靴には詳しい材質表示が付いていない(※家庭用品品質表示法)。だから、多くの人はざっくりとした素材しか把握していないのではないだろうか? また、靴は複雑な工程をいくつも経て作られているが、その工程についてどのくらい知っているだろうか? 生活者にとって、何がエコな靴かそうでないかを考えるのは難しい。
一つ指標となるのは、その過程で使用される薬品に、環境または健康に悪影響を及ぼすものが使用されているかどうかだ。近年の研究によって、靴には下記4つの薬品が多用されていることが分かっている。そして国際環境NGO・Greenpeaceの「デトックスキャンペーン」は、中国での化学物質による水汚染をなくすことを求めており、18以上の国際企業がデトックスに取り組み始めている。それら企業には、Nike、Adidas、Puma、H&M、Zara、Levi’s、Uniqlo、そしてVictoria’s Secretが含まれている(ちなみに、生活者のみなさんも、「Fashion Manifesto」に署名することでこのキャンペーンをサポートすることができる)。それでは、4つの代表的な薬品を紹介していこう。
クロミウム
今や世界で生産される革のほとんどが「クロムなめし」でなめされている。これは約100年前にドイツで開発された技術で、もともとは軍事用の技術であったとも。クロム鉱石を利用してなめすのだが、「タンニンなめし」よりも手に入りやすく安価に大量に生産できるため、世界に広がった。さらに、クロムなめしの革はタンニンなめしの革と比べて火に強く、変色が少なく発色が良く、弾力性があり、硬い革も柔らかい革もなめすことができるという利点があった。
しかし、水に流すと水質汚染やサカナの体内に蓄積されていく(※参考)うえ、靴への残留も確認されている。革の製造に用いられるクロム鞣剤は3価のクロム塩で、毒性はほとんどないものとされているが、クロムが焼却により化学反応(酸化)を起こし、一部人体に有害な6価クロムに変化するので処分の際は注意が必要である。
フタル酸エステル類
ポリ塩化ビニル(PVC)を柔らかくするために可塑剤として添加されるフタル酸エステル類は、人体への内分泌攪乱作用が懸念されるようになり、規制が設けられている。しかし、「Consumer Council」が執り行った検査では、プラスチック製のサンダルや雨靴など28の靴のうち、15の靴でフタル酸エステル類が高濃度で検出されたと、香港の「南華早報」が報じた。
ノニルフェノールエトキシレート(NPEs)
ゴム用老化防止剤、酸化防止剤の原料として用いられるノニルフェノールエトキシレートは、GAPやAmerican Apparelなど、複数の大手企業のサンプルから検出がされた(※参考)。検出された量では着用にる直接的な健康被害はないものの、水生生物に対する有害性が心配されており、日本でも文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省等で、さまざまな試験・調査・解析が行われてきている。
フマル酸ジメチル(DMF)
防かび剤・殺菌剤・乾燥剤として広く使用されているフマル酸ジメチルは、2009年5月1日、EUで同薬品を含む製品の輸入が禁止された(EU指令:2009/251/EC)。革製の家具や靴の防かび剤として利用されているが、健康被害(皮膚炎)をもたらしているとされたためである。しかし、現在でも規制のない国の製品からは検出されており、オーストラリアではCouncil of Textile and Fashion Industries(繊維ファッション産業協議会)による試験の結果、サンプルのうち25%からこのDMFが検出されたと報道された。