ベルリン発 コーヒー“かす”でできた、軽くて、丈夫で、おいしい(?!)「Kaffeeform」のコーヒーカップ

A Picture of $name Rie Watanabe 2017. 1. 12

世界で消費量が増え続けているコーヒー。年間消費量第3位を誇るドイツのベルリンに、コーヒーを淹れ終えた“かす”からコーヒーカップを作るスタートアップがある。「Kaffeeform」の創業者であり、プロダクトデザイナーのJulian Lechner(ジュリアン・レヒナー)がこのアイデアを思いついたのは、留学先のイタリア。商品化までに5年を費やし、何回でも洗って使え、保温性に優れたコーヒーカップを完成させた。原料はなんと、ベルリン中のカフェやレストランで使われたコーヒーの“かす”。ベルリン発、エコでクリエイティヴな「Kaffeefrom」のコーヒーカップを紹介する。


(提供:Kaffeeform)

コーヒーの“だしがら”を使ってなにかできないか?

きっかけは2009年、イタリアでプロダクトデザインを勉強していたときのこと。日常的にコーヒーを飲む機会が多い国で過ごす中、コーヒーを淹れ終えた後の“かす”がどうなるのか気になった。

「Kaffeeform」創業者/プロダクトデザイナーのJulian Lechner。「Kaffeeform」を扱うベルリン・ノイケルンのコーヒーショップ「Isla Coffee」で話を聞かせてくれた。

「全部、捨てている」。聞いてみたバーでこう言われた。

なにかできないか? 留学最後の年、フードデザインのプロジェクトに取り組むことになり、このアイデアをかたちにすることに。

目指したのは、コーヒーと直接つながりのあるプロダクト。

コーヒーを飲むたびに、コーヒーもリサイクルできることを感じてもらえるものを作りたかった。

そこで思いついたのが、使い終わったコーヒーかすでコーヒーカップを作るというもの。

課題の耐久性。鍵は「接着剤」

数回しか使えないコーヒーカップではリサイクルの意味がない。耐久性があり、長く使えるカップを作るため、専門家の協力を得ながら実験を繰り返した。

5カ月目に最初のモデルが完成するも、コーヒーを1杯飲んだだけで崩れてしまった。鍵は、かすを固める接着剤。衛生的に安全な材料を使う必要があり、当初は溶かした砂糖を原料にしていた。

しかし耐久性に加え、砂糖が溶け、コーヒーが甘くなるという課題もあった。

身近にできるローテクなアプローチからハイテクに変えたことがブレイクスルー」とJulianさんは語る。自然原料を使い、中に浸透しない接着剤の開発に成功した。

(提供:Kaffeeform)

耐久性と、完成後に分かった3つの特典

接着剤の開発から2年、ついにコーヒーカップが完成。2015年の販売開始から1年以上が経つが、「壊れた」という声はまだない。食洗器を使うことが一般的なドイツ。カップはレストランやカフェでも使われているため、家庭用に加え、使用回数が多くパワーの強い業務用の食洗機にも耐えられる。

実は、商品が完成するまで予想できなかった特典が3つある。それは、強度、保温力、香り。「嬉しい副産物」とJulianさんは話す。

目指すデザインを追求したら、落としても割れないものができた。これは、カフェなどで使われる商品としてとてもプラス。一般的な食器は、割れたら掃除や取り替えが必要だけど、「Kaffeeform」のカップは、洗えばまた使える。

保温性は、当初から持たせたいと考えていたが、使用している材料が熱をより保つ効果を持つことが分かった。カップ自体がコーヒーの熱を奪わず、陶器に比べ熱が逃げないそうだ。

コーヒーカップに顔を近づけると、コーヒーの香りがする。Julianさんが当初からこだわっていたのが、コーヒーを飲む1回1回がエコにつながることを思い出させる「リマインダー」の機能だった。

香りは、大切な体験の一部。カップが届いたとき、より香りがするよう、発送にはコーヒー豆が入っていたバックを使っている。

(提供:Kaffeeform)

コーヒーカップづくりが生むダイバーシティ

一つのカップが作られるまでは約5週間。原料となるコーヒーのかすは、ベルリンのカフェから提供されている。

集められたかすは、ドイツの南と西にある二つの作業場で、1日かけて乾燥させた後、小さな球型に作り変え、プレッシャーで溶かしてカップの形になり、ベルリンに戻ってくる。

カップが消費者に届けられる工程では、障がい者の人たちが活躍している。きっかけは、フランクフルトでのデザインフェアで、障がい者の雇用支援を行う団体との出会いだった。

ちょうど「Kaffeeform」のビジネスが大きくなり、どうやって雇用を増やしていくかを探っていたとき。同じベルリンを拠点にしている偶然も重なり、「一緒になにかしよう」とすぐに持ちかけた。

現在、梱包・発送作業を委託している。これがビジネス、そして障がい者への雇用提供の両面でモデルとしてうまくいっているとJulianさんは語る。

初めから、障がい者や社会に良いことをしたいわけではなかった。スタートアップでは、チャンスがきたときにすぐに反応して行動すること大事。この団体とのパートナーシップでは、異なる文化的背景を持つ多様な人たちともつながれるので、新しいアイデアが出てくるチャンスもある。

2017年夏には、ドイツ国外でも買えるように

2016年の夏からカプチーノサイズのカップが商品化され、カフェでのニーズも増えてきた。現在、取引先は、ベルリンを中心に、オランダやノルウェーなど8カ国30店舗以上。日本では、インテリアのコーディネートとコーヒー関連のプロダクトを販売する「Brass Coffee Bases(東京)」で取り扱っている。2017年夏には、個人顧客からの海外発注にも対応していく予定だ。

ただ、「体験」を大事にしたいJulianさんは、購入前にカップを見たり、使ったりできる、直接売る場が欲しい。そのパートナー探しがいまの大事なステップという。

今後、国際的な展開も含めビジネスをどう大きくしていくかを考える中、大事にしているコンセプトがある。

地元ベルリンから広めていく。コスト削減が可能であることはもちろん、市単位で取り組めるモデルとして確立できれば、ドイツのほかの市や海外で展開していくことができる。

「Isla Coffee」に並ぶコーヒーカップ。

プロダクトデザイナーとして新商品の開発にも取り組みたい。

僕が一番やりたいのは、タンブラー。2017年から、ベルリンでは持ち帰り用の紙コップに課税がされ、今後もっと環境への意識が高まるはず。ベルリンは、トレンドに飛びつく人が多い。大都市で流行はやると話題になるので、ほかの街にも影響を与えられる。

ベルリンなどドイツのコーヒーショップで広がっているデポジット制のテイクウトカップ。次回来店したときに返却すると返金されるシステム。

日本をどう見ているのか? 印象を聞いた。

この記事を読んだ人が、「買いたい」って思ってもらえると嬉しい。日本人は、良いデザインを好むから、Made in Germanyの価値観に魅力を感じてもらえると思っている。

日本の長い歴史や伝統的な文化の中に「エシカル」はあるはず。自分たちがすでに持っている背景を見直せば、自然と質の良いものを選ぶようになる。

そういった選択が増えていけば社会を変えることにもなるから、一人ひとりの行動がいずれ大きな変化につながる。

Kaffeeform

【website】https://www.kaffeeform.com/

インタビュー通訳:江崎絢子

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