H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME&EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引してきた鎌倉泰子さんが、気になるデザイナーを訪問。対談を通じて、その魅力やものづくりに迫ります。
今回訪ねたのは、およそ20年にわたってスタイリストやバイヤーに愛され続ける「KAMISHIMA CHINAMI(カミシマチナミ)」。モード好きなら誰でも知る?! 「KAMISHIMA CHINAMI」ですが、実はファクトリーブランドの先駆けとして始まったそう。
デザイナーのカミシマさんの片腕として、ともに約20年駆け抜けてきた
18年のデザインの移り変わり
鎌倉: デザインでいえば、特徴的だったストリングス使いやベルト使いが、以前より少なくなった、という感じがしますが、どうでしょう?
沼田: すごく多い時代ありましたよね(笑)。アクティブな女性像が多かった頃です。その頃から比べると、細かいディテールやテクニックではないところに、カミシマの興味が移ってきて、たしかに表現方法が変わってきましたね。原型を留めないようなコーディネートをするコレクションを作っていたときもありましたが、時代とともにシンプルな方向へ変わってきたと思います。
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04SSコレクションより(提供:KAMISHIMA CHINAMI)
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鎌倉: 女性デザイナーには、ライフステージによって作るものが変わっていくことがありますが、カミシマさんはなにかご自分の生活が変わったり、年齢を重ねていったことによって生まれた変化みたいなことはありましたか? 10年以上続けてきて、なんとなく落ち着いてきたとか、ファッションそのものについて考え方が変わったとか、チャレンジ精神の方向が違ってきた、とか。
沼田: 以前は、テクニック的な追求をデザインに反映させていくことが多かったのですが、『いまの時代にお客さまの気持ちに寄り添えるものはなんだろう?』ということが反映されるようになってきています。
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鎌倉: コーディネートやセットで買うお客さまと、単品で買うお客さまはどちらが多いんですか?
沼田: それについては、うちの大きな特徴でもあるんですが、『以前買ったものに合わせたい』といって、新作を買ってくださるお客さまも多いです。長く着て下さっている方が本当に多いんです。
鎌倉: 「買い足していく」ということですね。以前購入したものが新鮮に見える。その結果、大切に長く着ていただけるようになるんですね。
沼田: カミシマの色を選ぶ目や考え方の根底は変わっていないと思います。時代とその時代を生きる人たちの気持ちを反映はさせるけれど、そのときだけで終わってしまう服は絶対に作りたくないと、カミシマをはじめ、僕たちみんなが思っています。トレンドが大事ではないということではないんですが、「年代感」「年齢感」が分かる感じにはしたくない。
鎌倉: ランウェイやルックブックを拝見すると、個性的な重ね着も多く、着こなすのが難しいと感じられる場合もあるかと思うのですが、その点ショップのスタッフの方はどうやって販売につなげているんですか?
沼田: 分かります(笑)。でも、ハンガーに掛けて一つずつ見るとそうでもなく、普段の洋服に合わせやすいものも多いんです。バイヤーさんも、強いインパクトの写真を見た後に1着ずつ見て生地に触ったりすると、それを感じてくださいます。天然の繊細な素材であったり、やさしい雰囲気のシルエットだったり。
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16AWコレクションより(提供:KAMISHIMA CHINAMI)
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沼田: ただ、それもあって、2005年に「KAMISHIMA CHINAMI」「KAMISHIMA CHINAMI YELLOW」という、2つのラインに分けたんです。
コレクションラインでは、テーマやデザインを探求していく表現で、モードを提案しています。それに対して「YELLOW」はいわゆるセカンドラインではなく、お客さまが持っているデニムに合わせたり、カジュアルなコーディネートに取り入れることができるものを作ろうということで始まりました。お客さまにイメージと着方の自由を委ねています。『このダウンをこういう生地で作ってみよう』とか、『使い勝手の良いカットソーを作ってみよう』とか、弊社だけしかできない実験と自由があります。
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「KAMISHIMA CHINAMI YELLOW」16SSコレクションより(提供:KAMISHIMA CHINAMI)
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消費者の目は本当に肥えたのか?
鎌倉: これからさらに変わってくることはありそうですか?
沼田: いままでコレクションラインと「YELLOW」の2つで1つの世界を表現していたのですが、16年SSから「yoriori(ヨリオリ)」というブランドを弊社から発表しました。2つのラインの中から派生させたブランドで、「異素材の組み合わせ」「製品染め」ということにこだわったものです。シーズン毎にアイテムがどんどん変わるのではなく、丈や色のニュアンスでのリモデルはありますが、基本的には全て定番と言っていいものです。
鎌倉: ショップにとっては「売れるもの」。お客さまにとっては「ずっと着たい、色違いも欲しいもの」を、年中揃えられるということですか?
