H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME&EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引してきた鎌倉泰子さんが、気になるブランドを訪問。その魅力やものづくりに迫ります。
今回訪ねたのは、樹脂の中にヴィンテージのパーツをぎゅっと詰め込んだ独特なジュエリーを作る「RUKA」の増子晴香さん。
ヴィンテージの切手やパーツ、好きなものをずっと眺めていたいんだけど、どうしたらいいの……? そんなお気に入りをいっぱい集めたお部屋から羽ばたいたような「RUKA」はいまや大人気。
2004年のブランド設立以来、初のインタビューをお届けします。
鎌倉: 中にモチーフを入れた樹脂のアクセサリーは、だいぶポピュラーになりましたが、この「ぎゅうぎゅう詰め!」感が、ほかと違うとすぐに感じました。ほかは中に「1個しか入ってない」。でも「RUKA」は「わぁ、なんかいっぱい入ってる!」って。でも、ジュエリーを学んでこられたというわけではないんですよね。それまではどんな活動をしていたんですか?
増子: 学生時代は4年間、ファッションショーの演出家のアシスタントをしていて、イヴ・サン・ローランやクリスチャン・ディオールなど、超・ビッグメゾンのオートクチュールのショーの裏方です。卒業後は、アッシュ・ペー・フランスに入社して、インポートのファッション雑貨のバイヤーアシスタントをしていました。
鎌倉: 10代でショーのバックヤードの緊張感の中に身を置く勇気がすごい!
増子: やっぱり私にとっても貴重な時期でした。入社して2年ほどたった頃、その演出家の師匠が「あと1年で引退する」という連絡があり、「彼の仕事を最後まで見たい!」と思って。迷った挙句、アッシュ・ペー・フランスは退社し、師匠の最後の1年にご一緒させていただきました。
鎌倉: きっと貴重な経験だったと思います。でもそこからジュエリー作りに至ったのはどういった経緯で?
増子: 師匠の最後の1年が終わって、どうしようかなと思っていたら、友人に「なにかうちでイベントやらない? アクセサリーとか作れないの?」って声をかけられたんです。
鎌倉: いきなりの展開! きっとご友人は増子さんのセンスを感じていたのですね。そこに、増子さんの前向きな姿勢が一致した結果ですね。演出の仕事で海外を行き来している間に、ヴィンテージのものに触れる機会があったのが、作風のきっかけですか?
増子: 合間に蚤の市に行くことはありましたけど、特別な興味があったわけではないんです。ただ、お洋服もアクセサリーも考えられないような豪華なものを見ていて、それは根底にあると思います。
鎌倉: 当時は全く違う作風でしたよね。
増子: 一番最初はただ自分が着けたいものを作ろうとだけ思っていました。日本にはない珍しいもの。でも、その頃の私の収入でも買えるような高すぎない値段で、着けると楽しい気分になるかわいいもの、です。試しに作ったらすごく売れて、急にまとまったお金が手元に飛び込んできて……。びっくりしました。
鎌倉: でもやはり、いままでの経験が自然に実になっていったように感じます。
増子: そうかもしれません。アッシュ・ペー・フランスでは、アクセサリーを売るとき、例えばリングが売れるからといってリングばかり並べるのではなく、一緒にネックレスやピアスも並べて売り場を構成しなくてはいけないことを学んでいたので、ちゃんとまとまったコレクションを作ってみようと思いました。恐る恐るでしたが、口コミで広まっていって、「自分しか作れないものを作って、それが売れるって楽しいな」と、思いました。
秋葉原で生まれた「自己流」 その難しさ
鎌倉: いまの作風に変わったのはどうしてですか?
増子: 私はスノードームが大好きで、旅行に行くたびに買って、いろんな土地のものを集めているんです。100個以上あるんですよ! それで、【気に入っているけど壊れてしまったもの】や【使い道がないけれど大事にしているもの】を、スノードームに入れられないかな、と考えたのがきっかけです。錆びるからスノードームは無理ですが、樹脂の中に入れて固めてしまえば、新しいものに生まれ変わるし、ずっと眺めていられるし、さらにアクセサリーにしたら持ち歩けるし、良いなって思ったんです。それで、大きいバングルを最初に作りました。ブランドを始めて2年くらいたった、2006年頃ですね。
鎌倉: もしよかったら、どうやって作っているのか教えてもらってもいいですか?
増子: 「キャスト」と呼ばれる方法で作っています。ゴム型で型を作り、そこに樹脂を流し込みます。その途中でパーツを入れるんですけど、奥行きや高さを出すには何層かに分けなくてはいけないので、パーツ、樹脂、パーツ、樹脂……と何回かに分けてやります。固まったら型から抜いて、コーティングした後、磨きます。
鎌倉: たくさんの工程がありますが、1つずつ全部お一人でやっているんですか?!
