【連載】いいかげん選書【全13回】

【最終回】山で遭難したら出会いそうな本

A Picture of $name 大野真司 Illustration: anne imai 2017. 6. 28

突然街中に出現する本屋・劃桜堂かくおうどう」の大野がお届けする、すこぶるいいかげんな本の紹介。

いつの間にか、日常に「本」が忍び込んでくる……。

©anne imai

現代を生きる人々は悩みが尽きない。

中でも、近年大きな関心が寄せられているのが生活習慣病である。

生活習慣が発症に深く関与していると考えられている疾患には、高血圧、脂肪異常症、糖尿病、山で遭難などがある。

日頃のコレステロール値を抑えないと、一度入った山から出られなくなるのである。

日本において生活習慣病患者は約1,000万人といわれている。つまり1,000万人が山で遭難する可能性があるということだ。

では、食生活を改善し、タバコや飲酒を控え、睡眠時間をしっかり確保すれば、この問題は解決するのだろうか。

ネットで検索したとこと「生活習慣病は遺伝する」と書いてあった。

どれだけ本人が気をつけたところで、山での遭難は避けられないかもしれない。

しかし遭難するのも悪いことばかりではない。普段とは違った出会いや発見があるからだ。

そういうわけで山で遭難したら出会いそうな本を紹介する。


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ぼくの死体をよろしくたのむ

川上 弘美(著)、小学館、2017年02月

よろしく頼む!」と言われると、だいたいろくでもない注文がついてくる。

「今日は残業よろしく頼むな!」とか「道頓堀に飛び込む例のあれ、よろしく頼むな!」とか、「まあこれくらいならお願いしても大丈夫だろう」というちょっとした無茶振りが飛んでくる場合が多い。

しかし何事にも例外はある。本書はどうだろうか。

僕の死体をよろしく頼む

…………。

完全にアウトである。JK風に言うと「まぢむり。。。」だ!

本書はSFともファンタジーともいえない不思議な短編集である。

「一晩、一緒に過ごしてください。お金は払います」と言ってくる女性や、「以前お世話になってた」父親の旧友(?)の女性を年に2回訪れる少女などなど。

小説には答えがなく、山で遭難したかのような気分になる。

しかし解釈を求めて彷徨う時間も、また楽しいものだと思い出させてくれる。

山で遭難するときには心強い一冊である。



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疲れすぎて眠れぬ夜のために

内田 樹(著)、角川書店、2007年9月

山で起きるアンラッキーなことランキング第3位は、遭難すること。第2位は、熊に出会うことである。

そして、栄えある第1位は、山で遭難したうえに、熊に出会うことである。

熊には人を襲う熊や、赤い服を着てハチミツを食べる熊がいるが、最も恐ろしいのは、寝不足のときに目元に現れるタイプのクマである。

私はいま、朝方7時に一睡もせずに本稿を書いているが、「くまに出会うととっても怖い! わー!」や、「くまにクマがあるとまるでパンダだ!」といった、著しく知能指数の低い文章しか思いつかない(※いつもである)。

今回ご紹介するクマ本はこちら『疲れすぎて眠れぬ夜のために』。

今回はあえて内容の紹介は伏せておくが(※寝不足による手抜きでは一切ありません( ˘ω˘ ) スヤァ )、眠れないから読んでみようと手に取ると、おもしろすぎて逆に眠れなくなり、クマを目元に飼ってしまう。

山で見かけたときには読み耽ってみてはいかがだろうか。


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世界の廃船と廃墟

水野 久美(テキスト)・アフロ(写真)、青幻舎、2017年2月

人生とは選択の連続である。

学校に行くかお布団でスヤスヤ眠るか、
読書をするかTwitterを見るか、
就職をするか本屋さんをつくるか……。

それは全てあなた次第である(ちなみに劃桜堂は、全て後者である)

山で遭難したとき、あなたは「こんなことなら海に行っておけば良かった」と思うかもしれない。

そんなときに「海もそんなに甘くないで( ˘ω˘ )」と、やってくるのが本書『世界の廃船と廃墟』である。

連載最終回にして初めて本屋さんっぽいことを言うが、本は、必要なときに、向こうから自然とやってくるものである。

本書は写真集で、解釈は特に人それぞれだと思うが、「迷い込み、時間が経ち、それが当たり前になること」がテーマではないかと思う。

常識に向かっていくことを「迷い込む」とは言わない。

迷い込んだ先に、しがらみに囚われないあなたの「当たり前」が待っているのではないだろうか。

本連載は今回で最終回です。1年のご愛読、誠にありがとうございました。

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