形を変えることで、新しく紡ぎ出される思い出もある「LOOP CARE」で古着を仕立直しませんか? 〜リシュラ・浜口緑さん

A Picture of $name 鎌倉 泰子 Photography: Courtesy of LOOP CARE 2018. 2. 24

H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME&EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引してきた鎌倉泰子さんが、気になるブランドを訪問。その魅力やものづくりに迫ります。

今回訪ねたのは、一風変わった「仕立て直し」の企業さん。「LOOP CARE」というサービスは、お客さまから持ち込まれた思い出の服を、ただ新しい服に作り変えるのではありません。思い出をとっておくためのアルバムや日傘、愛犬のお洋服に、カードケースやジッパーシェルフなどに仕立て直し、新しいかたちでそばに置いておけるよう提案しています。


お客さまから持ち込まれた生地から作った傘の例。



持ち込まれるのは、古着だけでなく、お客さまの思い出。その話に思わず涙が流れることも……。ビジネスを立ち上げた浜口緑さんに話を伺いました。

ママ目線で始まったリサイクルビジネスが進化するまで

鎌倉: 早速なのですが、社名の「リシュラ」がきれいな響きだと思ったのですが、どういう意味なんですか?

浜口緑さん(以下、浜口): パリから2時間くらい行った南フランスに「リール・シュール・ラ・ソルグ」という小さな村があります。人口は少ないのですが、毎週末の蚤の市には、村の外からもたくさんの人が集まります。そんな、「小さくても楽しい、人が集まってくる場所になるといいな」という思いをこめて、その村の名前を最初、店名にしたんです。長すぎるので、2カ月後には「リシュラ」に短縮したのですが……(笑)。

浜口 緑(はまぐち・みどり)/(株)リシュラ 代表取締役社長
医療関連の仕事から結婚出産を機に専業主婦へ。1993年から子ども服専門のリサイクル店「コモド古着百貨リシュラ」の店長を務めた後、2004年に(株)リシュラを設立し代表取締役に就任。現在は、5つの実店舗と、ウェブ店舗3店を展開中。古着を通して育んできたことを、ビジネスの原点と捉え、商品・サービスの提案に取り組んでいる。

鎌倉: 「LOOP CARE」を始めるまでの浜口さんのキャリアを教えていただけますか?

浜口: もともと、小売業の経験もありませんでしたし、会社も、ある企業の一事業部として始まったもの。結婚して子育ても少し落ち着いたところで仕事に復帰し、子ども服のリサイクルビジネスの立ち上げに関わることになったのが始まりです。その会社の会員は、母親の方が多かったのですが、「子ども服はすぐ着られなくなってもったいない」という声が多くて始まった事業でした。持ち込まれた子ども服を買い取り、状態の良いものを販売する、というのが大きな流れです。そこで店長を10年勤めた後、独立して、代表取締役となりました。

鎌倉: 子ども服のリサイクル販売に始まり、「古着リメイク」「贈りもの」と、展開が広がりました。まず、それまでの流れは?

浜口: 1993年以降、「リシュラ」を立ち上げるまでの10年は、世の中が大きく変化しているのを常に感じていました。インターネットが普及し、顔が見えない個人どうしのつながりが増えていったのがまず一つ。その流れの中で、インターネットオークションがリサイクル業界の主流のチャネルの一つになり、「リサイクルだけでは競合がどんどん出てくる」と、思っていました。
その実、まず仕入れが難しくなってきたんです。リサイクルビジネスは仕入れが命。「なにかやり方を変えていかないといけない」と考えていたとき、「じゃあ、自分たちで作ればいいのでは?」という話が生まれたんです。そこで、古着のきれいな部分を使ったリメイク商品をショップのオリジナル商品として販売することにし、そのタイミングで独立することになりました。

リシュラ 初期のオリジナルリメイク商品の一例。

鎌倉: じゃあ、みなさんで、「これとこれを使ってこういうものを作ろう」と、デザインやアイデアを出し合って作りはじめた、ということでしょうか?

