女性だけで構成される「Phuhiep(フーヒップ)」のアトリエ。若い女性が集まれば、花を咲かせるのは、オシャレの話に恋の話、うわさ話に……でも、妬みや小さなケンカもおき、感情のコントロールができなくなってしまう場合もあります。「Phuhiep」のアトリエで最近起きた事件とは?
アトリエでの、ガールズトークは止まらない!
メンバーも少しずつ増え、女性だけのアトリエからは、いつも女性たちの明るい笑い声がケラケラと聞こえています。もちろん、細かいパーツを組み立てていくときなど、高い集中力を必要とするときは、アーティザンの真剣な眼差しに、こちらも息をすることすら遠慮してしまうときもあります。でも、休憩中や慣れた簡単な作業をしているときなどは、楽しそうな会話に、時には鼻歌なども聞こえてきたりします。彼女たちの会話にちょっと耳をそばだててみましょう。
「あの歌手の新曲聞いた?」「うん、お姉ちゃんに借りたわ。かっこよかった!」
「漁師のボーイフレンドとは最近会っているの?」「ううん。いまダナンにいるからなかなか会えないの……」
などなど……お年頃の彼女たち。日本の女性が日々繰り広げるガールズトークとまったく変わりはありません。私たち日本人スタッフにも、
「今日、髪の毛ぼさぼさじゃない?」「今日のお洋服より、昨日の方がすてきだったわ」
と、見る目は厳しい彼女たちからのダメ出しも遠慮がありません。私たち日本人スタッフもうっかり気が抜けず、アーティザンたちと一緒に女子力アップのために日々精進です。
「もう、アトリエを辞めたいです」
そんなアトリエで、「Phuhiep」のアーティザン・ルンの赤ちゃんの誕生の便りを待ち通しく待っていた頃のこと。ある日の朝、アトリエのマネージャーから連絡がありました。
「アーティザンの○○と★★が今朝出勤していません!!!」
常に「時間には正確に」ということを徹底しているアトリエです。遅刻の場合は、彼女たちからは連絡が入るはずですし(バイクのタイヤがパンクしたなどハプニングで遅刻することも、ときどきありますから……)、通勤途中に事故にでもあったのかしら……と、とても心配です。
その後、なんとか連絡が取れた彼女たちの口から出た言葉は「私たちもうアトリエを辞めたいです」でした。
とにかく「アトリエに顔を出しなさい」と伝え、のろのろと出勤してきたそのアーティザン2人は、確かに数日前から勤務態度も良くありませんでした。こんなときは、すぐに全員でミーティングをします。ベトナム人スタッフのみでする場合もあれば、我々日本人が入る場合もあります。
2人の話をよくよく聞いてみると、アーティザン仲間どうし、というよりその家族どうしの諍(いさか)いから端を発したようでした。元船上生活者の居住区では、各家族がそのコミュニティの集合住宅のようなところで集まって2世代、3世代が暮らしています。コミュニティ内には、家庭によってはテレビや電気のあるところとないところ、働き手が複数人いる場合とそうでないところ、など各家庭の事情・抱える問題の程度によって、その生活レベルに差が見られます。今回も、ちょっとした妬みから発展してへそを曲げてしまったようでした。
アトリエ内だけでは解決できない問題を乗り越える
時にこういう、突然仕事をボイコットしたり、「辞めたい」と言う子がいます。アーティザン、マネジメントスタッフも含め、若い女性どうしが集まれば、楽しくにぎやかな反面、まだ精神的に未熟な部分もある彼女たちは、妬みや小さなケンカもおき、感情のコントロールができなくなってしまう場合もあります。
さらに、日頃からの折り合いの悪さや、縄張り争い、戦争のときにどちらについたのか、など世代をまたいで続く争いごとが、普段寄り添って生活するコミュニティの中でいまだ根深く存在しています。家族やコミュニティでの根深く複雑な事情も入り込み、ことが大きくなれば、最悪のケースではその日アトリエが機能せず、生産がストップしてしまうこともあるのです。
アトリエ内だけでは解決できない大きな背景が、まだそこには横たわっています。