1600年代から受け継がれてきた歴史をぎゅっと織り込んで〜「倉敷帆布」

A Picture of $name HITOMI ITO 2015. 3. 4

「キャンバス」とも呼ばれる厚手の綿生地、帆布(はんぷ)。通学用の鞄、着物用の衿芯や帯芯、お相撲さんのまわし、 油絵用のキャンバス、 テントの幕や建築材料に使われる、いまもとても身近な布です。その歴史は古く、古代エジプト時代で船の「帆」として使われた亜麻製のものが始まりとされています。ヨーロッパでもヴェネチアの商人たちが商船の帆に使い、大航海時代の大型船も……。そう、その名のとおり船の「帆」に使われるために作られた、平織りの地厚い(※8oz./1m2以上)生地こそが「帆布」です。

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全国の生産量を合わせても、中国の一企業ぶんにも及ばない

江戸時代末期より全国各地で織られていた帆布ですが、時代とともに廃れていきます。その原因は、1993年以降急増した海外からの安価な綿織物の大量輸入にほかなりません。当時の価格は10分の1と、比べものにならないほど。大阪の産業用帆布の専門家は、この厳しい状況はしばらく続く見込みだと言います。

産業資材としてですが、日本国内での帆布生産高は、全て合わせても中国の民間企業1社が製造する量の10分の1にも及びません。ここ数十年は衰退の一途です。合成・綿帆布ともに製造量は中国がダントツ。この現象は当分の間続くと予想しています。

日本で流通する帆布のほとんどが海外製。いま国内で最も多く帆布を生産していると前出の専門家が挙げる岡山県・倉敷産地でも厳しい状況には変わりなく、生産量も1980年のピーク時に21,440千m2だったのが、2014年には2,983千m2と、10分の1近くにまで減少しています[*岡山県織物構造改善工業組合, 2014]

積み上げられた丸進工業の一級帆布。海外製には、「帆布」と言いながら、よくよく見ると糸が1本(単糸)のまま、撚られてないものがあるという。本来、それは帆布ではなく、「綿布」。細い糸を何本か撚り合わせて織った織物こそ「帆布」といい、厚さによって撚る本数から通す糸の数まで、JIS規格で決まっていた。1997年に帆布のJIS規格は廃止されたが、丸進工業では今でもJIS規格の品質を守り続けている。

積み上げられた丸進工業の一級帆布。海外製には、「帆布」と言いながら、よくよく見ると糸が1本(単糸)のまま、撚られてないものがあるという。本来、それは帆布ではなく、「綿布」。細い糸を何本か撚り合わせて織った織物こそ「帆布」といい、厚さによって撚る本数から通す糸の数まで、JIS規格で決まっていた。1997年に帆布のJIS規格は廃止されたが、丸進工業では今でもJIS規格の品質を守り続けている。

国内の帆布産地・岡山県倉敷市

岡山県・倉敷は、デニムの産地として有名ですが、その繊維にまつわる歴史はおよそ約400年を超えるほど長いもの。同地が米作に不利な干拓地であるという状況を逆手にとり、1600年代に綿花の栽培を始めたのが、この地で繊維産業が勃興したきっかけです。

時代を見極めながら積み重ねた技術を柔軟に適応させ、さらに技術に磨きをかけていくのがこの産地の持ち味。初めに栄えた真田帯/真田紐・小倉帯を通じて撚糸技術を、続いて興隆した足袋や厚司、袴地から厚手の綿織物を扱う技術を……。

1800年代末から同地に興った帆布生産は、その歴史を結集したものといえるかもしれません。

使うのは、ゆっくりと織り上げる1960年代製の旧型シャトル織機

この地で1933年以来、帆布を織り続けている丸進工業株式会社。海外製に対抗していくにあたっても、あえて1960年代前後に作られたゆっくりと織る旧型のシャトル織機を、約60年も修繕しながら使い続けています。

最新型と旧型は、生産性の面では圧倒的な差があるもの。高速の最新モデルであるジェットルーム織機が1日で1,000~1,200m織るのに対し、古いシャトル織機は8時間で50〜70m。なぜ、旧型のシャトル織機を使い続けているのでしょうか?

(左)これが「シャトル(杼)」。これが織機を左右に往復することで経糸に緯糸を織り込んでいく。このしくみの織機を「シャトル織機」という。「シャトル」の名は、スペースシャトルのように左右往復する動きからきているそう。 (右)帆布生地の端=「耳(セルヴィッジ)」まで美しく均一に織り上げられるのも、旧型のシャトル織機だけ。通常、生地の端は一定間隔で穴が空いていたり、ボサボサになっていたり、カット処理されていたりして、経糸がほつれやすくなっているが、産業資材として使われることも多い帆布の場合、強度が重要。耳があることで経糸がほつれない。機能性の証なのだ。

(左)これが「シャトル(杼)」。これが織機を左右に往復することで経糸に緯糸を織り込んでいく。このしくみの織機を「シャトル織機」という。「シャトル」の名は、スペースシャトルのように左右往復する動きからきているそう。
(右)帆布生地の端=「耳(セルヴィッジ)」まで美しく均一に織り上げられるのも、旧型のシャトル織機だけ。通常、生地の端は一定間隔で穴が空いていたり、ボサボサになっていたり、カット処理されていたりして、経糸がほつれやすくなっているが、産業資材として使われることも多い帆布の場合、強度が重要。耳があることで経糸がほつれない。機能性の証なのだ。

それは空気を含みゆっくり織ることで生まれる、なんともいえない独特の風合いが最大の理由。

ただ、その織機がいまは一切製造されていないことも心配ごとの一つ。織機メーカーも製造を40年以上前に取りやめており、部品すらなくアフターケアも見込めないと、同社の最終製品を手がける事業部の部長・蒲生範行さんは言います。

現在弊社では60台のシャトル織機が稼働しています。すでにメーカーが存在しないので、自分たちで修理し、パーツを自作して使い続けています。壊れたパーツを得るために、廃業したほかの工場から織機を買い取ってばらしたりもします。

もらえる織機もなくなったら、10台ほどは稼働停止します。動かす織機の修理にパーツが必要なとき、解体して使うためです。さらに織機が壊れてしまったら、それこそ織れなくなりますね。

丸進工業の工場の中。60台のシャトル織機がガシャンガシャンと音を立てている。限界まで糸を詰め、密度高く織り上げることで、丈夫な帆布が生まれる。

丸進工業の工場の中。60台のシャトル織機がガシャンガシャンと音を立てている。限界まで糸を詰め、密度高く織り上げることで、丈夫な帆布が生まれる。

→Next:同じ“機械”で織っているのに、なぜ風合いに違いが生まれるの?

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