【連載】我的上海的生活【全10回】

品質規格について考えてみる 〜JIS規格講習で生まれた矛盾から

A Picture of $name 斉藤 霞 2013. 4. 3
旧正月の風物詩ど度派手なディスプレイ

旧正月の風物詩ど派手なディスプレイ

你好! 旧正月が明け日常を取り戻しつつ一気に春めいている上海です。今年はお正月が2回来たようで(つまり忘年会シーズンも2回!)、なんだか不思議な感覚です。

私の上海生活も祝1年となりました! 近頃は2年目の目標を考えて、また何か新しいことにチャレンジしたいなと思っています。新しい目標を考える時期は、過去の自分を振り返り見つめ直す良い時期ですよね。でもやっぱり自分のできなかったことや苦手なことには目を背けてしまいたくなったり……。

「苦手」から目を背けてる……?

日本では何かと話題の絶えない中国ですが、3月の初頭には大気汚染の話で騒がせていました。メディアの相変わらずの過剰報道もありますが、確かに空気は悪いです……。小学校は、外での運動を停止しているそうです。私たちアパレル産業もこれにかなり影響を及ぼしているので、エシカルファッションを考えるにあたっても重要なポイントになります。旧正月の休みを利用して帰国した際に、これらに関するニュースを見て感じたことをシェアさせてください。

大気汚染は事実ですが、それには「MADE IN CHINA」に頼る日本をはじめ、世界中の国々が関係しているということを忘れていませんか? ということです。加熱する報道を見ながら、日本で暮らす人々の不安や不満を逸らすための報道のように感じてしまいました。中国政府が国民からの不満をそらすために反日を話題にしているのと同じように、みんな現実から目を逸らしたくて、互いの悪いところの突き合いを繰り返していく。それは中国人にとっても日本人にとっても何も良いことは生まれないように思います。もっと互いの良いところ、協力し合えるところに注目し、みんなで一緒に新しい世界を作っていきたいと思うのです。ちなみに、ホームセンターで働く友人がこんな話をしていました。「PM2.5対応マスクが大量に入荷したけれど、それらは全て中国製だよ」と。

品質規格に感じる矛盾

少し前ですが、職場で品質管理についての講習を受けました。日本の品質基準についてローカルスタッフの生産管理や工場スタッフにも深く理解してもらい、常に同じ意識を持って生産してもらうのが目的です。生地を染める段階で起こりうる問題、裁断・縫製時の注意点やボタンの付け方や、検品時の対応など、生産工程のあらゆる問題について取り上げられました(特に検針を重要視するお客さまは年々増加傾向にあります)。この講習の中で、私はある矛盾を感じました。結論の出ない話ですが、一つのアイディアとして聞いていただけたら幸いです。

商品の値段にかかわらず、色落ちがひどかったり、ボタンがすぐ取れてしまったり、縫い目がほつれてしまったり……そんな不良品を買ってしまうのは誰でも嫌な気分になりますね。そういったクレームを防ぐために、日本ではJIS規格を品質の重要な基準としています。我らが誇る日本の少し厳しい基準の甲斐あって、欧米諸国で売られている商品よりも品質が良いものが生まれているのです。しかし、このJIS基準があるためにデザインが制限されたり、使える染料や加工が絞られたり、そうして同じような商品が世に出てしまう原因にもなっていると思うのです。そんな制限がある中で、いかに売れる商品を生み出せるかと企画者サイドは日々試行錯誤を繰り返し新しいファッションを生み出していきます。

めちゃくちゃ空気悪そうな写真

めちゃくちゃ空気悪そうな写真

そんなJIS基準をある視点で見てみると、矛盾を感じてしまったのです。矛盾というよりは、「時代に合っていない」という感じでしょうか? JIS基準を守ることは「お客様にとって良いこと」でも「環境にとっては良くないこと」になっているのでは? と思ったのです。環境にとって良くないことは、結局のところ私たちにはね返ってくること……。宇宙規模で考えたらマイナスになると思うのです。

染色工程で出る排水というところで具体的な例を挙げてみましょう。染色の工程には、環境を汚染する原因が特にたくさんあります。とりわけ、排水量は看過できません。生地を染める下準備から実際の染色、ソーピングと呼ばれる余分な染料を落とす作業、色を定着させる工程、また最後に水洗い。染料の種類によっては、何度か同じ工程を繰り返したりします。もちろん、安い染料であればあるほど、工数はかさみます。JIS基準の染色堅牢度(さまざまな作用による変色や退色に対する対抗性の数値)をクリアするためには普通以上の工程が必要となり、つまりそれは排水の量も増えることになります。

この一連の作業でどれだけの水を使い、染料や薬品でその水が汚染されるでしょうか? 私は大学在学中テキスタイルを専攻していたので、授業の中で糸を染色し機織していました。そのとき、10L、20Lという大きな鍋で作業するのですが、私自身汚れた水をバンバン流していたのを思い出します。個人でやってもすごい量を流していたので、これが工場となったら毎日どれだけの汚染水を流すことになるのか想像がつきません。さすがに、それでは工場の周りが汚染されて生活できなくなってしまうので、工場排水には国で定めた制限があります。基準以上の排水をするようであれば、罰金を払うシステムになっています。

品質の「未来」って?

路上のお直し屋さん。自分で直したり、クリーニングではなく自分で洗ったりすることが一般的になると、品質基準に求められるものも変わるでしょうか?

路上のお直し屋さん。自分で直したり、クリーニングではなく自分で洗ったりすることが一般的になると、品質基準に求められるものも変わるでしょうか?

そんな中でもうまく管理と効率化を進めながら良い商品を作っていくためには、何かしらの「ルール」が必要なのは言うまでもありません。現在、それを果たしてくれているのがJIS基準ですが、これからはエコな染料を指定したりなど、もっとエシカルなルールが加えられてもいいんじゃないかな? と考えました。汚染水を浄化する装置を考えたりとか、なるべく水を使わずに染められる染料の開発だったりとか……です。
 
品質管理の講習を受けながら、私の頭の中はそんなことを巡らせてモヤモヤとしていました。とにかくまだまだ結論は出ません。エシカルファッションについて考え出したらきりがありません。そんなふうにいろんなことをいろんな視点から考えながら生活していく人が毎日一人でも増えて、その思いや考えを共有しながら少しずつカタチにしていきたいです。

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