木や貝、鹿角など自然の素材で作られた、個性的で強いパワーを感じるジュエリーに出合いました。ブランド名は「su Ha(スハー)」。静かに呼吸を繰り返しているような有機的なジュエリーで、2017年秋の展示会で初登場しました。
自然にあるものそのものの姿を生かした「su Ha」のジュエリーは、“未完成”のままで完成しているようなプリミティブな美しさがあります。
「su Ha」のデザイナー・伊藤陽子さんは、素材にフォーカスして「自分が身につけたいと思うジュエリーを作っている」と話します。そんな伊藤さんのジュエリー作り、自然素材ならではの難しさを伺ってみました。
シンプル&ミニマルな人生哲学
伊藤さんは、筑波大学の芸術専門学群で立体造形を学び、大手ディスプレイ会社に勤務後、特注家具工房を共同設立。ずっと木の素材と向き合ってきた人です。
現場の仕事が好きで、手を動かし実寸で試作を重ねられるものづくりがしたいと始めたのが「su Ha」だそう。
「『su Ha』を通じて、さらに素材を生かしたデザインを突き詰めていきたい」と語る伊藤さんの生き方は、究極にシンプルでミニマルなものでした。
時を重ねるごとに、シンプルに生きたいと思うようになりました。極端にいえば、人生の終わりには、トランク一個で生活しているのが理想。家具のデザインをしていた私にとって、トランクに入るくらいの小さな表現が、同じ木の素材でジュエリーをデザインすることでした。
人生のステージが変わるたびに、より自由に、身のまわりをシンプルにしながら、生きていく……。そんな考えを持つ伊藤さんが生み出すものも、家具からジュエリーへとミニマルに変化していきました。
自然のほのかな香りに包まれるジュエリー
「su Ha」のデザインの根底にあるのは、そんなフィロソフィーだけでなく、母方のおじいさまが京都の指物職人だったことも土台になっているそう。
母はなにも語らなかったのですが、遠い記憶は残っています。家の二階の仕事場に上がると、カンナなどの道具が置いてあり、木の香りがフワッとしたんです。離れて暮らしていたし、幼い頃の経験ですが、私のものづくりには、祖父の影響も感じています。
ピアスを身につけると、肌に当たるような違和感はありません。むしろ、温かく滑らかで柔らかな触り心地やほのかな香りに、知らず知らずのうちにリラックスしている自分に気づきます。
そんな魔法の秘密は、使用される素材。
ジュエリーの素材には、北海道の鹿角や久慈の琥珀、伊豆のサザエ、隠岐の島のアワビ、高知のサンゴなどの珍しい天然素材が。しかも全て国産。
こうした鹿や貝などのユニークな素材には、木の現場を通じて巡り合ったそう。
私が使っている素材は、それぞれ森や海で生まれて成長し、命をつないできた素材です。5年かけて、いろいろな国内外の現場をまわりました。その地域の歴史や、素材と共に生きる人たちの営みから感じ取ったこともジュエリー作りに生かしています。
“無作為”を生み出す徹底的な“作為”
ジュエリーは、デザイン〜素材のセレクト~製材業などの加工、と各段階、チーム作業で作られています。
素材のセレクトでは、2mm以上の厚みが必要なアワビの貝がらや500g超の特別なサザエのふた、鹿角では太さや色を吟味すると、使えるのは100本に1本ほどという厳選ぶり。加工段階では、素材の持つクセを読み取り、職人の技によって0.1ミリ単位の正確さでカタチが揃えられています。
伝統的な螺鈿細工は落ち着いた光沢がある貝の内側を薄く加工して使いますが、「su Ha」では殻の厚みはそのままに、貝の外側を磨き上げて、隠れていた力強い光沢を引き出しています。加工もデザインも最小限で、人為的なものにならないようにしています。
伊藤さんは、それぞれの現場の職人さんを尊敬しているからこそできる、妥協のない、難しい提案を重ねているのかもしれません。
貝や木も、どのように素材を切り出すかで、表面に出てくる柄の表情が全く異なるもの。素材ありきのデザインでは、一つひとつの素材に向き合うことこそ、インスピレーションにつながる重要なプロセスです。
しかし、日本の職人さんが、日本の素材から離れてしまっているという問題も。
海外から大量の木が輸入され、効率重視で製品が作られるようになって、素材の持つクセを使いこなす職人的な技術がなくなりつつあります。いま、木は山ではなく、海から来ると言われているくらいです。
簡単に安く手に入るものが主流の中で、伊藤さんのデザインや提案をカタチにしてくれる人を探すことすらたいへんだそう。
いま「su Ha」の周りに集まるのは、新しいものづくりのおもしろさを楽しんでくれる人たちばかりと、伊藤さんは言います。
人と自然、それぞれが持つ神秘が、「su Ha」をかたちにするのかも。
スタイリストとしては、日本で採れた素材は、やっぱり日本人の肌色に馴染みやすいような印象。気候地理風土と木肌や貝の明るさが連動する−−その土地ならではの生きものと、素材としての特徴の関係性にも、不思議を感じます。
自然の素材は、とても人間の力では作れない、ものすごく神秘的なものだと思います。人にも自然にも時を超えて命がつないできた必然の美しさが宿っています。そんな生きものの力を感じてほしい。
シンプル&ミニマルなフィロソフィーを持つ伊藤さん。そのとおり、年を重ねるごとに、あらゆるものを削ぎ落としていった先に残る、“生きてきた証”のような強さ、進化してきた生物の強さ、生きようとする力強さ。そんな本質的に生物が持つ力強さが、「su Ha」を身につけたときに感じる安心感なのかもしれません。
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