「『Veja』という名前はポルトガル語で『見る(look)』という意味。すてきな靴が「靴の『向こう側』に何があるのか?」という問いかけをしていて、『向こう側』へ目を向ける招待状みたいなものだ」――と切り出したのは、フレンチ・シューズブランド「Veja」の創設者の一人、フランソワ・ギラン・モリィヨン(François Ghislain Morillion)。
2005年に誕生したシューズブランド「Veja」。シンプルでクリーン、機能美のあるスニーカーは、どんな世界へと誘ってくれるのだろうか。フランソワさんに聞いた。
―― 「Veja」を立ち上げたきっかけは?
いっしょに「Veja」を立ち上げたセバスチャン・コップ(Sébastien Kopp)とは、高校生のときからの友人。僕らは学生のときから開発経済に興味があった。卒業後は二人ともNYの銀行でインターンをしていたんだけど「マーケティングをいくらしても、世の中は良くならないな」と、思ったんだ。
それでいっしょに企業向けのサステナビリティ・コンサルティングの会社を作ろうと計画した。資本主義と社会貢献を融和させたビジネスを広めていきたいってね。まずは二人で、一年世界中を旅して回った。中国、インド、南アフリカ共和国、そしてブラジルに三カ月ずつ。
いろんなソーシャルプロジェクトの事例を勉強させてもらったけど、ブラジルで特に感銘を受けた企業があった。彼らは地元の人々とパームツリーも栽培して販売していたんだけど、それが非常にうまく回っていたんだ。中間業者をカットすることで、価格は一般のものより安い。なのに、現地スタッフに支払う賃金はより高く、確かな発展を生み出していた。
コンサルティング企業をやるより、これがやりたい! と二人で意気投合したんだ。
―― なぜスニーカーに?
スニーカーにしたのは、それが大好きだからさ! 子どものときから集めたりしたし、旅の最中に何度も買い直した。
それに、スニーカーはもともとブラジルで生産していたプロダクト。東南アジアで大量生産が始まっていろんな環境・労働問題が噴出したプロダクトでもあるからだ。そんなプロダクトで世界を変えられたらおもしろいと思ったんだ。
―― ブラジルで生産をしている。
ブラジルのオーガニックコットン農家、ゴム農家らと契約している。
いまは一年に一度、僕らもブラジルに行って、現地のメンバーにビジネスがどんな状況か、良いことも悪いことも報告をしている。また、生産者の家族の自宅にも宿泊させてもらい、交流を深めているんだ。彼らの生活について、より良く知りたい。
ゴム農家の彼らは、早朝から森の中に出かける。自然に自生するパームツリーからゴムを採取するから、アマゾンの密林の中、自分で木を見つけなきゃならない。見つけたら自分でロープを張って、道を作って行き来するんだ。
木には切り込みを入れて、受け皿を付ける。乳白色の天然ゴムが溜まるまでニ時間。ひととおり回ったら、一度家に帰って休憩。そして午後にまた木々を回って受け皿を回収する。東京の夏のように暑くて湿気がすごいんだ。むろん彼らは慣れているけど、僕は毎回汗だくになるよ。
午後は集めたゴムを、農家自ら精製する。靴底に「Liquid Rubber Technology」と書いてあるけど、これは僕らがブラジリア大学と共同で開発した新しい技術なんだ。
ゴム農家はいままで、採取したゴムそのものを販売するしかなかった。一次産品は付加価値が低いから大した収入は見込めない。でも採取したゴムを自分で精製して出荷することで、より高い値段で販売できるようになった。ふつうなら精製業者に回すけど、木からゴムを採取したその日のうちに精製するから、とてもフレッシュ。粘度が高く、質の良いゴムができるんだ。
―― 近年、展開の幅が大きく広げている。
3年前、ランニングシューズなどより高機能なスニーカーを作るために、多数の新しい素材を開発したんだ。最初はオーガニックコットンのキャンバス地でランニングシューズを作ったけど、キャンバス地のランニングシューズってちょっと変じゃない(笑)? 僕らは、「ちゃんとした」ランニングシューズを作りたかった。
だけど石油由来のプラスチックはいや。他のみんなと同じものになってしまったらつまんないよ。
そこで、100%リサイクルペットボトルでできた生地を見つけたんだ。しかも化学処理的なことはいっさいない。物理的な処理とふつうの熱処理だけでリサイクルする革新的な技術。ブラジルで作っているが、日本が開発した技術だよ。
ほかに去年発表したのは、ティラピアレザー。ティラピアは、ブラジルではよく食べられている魚。ブラジルで「鮨」といえば、だいたいこの魚が出てくるよ。食用魚で、捨てられてしまう皮を活用しているんだ。小さい魚であまり量がとれないから、縫い合わせないといけないんだけど、それがまたユニークな表情を醸してくれるから気に入ってる。
ジュートも僕らが新しく使うようになった素材。コーヒー豆の出荷用の麻袋によく使われるよね。地域の資源・経済と両立させながら質の良い素材を見つけていきたい。
―― 販売の現状は?
アジアでは日本と韓国、香港で取り扱いがある。いちばん売上があるのは、やっぱりフランス。大手百貨店はだいたい取り扱いがあるし、自分たちのショップもあるからね。
―― 「Veja」がオープンしたパリのコンセプトストア「Centre Commercial」は好調だと聞いた。
ショップは、「Veja」でやっていることを補完するプロジェクト。単純に「Veja Shop」をオープンするより、もっとおもしろいことがしたくてね。ものごとを始めるときは、何かほかとは違うこと、自分たちがやっていておもしろいこと、っていうのが僕らの基準だよ。
マーケットは少しずつ変わっていて、サステナブルなものづくりをするメーカーが増えてきているし、消費者は背景を含めて良質なものを求めるようになってきた。でも、買える場所はあまりない。だったら僕らが便利でオシャレな場所を作ろう、とオープンした。
このお店では「サステナブルな」といった言葉はいっさい使わないけど、代わりに「well-made」と謳っているんだ。フランスを中心に、ヨーロッパ、アメリカのブランドを60ほど取り扱っている。
―― 今後の予定は?
「Veja」はまだまだ完璧には遠い。例えばレザーは、低クロムななめしを使用している。以前はアカシアタンニンなめしのレザーを使っていたけど、タンナーがいなくなってしまった。ブラジルで市場がなさすぎて閉鎖してしまったんだ。僕らしか買い付けてなかったからね。いまは、ヴィーガンレザーを検討中なんだ。
だから、レザーについてはあまり宣伝していない(笑)。サプライチェーンを全部コントロールできていない副資材もあるし、エコな素材でない副資材もある。だけど、聞かれたらちゃんと正直に説明する。どんな道をどう歩いているのか。僕らは、でこぼこ歩き続けなければならないけど、道のりを楽しんでいきたいね!
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