5月3日、『ファッションサミット2012』が例年通り、コペンハーゲンにて今年も開催されます。アパレル業界のサステナビリティやCSRを考える世界最大のサミットで、各国から800~1000のアパレル・ステークホルダーが集まります。
アパレル業界のサステナビリティを考える世界最大のファッションサミット
このサミットは2008年に発足した『北欧ファッション協会』の運営によるもの。この協会は北欧各国の5つのファッション協会(Danish Fashion Institute、Helsinki Design Week、Icelandic Fashion Council、Oslo Fashion Week、Swedish Fashion Council)が合同で立ち上げた協会で、ファッション業界にサステナビリティを推進するNICEというプロジェクトを運営しています。NICEプロジェクトは、2009年に環境的・社会的の両面からファッション業界に働きかけるべく『10カ年計画』を発表・提案しています。
近年では国連とも提携し、国連グローバル・コンパクト(※「企業が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに参加する自発的な取り組み」のこと)に基づいて、アパレル業界に特化したグローバル・コンパクトに準拠するためのガイドとなるイニシアチブを策定しています。これに賛同する企業は、国連の定める10原則をビジネスの中に組み込むことになります。ガイドラインの更新版はサミットに順じて発表されます。すでに現在もいくつかのデンマークのアパレル企業が国連グローバルコンパクトに参加していますが、アパレル企業の中でその代表として挙げられるものに「Noir(ノワール)」がありますね。
最近のデンマーク・アパレル事情
デンマークのアパレル産業について簡単に説明しますね。同国のファッション産業は急速に成長しており、その規模は2010年には3508億円(100DKK=1486JPY時。デンマーク政府統計)という規模。うち93%が海外に輸出されています。同国は「手に入る」ラグジュアリーアイテムを提供するブランドが数多く排出していることで近年注目を集めていますが、インディペンデントなハイエンド志向のデザイナーが多く、ミニマルでクリーンなテイストが特徴です。
さて、なぜ「手に入る」と言ったかというと、これらのインディ・デザイナーたちは、ヴィトン、グッチといったメゾンブランドを買い求める層ではなく、教養が高めのミドル〜ハイエンド層に属して、価格にこだわらずユニークな「こだわりの一着」を求める人々をターゲットとしているからです。
デンマークの大手アパレルのエシカルコミュニケーション事例:The Bestseller Group
「ジャック&ジョーンズ」や「ヴェロモーダ」(※いずれも日本未上陸)といったハイストリートブランドを展開する同国の小売企業・ベストセラーグループは2010年〜2011年決算で2580億円の売上をたたき出しました。同社は海外にも積極的に展開しており、全2800店舗中、2500店舗は海外にあります。
同社の役員は前述の『北欧ファッション協会』と『デンマーク・エシカル貿易イニシアチブ』にもアドバイザリーボードとして参与しています。このような組織の一員として参加することは大事な1歩です。なぜなら、エシカルなビジネスのあり方について真剣にノウハウを得ることができ、自社の方針や規格を見直すために必要な知識を獲得することができるからです。
マーケティングの見地からも重要です。こうした組織とパートナーシップを組むことによって、真剣にエシカルを推進する姿勢を示すことができ、自社のステークホルダーたちの信頼を高めることができます。それはもちろん、消費者の信頼を高めることにもつながります。同社のウェブサイトにアクセスしてみると、『責任ある生産(Responsible Production)』というコーナーがすぐに見つかります。そのページを見れば、彼らが動物愛護などの社会活動から、自社の取引先と互いに利することにつながる購買習慣を促進するなど、幅広い取り組みを行なっていることが分かります。また、ダウンロードページからは同社の行動規範、セーフティーガイド、児童労働に対する規約等が幅広く公開され、誰でも見ることができます。
ベストセラーグループのように、情報を公開しているアパレル企業はまだまだ少ないのが実際のところですが、CSRなど企業のエシカルな取り組みについての説明が、取引先や消費者に届ける役を担うバイヤーたちにとって分かりやすい場所にあることは重要です。こうした企業活動はあまり重要視されないこともありますが、オープンかつ正直な企業であることが、消費者とのコミュニケーションにおいて不可欠の要素となります。
クリーンで正直なコミュニケーションがカギ
エシカルな活動を通じて信頼を基盤とした関係をステークホルダーと構築しながらも、グリーン・ウォッシュ(※一見、環境に良いことをしているように見せかけながら、実際には環境に悪い影響を与えている企業の行動やその企業を示す)を回避するには、オープンで正直なコミュニケーションしかありません。ブランドや企業に対する信頼こそが、ロイヤリティを築きます。
ヨーロッパのエシカルファッション事情に関する最近の調査(※1)では、消費者はアパレル企業がエシカルかどうかについては、信用していないということが明らかになりました。また、安価なオーガニック商品、フェアトレード商品に対しては懐疑の目を向けていることも分かりました。これらの結果が指し示すのは、消費者はエシカルな商品の消費活動を受け入れる準備ができているのに、企業側がまだ追いついていないということではないでしょうか。安易なエコ・エシカル訴求は消費者の信頼を勝ち得ることにはならないということです。
企業は改善の必要がある分野を告白し、正直に情報を公開し、なぜその商品がエシカルなのかをきちんと説明する必要があります。エシカルが流行りだから、と安易に波に乗ることは決して賢明な行為ではありません。インターネットを通じて消費者はすぐ必要な情報を入手できる時代になりました。情報の真偽を確かめる手段のなかった以前とは事情が違うのです。マーケティングは企業が主導権を独占したものから、消費者と一緒に行うもの(co-marketing)に変わりました。対等な視線を持って向き合い、本当に良いものを消費者といっしょに作り、届けるという姿勢が大切です。
(※1)IFM (Institut Français de la Mode pour le défi) (2009) ‘Mode et consommation responsable: regards des consommateurs and Mintel, ‘Ethical Clothing, Market Intelligence (2009)
コメントを投稿するにはログインしてください。