浜口: そうです。「バッグが欲しい」「子どもにこれでなにか作って欲しい」など、お客さまの声を聞きつつ、自分たちのアイデアを盛り込みながら、一つずつ作っていました。売れているアイテムの色のバリエーションを増やしたり、好評だったアイテムの色やサイズ展開を増やしたり……。慎重に、丁寧に商品を増やしました。

鎌倉: 時代的に、まだまだ「リメイク」というのが浸透していない頃だったように思います。

浜口: 立ち上げた当初は、市場もなく、地方ゆえに情報が少なかったので、「リメイクってなに?」「リフォームの会社?」と、質問されるような時代。「リメイクをどうお客さまに説明すればいいのだろう?」というところでまず悩みました。
また、リメイクの価値を理解して買ってくださる方もいるのですが、商品を手に取って「ここはこういうやり方で縫えばいいのね。私もやってみよう」という声を耳にすると、特に考えさせられました。「私たちは〈手作り商品〉のお店をやっているのか? それともリメイクの『価値』をお客さまに伝えるビジネスをしたいのか?」と。そこははっきりしなければいけないと思いました。

リシュラ 初期のオリジナルリメイク商品の一例。

鎌倉: 完成度を問わなければ、「手作り」に価値があるという提案をしている商品は、いまも昔もありますが、作る工程と手間に価値を置いている商品ではない、ということでしょうか。

浜口: そうです。リメイク商品を販売しながら、実際に商品を買ってくださったお客さまに尋ねると、半分以上の方がプレゼントとして購入してくださっていることが分かりました。「ここでしか買えないものなら、大切なお友だちに私の気持ちが伝わる気がするので」「お世話になっている職場の方が退社されるので、いましか買えないものをお渡ししたくて」というようなお声が多かったので、「なら、これを主要な『切り口』にすれば分かりやすくなるのでは?」と思ったんです。
そこで、「古着のリメイク」や「時間をかけた手作り商品」という打ち出しから、「思いを伝える贈りものをお届けするショップ」と提案したら売上が伸びていきました。

鎌倉: ちなみに、いま会社はどういったメンバーで運営されているのですか?

浜口: リメイク商品に関しては、企画・生産・開発は、専門知識がある者が担当しています。営業はまた別に部門を設けています。全社で41人いて、女性が中心。男性は2人だけなんです。半分くらいが家庭があったり子育て中の女性。一番年上の者は60代。彼女は「リシュラ」が始まった頃から働いており、いまも開発チームでサンプルを作ったりしています。また、外部に約100人の職人さんのネットワークを持っています。

鎌倉: それはすごいですね。専門的な話になりますが、ある程度まとまった数量が発注できるまでは、内製のほうが価格を抑えられるから社内で頑張って作る……というメーカーさんもあります。一品番を小ロットずつをあえて外部に依頼しているというのは、どういうしくみでやっているのですか?

浜口: たくさんの方に少しずつ作ってもらっています。いろんな人のアイデアや技術を借りることで、一つの商品でも100ものパターンを作れるからです。その中でも売れ続けていったものは、おかげさまで最近は生産が追いつかなくなってきたので、一部外注に出すようになりました。
リメイク商品は古着の生地を使うため、既製品のように一度にまとめて裁断する、などはできません。1点ずつ色合わせをしたりと、どうしても手間がかかります。そうした部分を社内で担うことで、超小ロット・超多品種のしくみづくりができました。
ただ、作る商品の数は、一品番あたり10〜20個。1商品を100個作るのは私たちの戦略に合っていません。その希少性がお客さまに喜ばれるポイントでもありますし、いつ来ても新しいものがある、楽しいお店の表情が作れます。

鎌倉: でも、なかなかそれを理解してくださる工場を見つけるのは難しいと思います。最初の反応はいかがでしたか?

浜口: 最初はほぼ「できない」と断られてしまいました! 普通の女性が、女性のことを思って企画していて、手間やしくみを最初から考えていたわけではないので、「このひと手間がすごい面倒。内職仕事のレベルだから工場ではできない」と言われることも多かったです。そこを何回もお願いしつつ、継続していけるよう、工場といっしょにやりやすい方法を考えながら改良してきました。でもしだいに、「しょうがないな(笑)」と、無理を聞いてくださることもあって、とてもありがたいです。

→Next:形を変えることで、新たに思い出が生まれる 「LOOP CARE」とは?

この記事のキーワード

Keywords

Sponsored Link
次はコチラの記事もいかがでしょう?

Related Posts