同じ素材もここまで変わる?! デザインの力でエクアドルの可能性を引き出す「NadeNa」のアクセサリー

A Picture of $name Saika Takemura 2017. 8. 25

エクアドルから届く「NadeNa(ナデナ)」のアクセサリー。いわゆる古紙を使った「アップサイクル品」ですが、一目見ただけではそんな雰囲気はこれっぽっちも感じません。

(提供:NadeNa)



実は「NadeNa」、日本デビューを果たすまでに驚くほど大きな進化を遂げていたのです。

今回、その劇的大変身の立役者であるデザイナー・小松桂こまつ けいさんにお話を伺いました。

初代「NadeNa」はいまと全く違う姿だった

日本のほぼ真裏、南米大陸に位置するエクアドル。そんな遠い国から海を越えてやってたのが、アクセサリーブランド「NadeNa」です。

エクアドルは、中南米諸国中、最初に女性議員を輩出したり、2014年には政治における女性の活躍度で世界39位をマークするなど、大陸の中では女性の活躍が著しい国(*1)

しかし格差が大きく、多くの貧しい家庭では女の子たちが稼ぎ頭。路上で野菜やお菓子を売るほか、家事も引き受け、一日10時間も働くそう。それでも得られる金額はごくわずかです。

働くために学校を辞めてしまう子も少なくなく、女の子たちの識字率は低いまま。より良い稼ぎを求めても、働き口がないため、貧困から抜け出しにくい社会構造があります。

そんな中、女性たちを支援すべく1991年から活動を続けるNGO・CENIT。「NadeNa」は、女性たちの職業訓練の一貫として、アクセサリーづくりを始めたことから生まれました。

(提供:CENIT / NadeNa)

小松さんが「NadeNa」と出会ったのは、2013年。エクアドルを支援する友人に、「どうにかして日本でこれを売ってくれないか」と、相談を持ちかけられたのが始まりでした。

しかし、それを見た小松さんの正直な感想は、「これは売れないよ……」だったと言います。

その頃の「NadeNa」は、アジアのビーチなどでよく売られている民芸品のような、粗野な印象のものでした。女性たちのセンスで作っているものでしたが、「美的感覚が違う」としかいえなかったですね……。

初代「NadeNa」。

確かに、日本のアクセサリー市場では勝負しにくいデザインであることは否めない印象。

しかし小松さんは、次のようにも思ったそう。

少なからず、ポテンシャルは秘めていると直感で思ったんです。あとは、自分たちのやり方しだいだ、とも。だから、CENITが受け入れてくれるようであれば、デザインを変えれば売れるのではと思ったんです。

そこで、デザインやロゴも変え、大きくリブランディングすることにしたのです。

「NadeNa」の軌跡

いまの「NadeNa」は、オリジナルからは想像できないほど大きな変化を遂げました。しかし実は、作り方はむしろ簡単になったというのが驚きです。

初代「NaDeNa」は、雑誌などの不要になった紙から、同じ形を何枚も切り出しては重ね、糊付けして作られていました。複雑なかたちに切り抜かれたものもあり、けっして簡単な作業ではありません。

その厚みはおよそ0.5cm。いったい何枚もの紙を切り出しているのか……とにかくでき上がるまでに膨大な手間と時間がかかるものでした。

ただ切り出すだけではおもしろみがなかったので、シンプルな図形に統一してコラージュすることに。それを樹脂でコーティングするだけ、というシンプルな作りになりました。

コラージュ用に切り出された古紙。

使用する材料は同じ。作る手順や必要なスキルもむしろ簡単になっているのにもかかわらず、こんなに垢抜けて変わってしまうなんて、まるで「大学デビュー」ならぬ、「日本デビュー」!

また、新しいデザインに合わせ、店頭で目立つパッケージもデザイン。

これはどちらかというと、日本で店舗に送るときに商品が傷つかないようにって意味もあるんです。最終的にお客さまに届けるときにB品になっしまったら意味がない。過剰包装という意味では「エシカルではない」という方もいますが、作るほうに負担が掛かりすぎるのもエシカルではないですよね。

パッケージを変えたことで、売れ行きもだいぶ伸びたとも。遠いエクアドルと日本をつなげたのは、デザインの力でした。

「NadeNa」の課題と今後

大きなデザインの変更に、抵抗があるかと思いきや、現地で働く女性のみなさんは、できるまでの作業工程も簡単になったため、すんなり理解をしてくれたのだとか。

現地で指導する小松さん。(提供:NadeNa)

CENITに参加するママ。作ったコラージュ作品といっしょに。これを切り出してピアスにする。(提供:NadeNa)

しかし、だからといって安定した生産が見込めるわけではないのが課題だと、小松さんは続けます。

エクアドルで働く方々にとって、自分たちが紙で作ったピアスが先進国・日本で本当に売れるのか……と、半信半疑でした。

売れ行きに合わせて生産すれば、もちろん自分たちの収入になるのですが、女性たちにまだそのしくみのイメージもついていないため、「自ら機会を逃している」という状況ですね。

CENITで行われるさまざまな学習プログラムもあり、女性たちがアクセサリーづくりに励む時間も限られているそう。ほかにも、注文どおりの商品を作るという基本的な仕事の意識も育っていないなど、生産体制を整えるための壁はまだまだ厚いのが現状です。

日本の反応を、いかにエクアドルの働く女性たちに伝えるかということを最近は考えています。

と、「NadeNa」の広報を担当する佐瀬智美さん。

「売るチャンスがあるのに、売れない」 ーーそんなもどかしさは、繰り返しコミュニケーションを取っていくことでしか改善できないことでもあります。

小松さんは、週に1回。どんなに少なくても2週間に1回は、エクアドルとスカイプで会議をしているそう。

(提供:NadeNa)

繰り返し説明をしたり、現地の様子を聞いたり、対話を重ねながら、小松さんとエクアドルの取り組みは、早くも5年が経ちました。

デザインを考え、現地を指導し、コミュニケーションを取りながら関係性を深めていくこと。「なにが僕を突き動かしたのか、正直分かりません」と、振り返る小松さんですが、決して簡単なことではないことではないはず。

なぜ、続けてこられたのかと尋ねると、「なんだかんだ、感情移入をしてしまったんですよね」と、はにかみながら答える小松さん。

「NadeNa」が売れることで生活できている人たちのことを考えると、やりがいは感じます。長期的にやっていれば、今後(社会にも)変化があるのかな、とは思います。

今年の春からは、コットンパールをあしらった新作も登場。また、現在はピアスのみの展開ですが、今後はイヤリングタイプなども増やしていくそう。

デザインの力。それは、ただエクアドルと日本をつなげるだけでなく、エクアドルの女性たちの未来を切り拓いているのです。

NadeNa

【website】http://www.nadena.ac/index.html

※1……UN Women, http://lac.unwomen.org/en/donde-estamos/ecuador(2017年7月参照)

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