沼田: はい。個性的なものでも定番使いできるような、作るほうも売るほうも長く付き合える服を作ろうというトライアルでもあります。ただ、ファンをもっと増やそうとか、売上をもっとあげようとして、『アイテムは充実してくるけどブランドの個性が薄くなる』、というようなことは避けています。
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2016年から発売の「yoriori」コレクションより(提供:KAMISHIMA CHINAMI)
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鎌倉: すごい大事だと思います。若いデザイナーさんから『もっと売れるようにするにはどういったアイテムを作ったらいいか?』と、聞かれることがありますが、だいたい止めます(笑)。ブランドのイメージが定着した後に発表することで、初めて「新しいもの」として目に映り、売れていくと思います。
沼田: どこも言うように、最近はお客さまの目も厳しくなっているんだなと思います。価格はもちろん、機能性も問われます。いかに正当な価値を伝えられるか、以前より難しくなりました……。
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鎌倉: 『消費者の目が厳しくなった』っていわれますけど、実は私、『実際はどうなんだろ?』って、思ってるんです。少子高齢化、非正規雇用などで、お財布の紐が硬くなるのは当然。でも、みんながみんな、実際に自分の目と肌で質を判断しているわけではないんじゃない?、と。目が肥えているというよりは、いろんな情報があることで、逆に「決断力が低くなっている」という感じがします。
沼田: 鋭い(笑)。そうかもしれません。
いま、ファッションはどう進むべきか?
鎌倉: 私は現場から離れてしまっているので分からないのですが、どんな感じですか? モノ消費からコト消費に価値を見出す人が増えてきているというのは分かります。ショップで気持ちの良い時間を過ごすことが、商品の価値を上げている。これから先、モノがどんどん売れなくなってくる、と言われていますが、どうやってその中を進んでいくのでしょう?
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沼田: どこで力を出し、誰に見ていただけるのかをしっかり考えていかなくては、と思います。うちは、ブランドを長く続けてきて、買ってくださるお客さまのタイプは、いまも昔もあまり変わりません。華美ではないけれどでも、良く見るとどこかにこだわりがある方が多いです。
ブランドとしては、その時々で販路の選択や挑戦していかなくてはいけませんが、真面目に、きちんと自分たちの足で立って、より良いものを作りながら進んでいきたいと思います。でも、お客さまを大事にすることと同時に、新しいお客さまにブランドを知っていただく方法は、時代によって変わってきますよね。
鎌倉: ファッションというと、『時代とともに過去になっていくものにお金をかける』というイメージで、興味がない人の中には、お金の無駄、なぜそれを仕事にするのか? と考える人もきっといますよね。
沼田: 衣食住の「衣」でしかない。必要ではあるけれど、無駄なものもある。ただ、店頭に立っていると、お客さまが本当に喜んでくれる瞬間、この服が本当にお客さまの心を明るくしたんだな、と感じる瞬間があります。そんなとき、この仕事をやっててよかったな、と思います。誰かの気持ちを豊かに、生活を楽しくするお手伝いをしていると思えて、喜びとやりがいを感じますし、誇りに思います。
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沼田: カミシマもファッションそのものよりも、社会情勢やそういったことに興味があるのではないでしょうか。そこを表現しなくてはいけないと思っているし、ファッションはそういったことに関係ないようで一番関係があるじゃないですか。自分たちが生きている社会がどういう状況にあるのか、で選ぶものも変わってくるものですよね。
鎌倉: それが「共感」ですね。作る側と、選ぶ側。『いま、どんな気分か』、そして『そこで自分はどういたいのか』。
今日はファッションと、そうでないもののつながりに触れながら、とても楽しいお話を聞くことができました。どうもありがとうございました。
(インタビューここまで)
よくブランドづくりに使われる「こんな人に着て欲しい」「自己表現」という考え方とは別なものから生まれるティスリーのチームワーク。形のおもしろさの裏には、理由と気分、見えるものと見えないものがある。そんな「KAMISHIMA CHINAMI」が、ますます好きになりました。今年の夏は、17SSコレクションから朱赤のワンピース(※本文中写真)をすでに買ってあるので、暑くなるのが楽しみです。……って私、これを書いているいまはインフルエンザなんですけどね!
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