増子: はい。最初はどうやったらいいか分からず、秋葉原に行って、店員のおじさんに聞いて作りました(笑)。
鎌倉: 東急ハンズでもユザワヤもなく……(笑)。
増子: そっか! 秋葉原しか思いつかなかった(笑)! プラモデルやフィギュアがあるから、なにかあるんじゃないかと思ったんですけど……。ほかに相談できる人も思いつかなかったので、店員のおじさんに聞いては見せての繰り返しでしたけど、みなさん親身になって教えてくださって、ありがたかったです。
鎌倉: 自分でイチからやり方を作ってきたんですね。いまも、お一人で作ってるんですか?
増子: はい。朝から晩まで、1年中作ってます! 自己流の技法なので、職人さんにお願いできないんです。全国の業者さん100軒くらい連絡して、「工賃がいくらかかってもいいので!」って頼み込んでも、「いくらくれても無理!」って言われちゃいました。
鎌倉: 全部違う角度や重ね順で、一つずつ指示できないですもんね……。パーツを買い付けて、どの時点でデザインを決めるんですか?
増子: パーツを最初にテーブルの上の並べた時に、どのパーツを1番下にするかという事から、最後に乗せるパーツまで一度に全て決めてしまいます。だから頼めないなと思っていたんですが、最近、私の熱意を理解してくれる優しい方に出会えました。ふだん樹脂を扱っている職人さんではないんですけど、「そんなに言うならやってみようか……」って、言ってくださって。
鎌倉: イチから自分で編み出してきた難しさ、ですね。最近編み出した、新しいテクニックなどはありますか?
増子: テクニックというのか分かりませんが、チェーンが扱えるようになりました。チェーンは動きがあるので、液体の中でカーブをつけて並べるのが難しいんです。だけど、チェーンをうまく扱えるようになってから、デザインのレパートリーが広がりました。
ヴィンテージパーツの買い付けのこと
増子: 買い付けに行く国はだいたい決まっていて、10カ国以上行っています。レンタカーを借りて田舎のほうまで行くときもあります。一番多いのはアメリカで、主に東海岸です。ヴィンテージアイテムの大きな展示会があるんです。
鎌倉: アメリカ? ヨーロッパが多いのかと思ってました。いろんな人、物が集まる国だから、チャンスや出会いを大切にしているのかな。
増子: アメリカは、アンティークやヴィンテージに関わる人にフレンドリーな人が多くて、仕事も早いので取引もとてもスムーズなんですよ。
鎌倉: アメリカで売られるヴィンテージパーツは、アメリカ製なんですか? それとも、ヨーロッパから持ち込まれたものなんですか?
増子: 私が買うのは比較的新しいもので、主に40年代から70年代くらいのコスチュームジュエリーやそのパーツが多いです。あとは1890〜1920年の「ヴィクトリアンジュエリー」というのも集めています。これはイギリス由来のものも多いですね。古くて貴重なのはヨーロッパのものが多いです。それらを組み合わせて使っていて、アクセサリーそのものを買って、解体して使うこともあります。
鎌倉: ヨーロッパのヴィンテージパーツは、アメリカのものとは違うところはありますか?
増子: 素材や、色使いなど、ヨーロッパは国ごとに得意だった技術が違いますね。例えばガラスなら、西ドイツの50年代のものや、チェコが良いですね。でも、なんだかんだでフランスのデザインはかわいい! 繊細で華奢で、フランスのパーツを使ったものを好まれるお客さまが多いですね。
鎌倉: この後、やってみたいことはありますか?
増子: いつか海外の展示会に出たいです!
鎌倉: 「自国にあったものが、こんなふうに生まれ変わっているんだ!」、という驚きと、日本人の仕事の丁寧さと量を見ていただけるのではないでしょうか。ヴィンテージやアンティークは、その国の文化、ひいては政治的な要素も残したもの。それを他国のものと自由に組み合わせるというのは、異なる宗教に比較的寛大なところがあり、戦争の後に一気に他国の文化が流れこんできた日本の人だからできることかもしれませんね。
増子: そうかもしれません。逆に、テーマや国別で作るのもいいかも。その時代や場所ならではのものもありますから。景色を閉じ込めるのもきれいだろうな。あとは、カフリンクスなどのメンズアイテムを広げていきたいですし、インテリア雑貨にも挑戦していきたいです。このトレイも人気なのですが、置いてあるだけでもかわいいですよね。
鎌倉: この技術のパイオニアでもありますし、可能性を考えるとキリがないほどですね! あと、持ち込みはどうでしょう? 最初の増子さんのように、「使えないけど持っていたいパーツ」を、増子さんに預けて、なにか新しいものに閉じ込めてもらえるとか! 「何カ月待ちでもいいから欲しい!」という人はきっといます。
増子: それいいですね! やりたいやりたい! ゆくゆくはお店を作って、お客さまのお話をじっくり聞きながらいろんなものを作ってみたいです!
(インタビューここまで)
いまの作風になってからもう11年。その間で作りたいものは変わらず、それを正確に実現する方法を自ら学び続けてきた増子さん。同じものは作れないわけですから、その手を止めることはできないんですよね。
迷っている時間はない! 好きなものを集め続けて生きていく。FaceBookやinstagramの投稿も、女性らしくてカラフルできらきらの増子さん。お話を聞いたらほんっとーに大変そうだけど、ちょっと憧れちゃいました!
コメントを投稿するにはログインしてください。