アンティークファブリックは歴史の破片〜クチュールブランド「MIMI NEW YORK」

A Picture of $name Shiho Hasegawa 2014. 4. 21

そのコレクションは、ひと目見た瞬間に目を奪われる美しさで、時間や空間を超えて評価されるアートのよう。「MIMI NEW YORK」は、数世紀もの間歴史を受け継いできた、アンティークファブリックを使用していますが、彼女はそのアンティークファブリックを「古いアートの破片」だと呼びます。そこには、人の生活と歴史に対する深い敬意がありました。歴史は生きているーー歴史を手で未来へ受け渡そうとする「MIMI NEW YORK」のファッションに迫ります。

「Mimi New York」デザイナー・Mimi Proberさん。彼女のスタジオにて。

「Mimi New York」デザイナー・Mimi Proberさん。彼女のスタジオにて。

大切なストーリーとともに受け継ぎたいファッション

―― あなたがファッションを志した理由は?
アンティークやデコラティブアートなど、歴史ある芸術作品にはもともと興味があって、ミュージアム関連の仕事に就きたいと真剣に考えたこともありました。でも、歴史は生きているんだってこと、ストーリーを引き継いでいくことの大切さを、ファッションを通じて他の人に伝えていきたいという気持ちが大きくなり、アンティークな素材でクチュールを作ろうと思いました。

アンティークファブリックは歴史の「破片」

―― なぜ無駄がでないものづくりを意識し始めたのでしょう?
アンティークの生地は、「服」としては壊れてしまっています。しかし、その端切れにも美しさと歴史が変わらず残っていて、まさしく、歴史の破片だと思うんです。それを生かして服にしたいという思いがベースです。クチュールは通常、大量の生地を使ってどれだけ美しいものを作るのかということが重要になってきます。必然的にゴミの量も多くなってしまうのですが、私はどんなファブリックも、かけがえのない美しさを持つ宝物だと思っています。ほんの少しも「ごみ」にしたくないので、ファブリックの廃棄が出ないようなファッション作りを始めました。

―― どんなものやことからインスピレーションを受けますか?
私のコレクションはシーズンごとに何かにインスピレーションを受けているわけではありません。美術品と同じようなもので、画家や陶芸家の作品のテーマや哲学は、作品の中で一貫していますよね? 私のコレクションもそんな一貫性があるものだと思っています。

アンティークファブリックそのものからインスピレーションを受けることは多いので、いつも探していますね。アンティークファブリックは、それぞれストーリー持っていて、失われたアート作品のようなもの。そのストーリーを紡いでいくことで、歴史のつながりを感じることができると思っています。それから、自然の植物などからインスピレーションを受けることもありますね。

古材から作られた木版に描いているインスピレーションボードとデザイン画

古材から作られた木版に描いているインスピレーションボードとデザイン画

失われたたからものを再び見つけ出すように

―― どのようにファブリックを調達していますか?
アンティークオークションも行きますが、いつもしっかりとアンテナを張って個別に探しています。もちろん、ガーメントディストリクト(※マンハッタンのミッドタウンにあるアパレル関連会社の集中した地域)に行って、「○○をください」って言うのよりはたいへんかもしれません。でも、宝探しをするように、素材を探していくのがものすごく楽しいの。良いものが見つかったときは、埋もれていた宝を掘り出した気分ですね。17〜19世紀の本物のアンティークテキスタイルにこだわって探しています。アンティーク以外の素材に関しては、ハンドメイドのもの、シルク・コットン・リネンなど天然繊維を使うようにしています。

―― どのような手法を使って染めていますか?
私は、bundle dye (※野菜や植物を布に配置し、くるくると布を巻いて糸で縛り、染色する手法)という手法を使っています。染料は、花びらや木の葉、木の実類などを使って染めています。自宅の裏庭から採った花で染めることもあります。どのようになるのかは、染めてみないと分からないのがすごく楽しいし、仕上がりも美しいのでこの手法を気に入っています。

地域とのストーリーがあるファッションが私は好きです。ファッションは地域とのつながりの中で、手で育まれてきたもの。それを受けつないでいくうえで、自らも手を使い、地域とつながることは大切だと思います。

Bundle dyeを使用したドレス(NYFW Runway, Photographer: Udor Photography)

19世紀のシルクレースをBundle dyeで染めたドレス。18世紀の刺繍生地をあしらって。(NYFW Runway, Photographer: Udor Photography, Shoes: Zack Lo)

手で紡ぐことに意味がある

―― 具体的にはどのように作っているのでしょうか?
伝統的なパターンメイキングでは、大量の紙とモズリンを使うのですが、私の場合は紙もモズリンも使いません。私のドレーピングメソッドは、彫刻をするように、生地を1枚ずつ直にトルソーに当てています。ドレーピングから仕上げまで全て手縫いでの作業はたいへんですが、とても大事なことだと感じています。

―― どうして手縫いにこだわっておられるのでしょうか?
ただスケッチを描き、誰かに渡してパターンができ、工場で作ってもらうよりも、全て手作業で仕上げるほうが、自分のコレクションに対して強いつながりを感じられるからです。手仕事で丁寧に作られたテキスタイルや刺繍、クチュールには、関わった多くの方それぞれの歴史が詰まっていると思うんです。時間も労力もかかりますが、何世代にもわたって引き継がれていけるようなものを作ることに意味があると思っています。

(インタビューここまで)

Manufacture NYにて2014秋冬コレクションを発表した「Mimi New York」は、非常に高い評価を受け、今後も期待されているニューカマー。つながりを重んじる彼女は、次のコレクションでも確かにファッションの歴史を継承していくでしょう。

最後に、エシカルなクチュール作りはたいへんじゃないですか? と聞くと、「難しいことをするのが好きなんです。大変なんだけど、本当に楽しいの」と。自分のすることを愛すること、そんな愛情も感じました。

この記事のキーワード

Keywords

Sponsored Link
次はコチラの記事もいかがでしょう?

Related Posts