事会を繰り返しては都合の良いオンナを捕まえてきた彼らだったが、女子大生から「オジさん」とラベリングされ始めた頃からか、CV精度が落ちてきたに違いない(女子大生は、男性が30歳を超えたら平気で「オジさん」と呼ぶ。女性には自分の近い未来を見据えているのか、早くても40歳頃までは「オバさん」とは呼ばない)。
楽しく食べて、楽しく飲むのが大好きなハイスペック男性。それに加えて若い頃にモテた人材は、かつてチヤホヤされていたときの充足感が忘れられないことが予測できる。お酒が入ればなおのこと、人肌恋しくなるものだ。
自分の欲求に忠実で、向上心(?)のある彼らは、そこで、さまざまな手法でアプローチにトライしたところ、非常に再現性の高い成功メソッドを発見したのだ。
それが、「なんでそんな悲しいこと言うの?」「そんなさみしいこと言わないでよ……」だ。
「なんで〜?」発見後
拡大した領域のターゲット層のインサイト
ここで、ターゲット側である女性が、なぜ子犬系ハイスペック男性の「なんでそんな悲しいこと言うの?」を受け入れるのか、考えてみよう。
彼女たちの子犬系ハイスペック男性に対するインサイトは以下のようになる。
恋愛対象から明らかに外れるものの、今後も関係を継続したほうが望ましいことが想定できる。
そう。彼女たちにとって、この関係を維持して甘い蜜を吸い続けるために、子犬系ハイスペック男性に嫌われてはならない。
「なんでそんな悲しいこと言うの?」という彼らの発言は、彼らは傷つけ「られた」という被害の主張である。
〈相手を傷つければ嫌われる=関係維持に困難が生じる〉と、彼女たちが感じるのは順当だ。男性を受け入れたリターンと、拒絶した際のリスクを天秤にかけながら、彼女たちは次の行動を決めている。
CVRをさらにグッと上げる一言
こうして、子犬系ハイスペック男性は本人はまったく傷ついていないにもかかわらず、擬似的に被害者のような立ち回りをすることで、甘い蜜を吸いに来た女性を揺さぶっている。
彼女たちの最大のリスク「嫌われたくない」を逆手に取り、さらにCVR(コンバージョンレート)を上げる一言を提案する。
嫌い?
これだ。
まず、こんなこと聞かれたら誰だって、どんな状況だって「はい」とは言いにくいというのは無論のこと。この状況ならスムーズに発言できるフレーズである。
加えて、嫌われるのはリスクなので、「嫌いかどうか」という点については焦って否定してくるはずだ。
そこで一気に畳み掛ければ、「嫌い」とは言えない層をさらに侵食していけるだろう。
誰だって、どんな状況でだって、「嫌い?」と聞かれて肯定することはなかなかできない。現在、ゴリゴリ押しで攻めている男性は、いち早くこの一言を当ててみることをオススメする。
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