“世界一まずいお菓子”と、大いに不本意であろう呼び名のフィンランドのキャンディー「SALMIAKKI」。そのまずさの原因は、アンモニウムを含むゴムのような香りにあるとされる。また、紅茶やハーブティーは、味そのものがおいしいというよりも、それらから立ち上る香りが心地良いことに、親しまれる理由がある。
香りはただ気分を良くするものではない。食を通じて、「香りのある生活」を広めたい −−香りがいかに生活を豊かにするか注目し、その魅力を伝えているのは、ファッション業界では「佐々木みみお」との愛称で親しまれるコンサルタント、佐々木康裕氏。ファッション、ライフスタイルなど幅広いアンテナを持つカリスマディレクターだ。
同氏が手がける「Parfums d’ Epiceries(パルファム ドゥ エピスリー)」では、食料品も香りの一つと捉え、香りにこだわった食材を使い、コーヒー、紅茶、日本茶を主に展開している。
「生活に寄り添う香りの文化を創造する」という佐々木氏に、香りの力と可能性について尋ねた。
TOMORROWLANDでメンズ事業部を立ち上げるほか、プロデュースを行ったTOMORROWLAND渋谷本店の成功を経て、現在、コンサルタント・佐々木康裕氏が提案しているのは、“香りのある生活”だ。
「香りを楽しむ」というと、ルームフレグランスや香水、アロマテラピーなどがすぐ思いつく人も多いかもしれない。しかし同氏が「香り」を日常的に楽しんでもらう入り口として考えたのが、「食」だった。
だから、「Parfums d’ Epiceries」は、あくまで“食料品”のコレクション。紅茶やコーヒーをはじめ、「食」という身近な存在が、生活を彩る「香り」であることをもっと感じてほしい −−現在、フルラインナップを展開する銀座G6、2階にあるSIXIEME GINZAには、さまざまなハーブやスパイスをブレンドしたお茶やコーヒーが並ぶ。
服から生活のあり方へ
同氏が「香り」にたどり着くまでの軌跡は、およそ日本のファッションの成長とともにある。
北海道で生まれた佐々木さんは、小学生の頃から地元のデパートに買いものに行くほど、大のファッション好き。
同氏が高校生のときに、雑誌『POPEYE』が創刊され、アメリカ西海岸のカルチャーが日本を席巻。「フリスビーやスケートボード、『NEWBALANCE』など、いままで見たことがないものが一気に入ってきた」と、佐々木さんは当時を振り返る。
雑誌でオシャレな雑貨や、アクティビティが紹介されるようになった。そういうものを見ながら、「服だけじゃなくて、カップなど、ふだん使うものもオシャレなほうがいいな」と、思って。時代も、ただ装うだけじゃなくて、「どう生きるか」「どう楽しむか」ということが、人々の関心ごとになっていった頃だった。
大学進学のために上京後は、雑誌を片手にショップを巡る日々。少しずつ買い足しながら、服だけでなく、自分にとって心地良い部屋や空間を作り上げることが楽しかったという。その頃から、将来は空間やお店を作ってみたいと漠然と考えるようになっていたとも話すが、大学を卒業する頃にはすっかり、ライフスタイル全体、「日々関わるモノ」へのこだわりが育まれていた。
TOMORROWLANDに入社したのは、同社のライフスタイル全体を提案する姿勢に共感して。折しも、新業態として「GALERIE VIE」が登場したタイミングだった。
「GALERIE VIE」は当時では先進的なショップでした。雑貨や本、カフェも併設されていて、生活全体を提案する空間になっていました。TOMORROWLANDのオーナーは、早くからヨーロッパの文化に触れていて、ただ服を作って売る、というだけでなく、「心地良い生活」ということにすごく意識のある人でした。時代を先取りしすぎて、こういう業態はなかなか苦労することになるのですが、そんなオーナーの価値観にすごく共感して、入社を決めました。
マーチャンダイザー、バイヤー、ディレクション……ファッションに関するありとあらゆる仕事を担当しながら、オーナーとともに、ライフスタイル全体を提案する空間づくりを模索してきた佐々木さん。渋谷にあるTOMORROWLAND本店は、その集大成だ。
佐々木さんが考えたコンセプトは、ファッションのセレクトショップなのに、1階に洋服を一切置かないこと。代わりに、さまざまな雑貨や、シガーなどの嗜好品、写真集などの本を置いた。
1階に並べるさまざまなものの中には、もちろん「香り」にまつわるものも。
香りという文化に触れて、もっと日本で普及させたい、と。日本は香りについてはまだまだ後進国。ヨーロッパは生活の中で自然と楽しんでいる。「香りのある生活」を伝えていきたいと思った。
→Next:香りのある生活をを提案するための「食」。「Parfum d’Epiceries」のねらいと、佐々木氏が考える香りの「これから」。
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