【連載】素材を知る旅〜真のラグジュアリーを求めて【全10回】

革はどこからくるの? 命をいただくことがエシカルか否かを考える前に

A Picture of $name 寺本恭子 2014. 9. 8

私はニット帽子のデザイナーなので、自分の作品に革をほとんど使用しません。でもシーズンによっては革ベルトをアクセサリーとして使用しますし、消費者としても靴やバッグでは、日頃から革にお世話になっています。

動物の革をファッションに使用することは、本来正しいことなのか? それとも間違ったことなのか……自問自答していた時期があります。あるエシカルブランドの商品を見ていたら、商品説明に「副産物の革を使用」と書いてありました。中身を食べる目的で殺された動物の革なら、捨てるよりは衣服に使用したほうが良いということですね。それは、そうかもしれません。また最近はフェイクレザー、フェイクファーの品質も高くなってきているので、全く使わないというのもアリかもしれません。

「命を食べる」ことの実際を、いっさい知らない私たち

では一歩進んで、「動物を食べる」という行為自体は、エシカルなのか否か? 非常に根源的で難しい問題なのは承知していますが、私なりに考えました。

Some rights reserved by Julian Dobson / Via Flickr

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もちろん、全くお肉を食べる必要はないという考え方もありだと思います。いまは、お肉の代わりになる食材もたくさん販売されています。しかしライオンがシマウマを食べるように、人間も一匹の動物として他の動物を食べるのは、しかたないことなのかもしれない、とも思います。古来から人間は狩りをし、動物を食して生き延びてきました。

しかし、本来のお肉の食べ方と現在のそれとは、何かが大きく違う気がするのも確かです。その違いは、「命を頂いている」ということを実感しているか否かの違いなのではないかと気づきました。

ヒトが自分で狩りをしていた頃は、否が応でも生きている動物を自分の手で殺し、死んでいく様を見届けていたと思います。それは重労働だったでしょうし、決して気持ちの良い行為ではなかったと想像します。でも、自分や家族が生き延びるために他の動物を殺し、捌き、そしてありがたくその命をいただいていたでしょう。

一方で、現在の肉のいただき方を考えてみました。私は主婦でもあるので、しょっちゅうスーパーの精肉売場に行きます。ステーキ用、しゃぶしゃぶ用、カレー用、ハンバーグ用……お肉はさまざまな形状にカットされ、きれいにパックされ、気軽に購入することができます。お肉を買い物かごに入れるとき、その動物が生きているときのことを想像する人がどれだけいるでしょうか? その動物が、殺される瞬間を思う人がどれだけいるでしょうか? 私は最近まで、考えてもみませんでした。そうです! 牛や豚が殺される瞬間、そしてどのように捌かれて店頭に並ぶのか、私たちは全く知らないのです!

お肉を食べることが善か悪かを考える前に、私たちも先人たちのように「動物を食べるために殺すということ」とはなんなのかを、頭で知るだけでなく五感で感じることが、まずは必要なのだと思いました。

東京都中央卸売市場食肉市場を訪ねました

小雨の降る秋のある日、私は品川駅前にある「東京都中央卸売市場食肉市場」を訪れました。通称「芝浦と場」と呼ばれている大きな施設です。ここには、毎日数百頭の牛と豚が運ばれてきます。その牛や豚は翌日にはここでと殺され、解体され、肉は競りにかけられ、市場に送り出されています。

入り口で、「中を見学できますか?」と聞くと、現在はできないとのこと。その代わり、資料館ならいつでも見学できますよと言われ、案内していただきました。大きなエレベーターに乗ると、うっすらとお肉の匂いがしてきました。

作業現場を見学できない代わりに、資料館で牛が屠殺されて解体される様子をまとめたDVDを見せてもらいました。驚いたのは、全ての工程でものすごくオートメーション化されていること。私の想像と全く異なる映像でした。

まず体を洗われて、大きなベルトコンベアーに乗せられた牛は、狭い通路に追い込まれ、機械によって一頭ずつ順番に額に何かを打ち込まれます。あまりに一瞬のことで、牛は悲鳴を上げる様子もありません。打ち込まれるのは弾丸ではなく細い針だそうで、これにより牛は脳震盪を起こし、大きな体が一瞬で硬直してしまうのです。死んでいるように見えますが、心臓だけは動いている状態です。すぐには殺さず、一度このような状態にすることで、直後の作業で血を抜きやすくするそうです。

この後はさすがに男たちの手作業です。眉間からワイヤーを差し込み、脊髄を破壊し、首の下の頸動脈をざっくりと切ると、そこからバケツをひっくり返したように、大量の血がドドドッと流れ出ます。そして逆さまに吊り下げられ、再びベルトコンベアーに乗って次の解体の行程に進みます。

次に牛たちは頭と手足が切り落とされ、皮剥き機できれいに皮を剥がされます。その後、その肉塊から内臓が取り出され、電動ノコギリで背骨に沿って縦半分に割られ、競りにかけられるのです。

それにしても、この職人さんたちの作業の素早さ、迫力には言葉を失います。肉体的にも精神的にも重労働の中、緩まない正確な職人技。食べるためのと殺ーーその昔、一家の主が家族のためにしていたことだったでしょう。分業が進んだ現代社会においては、この方々が代わりにやってくれているのだと実感しました。誰のために? そう、私たちがお肉を食べ、副産物として活用し、革としてファッションやインテリアを楽しむために。

Some rights reserved by Jamie Dobson / Via Flickr

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剥がされた皮は、主には海外へ

解体の行程の中で剥がされた皮は、腐らないよう塩漬けにされます。これらの皮はどこで鞣(なめ)されているのか尋ねてみると、なんと皮はほとんど海外に送っていて、そこで鞣しているそうです。

現在、日本国内の鞣し工場が少なくなっていることは知っていましたし、確かにその後に見学に行った国内の鞣し工場でも、海外から輸入された皮を鞣していました。そこで聞いたのは、わざわざ海外で鞣す理由は、第一に人件費が日本より安いこと。第二に、日本は排水処理の基準が厳しいということでした。日本で鞣すと、設備投資費も人件費を含めたランニングコストもかさむため、海外で鞣した革を輸入したほうが安くなるということなのでしょう。でも、世界中の海ってつながっていますよね……? と、個人的には思うことがたくさんありますが、これが現状のようです。

まずは自分の目で見て知り、感じること

このDVDは、小学生でも理解できるよう、分かりやすく明るく編集されています。それでも目をそらしたくなる場面もありました。もしも現場にいたら、相当な臭いもすることでしょう。

見ないことは簡単です。でも「目をそらしてはいけない」と、内なる声がします。動物の命をいただくことの善悪を考える前に、日々食べているお肉や素敵な革のバッグや靴がどこから来るのか……まずそれを「見て」「知って」「感じる」ことがとても大切なのだと、私は思っています。

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