【連載】いいかげん選書【全13回】

回転寿司のお皿に乗ってきそうな本

A Picture of $name 大野真司 Illustration: anne imai 2016. 7. 25

「突然街中に出現する本屋・劃桜堂かくおうどう」の大野がお届けする、すこぶるいいかげんな本の紹介。

いつの間にか、日常に「本」が忍び込んでくる……。

©anne imai

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「寿司? 食べたことないね! 食べたとしても刺身!」

という人には、未だかつてお会いしたことがない。

本を読まない人も、寿司は食べる。自明のことである。

人はおいしそうなものが、レールに乗って流れてくると無意識に手を伸ばす。

「ああ、お腹いっぱい。食べた食べた」と言いながら、流れてくるお皿に手を伸ばす貴婦人を、あなたは見たことがあるはずだ。

というわけで、今回は「回転寿司のお皿に乗ってきそうな本」を紹介する。

ZOO

乙一(著)、 集英社、2006年

控えめに言って、マグロである。

というか、むしろマグロである。

この本は5話の短編から成っており、1編読み切るのに必要な時間は、お寿司のレーン1周分くらいである。

狙っていたお寿司のネタを取り損ねたときに、1周待つのにうってつけだ。

この本のテーマは「抗うことができない別れ」だと思う。

自分や身の回りの人たちが ――時には残酷な方法で―― いなくなってしまうことが分かっているとき、人はどのように考え、どう行動するか。

自分の力ではどうしようもできないままならなさや葛藤、なにかを受け入れる強さを、マグロの赤みのように鮮やかに描いている。

しずく

西 加奈子(著)、 光文社 2010年

お寿司好きは、薄いピンク色の物体を「ビントロだ!」と認識する癖がある。

例えば、こじゃれた薄ピンクのネクタイをプレゼントしようものなら、開口一番「ビントロだ!」と叫ぶだろう。

iPhoneの新色ローズピンクが発売されたときも、「ビントロだ!」と叫びだす人が続出した。

さて、紹介する『しずく』だが、色合いがまさにビントロである。

回転寿司で流れてきて、手に取る。そしてお醤油をつける。そこでふと気づく。

「これ、ビントロちゃう。水分が乾ききってる。まるで文庫本だ(このあとスタッフがおいしくいただきました)」と。

2人の女の友情をめぐる物語だが、途中「私がう◯こを食べるまで」という話まで出てくる。

大衆的なお寿司。体臭的なう◯こ。

食すことの神秘を、お寿司屋さんで知ることになる。

軍艦物語―太平洋海戦を彩った12隻の生涯

佐藤 和正(著)、 光人社、新装版、2003年

想像してほしい。軍艦巻きのない世界を。

あらゆるネタが、シャリの上に直に置かれる世界を。

宝石のように光輝くイクラは、口に運ぶまでに60%が地面に叩きつけられる。

コーンは寿司職人さんが「やってられるか!」とボイコットを起こしそうである。

軍艦巻きは偉大である。軍艦巻きがあるのは軍艦のおかげである。

それなのに、私たちは軍艦のことをあまりにも知らない。

ご存知だろうか。軍艦の中にエレベーターがあったことを。

軍艦たちがどのように沈められていったのかを。

軍艦にはさまざまな個性と物語がある。お寿司と同じである。

小さな軍艦巻き。大きな軍艦。

味わい深いのはどちらだろうか。

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