新潟県阿賀野市今坂地区は、昔は笹神村と呼ばれていた場所。名前のとおり、良質な竹に恵まれていたことから、300年ほど前から竹籠づくりが盛んでした。残念なことに、プラスチック製品など安価なものが出回るようになってから、いま商いとして竹籠づくりをしているのは「横山工業株式会社 小林ミドリ竹籠店」一軒だけ。
同店は、花入れやランプシェードなど、伝統の技術を生かしながらも現代の暮らしにマッチするラインナップが豊富。
今季は、涼しげでこれからの季節にピッタリなバッグが新しく登場しました。プロダクトデザインや商品のプロデュース、ブランディングを手がける梅野聡さんとのコラボ作品です。
「民芸品なので、使ってもらうために作られていて、頑丈ですよ」と話す、代表取締役である小林和也さんにお話を伺いました。
屋号にもある小林ミドリさんは、竹細工作家。繊細な籠目が特徴的な作品は、どれも美しく素敵です。
平成26年12月にミドリさんが亡くなってからは、現在60代の娘さんお二人がミドリさんの竹細工の技術をいまに伝えています。
ミドリさんのご両親も竹籠づくりを生業にしていました。地区に伝わる技術で、ものを持ち運ぶ素材として、里山の身近にある竹が利用されました。
ミドリさんは、とくに創作意欲が強い方だったそう。ある竹久夢二の冊子の表紙に描かれた絵に、竹籠を持っているものがあったそうです。それをミドリさんが、見よう見まねで作ったのが、この「夢二籠(ゆめじかご)」です。
小林ミドリさんデザインの竹籠からランプシェードまで、いまでも全てオールハンドメイド。
現在、14のライナップがありますが、これまで、「りんご籠」「お茶道具入れ」など、用途の名前でしか呼ばれていなかったそう。しかし、2016年1月のパリで開催されたインテリア見本市「Maison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)」に出品することになり、それぞれモデル名が付けられることになりました。
阿賀野市を知ってほしくて、白鳥や秋桜、桜、菖蒲、蛍など、阿賀野市ならではの自然を感じるネーミングになりました。
その色から、特に象徴的な美しい名前がつけられたのが、新作である組色籠の「緋連雀(ひれんじゃく)」と「孔雀(くじゃく)」。ミドリさんから受け継がれた、新しいものを取り入れる精神で誕生した梅野聡さんとのコラボ作品です。
私たちの商品は、「民芸品」ですから、実際に使われなくては意味がないんですね。ファッションより、使い方をデザインできる方を探して、梅野さんにお願いし商品化していただくことになりました。
肌に触れるレザーの断面などは、滑らかな処理に。両開きができるジップ。持ち手やショルダーの長さをMとLサイズの展開にするなど、「実際に使う」という機能性のために、まずバッグのディテールから決めていったという小林さん。
ほかにも、使いやすい工夫が随所になされています。
「緋連雀」は、女性が使いやすいようiPad®が入る大きさに。「孔雀」は、A4サイズが入る大きさで、オフィスにもオーバーナイトにも使えます。
取り外し可能のレザーと帆布のインナーバッグが5色ずつあるので、25通りのバリエーションがあり、自分の好みにカスタマイズも可能。「緋連雀」のインナーバッグを手づくりしてみたり、巾着にしてみても楽しそう! 竹の色やレザーの色は、使う度に深い色合いに変化していきます。
また、なるべく、地元のメーカーとも仕事をするようにしています。飛行機の部品を作っているメーカーがあって、籠のフレームに強度を出すため、竹よりの三つ編みの芯に、そのメーカー製のアルミを入れています。そうすることで、強度も増し、お直しもできるようになりました。
アルミは軽くて、持っていてもまったく負担に感じません。
さまざまな試行錯誤の末、ようやく完成したのは、構想から2年経ってからでした。
予約販売が始まったばかりで、7月1日から本格的に販売されます。意外な反応は、男性からの予約があったことだそう。ほかにも、さまざまなリクエストがあり、割烹屋さんからは「ワインクーラーは作れないか?」と尋ねられたとか。
今後も、お客さまの声を反映しながら使い勝手を良くしていき、ひと段落したら、また新しいものを作りたいという小林さん。完全オーダーメイドのお客様に合わせた竹籠バッグなども検討しているそう。
ミドリさんは、99才で亡くなる直前まで創作意欲が衰えず、新しいものを生みだそうとしていました。その気概を見習っていきたいと思っています。
そして、なによりも阿賀野市を知ってほしいですね。阿賀野市の竹が、どんな
風 に吹かれていたのか感じてほしい。素材の竹に触れて阿賀野市の風を感じていただけたらと思っています。
ちょうど、今年も7月1日から竹を取りに山へ入り、作業が始まります。竹を4つに裂き、削って、1カ月日干した皮が原材料に。そして、8月からまた商品づくりが始まります。
昔のものづくりは、自然のサイクルに合わせ、身近にあるものを利用して行われてきました。山は荒れることもなく、恵みに満ちていました。
阿賀野市で作られるバッグから、彼の地に吹く風を感じるよう。情景が目に浮かび、心がはっとしました。
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