アフリカデザインの世界流通を目指す「Maki & Mpho(マキエンドムポ)」は、経営・ビジネスのバックグラウンドを持つMaki Nakataと、テキスタイルデザイナー・Mpho Muendaneが創業したデザインブランドだ。
これまでアメリカで活動してきたが、日本での事業基盤をつくるため2016年6月、東京にも拠点を置いた。11月末には、デザイナーのMphoが初来日。二人の出会い、デザインやテキスタイルの魅力、「Maki & Mpho」が目指す世界などを聞いた。
ビジネスとデザイン、それぞれのバックグランドを武器に
MakiさんとMphoさんが出会ったのは2013年、アメリカのボストン。アジアや日本でブランドビジネスに携わっていたMakiさんは、起業のため留学し、大学院で国際経営を学んでいた。
アフリカファッションをEコマースで広めたいというナイジェリア人と出会い、アフリカ人やアフリカ系ディアスポラの若手・振興デザイナーを中心に、新しいクリエイティブの世界が広がっていることを知った。
そんな中、知人にMphoさんを紹介され、意気投合した。
歴史的・構造的な理由で世の中に広まっていない価値を、誰もやったことのない手法でチャレンジし、多くの人に知ってもらいたいという思いが同じでした。デザインのストーリーや、デザインそのものを通じた「アフリカの視点」を、Mphoのクリエイティブな表現を通じてブランドにしていこう、と。私はビジネス、彼女はデザインというお互いのバックグランドが補完的だったことも決め手の一つです。
彼女と会う前に、アフリカの伝統的なカンガやワックスプリントなどを使って、同じようなデザインを作るファッションデザイナーやブランドをたくさん見てきました。独自性がないと、「アフリカの布が好き」な人以外の層も巻き込んで、持続的に成長していくのは難しいだろうと思っていたので、オリジナルで柄を作れることは圧倒的に強いと感じている。(Maki)
テキスタイルデザインの魅力
インタビューの日に、Makiさんが首に巻いていたスカーフもMphoさんの作品。彼女のデザイン手法は、哲学的なストーリー、手書きのモチーフ、幾何学的なデザイン要素、そしてPhotoshopやIllustratorなどでのデジタル加工のコンビネーションから生まれる。
これは気に入っているデザインの一つ。ヤモリ(Leopard Geckos)をモチーフにしています。アフリカの家庭で育つ中、「人生の全てのものに価値を認め、リスペクトしなさい」という教えを受けました。アフリカの大地にはさまざまな生きものが存在していますが、ヤモリのような小さい生きものにも敬意を払うことを、忘れがちになってしまう。それを、このデザインで伝えたいと思いました。(Mpho)
南アフリカ、ザンビア、モザンビーク、タンザニアにルーツを持つMphoさん。南アフリカで活動家としてアパルトヘイトに反対し、難民として移住した両親の下、アメリカで生まれた。
12歳のときに、アパルトヘイトが終了し、両親と一緒に南アフリカへ。高校生のときにデザインに興味を持ち、高校卒業後はグラフィックデザインの学校へ進学。勉強する中で、もっと手触り感があるデザインをやりたいと思ったのが、テキスタイルデザインの道に進むきっかけだったという。
テキスタイルには、感情を表現することもできるし、色づかいやパターン、プリントによって人の生活を明るくできる可能性があると気づきました。
テキスタイルは歴史が長く、日本の布はもちろん、どんな文化の中にも存在しています。ファッションやインテリア、アートなどとの親和性も高いし、受け手が自由に想像し、解釈することができます。実際に触ってみて「これはなんだろう?」と考えたり、会話を生んだり、トリガーになる。汎用性と可能性のある、力強いツールです。(Mpho)
Celebrating Individuality
――「Maki & Mpho」が目指すこと
「Maki & Mpho」がアフリカのデザイン流通を通して実現したいことは、人びとが異なる文化を超えて信頼関係を構築することだ。デザインを通じて、違うものに対する共鳴・共感を人々の中に生みたいと願っている。
さまざまな文化的背景を持つMphoさんと同じく、Makiさんも帰国子女の経験をはじめ、これまで異文化の中で過ごし、自分のアイデンティティと向き合ってきた。
アフリカのデザインは、ブランドとして重要な要素。ただ、私たちの共通の考えは、究極的には自分自身や自分たちの個性こそがカルチャーだということ。それを「celebrate=認める」するブランドでありたいと思っています。(Maki)
もっと個性や自分の可能性を受け入れ、発揮する人が増えることは、同時に他者のアイデンティティも受け入れることにもつながる。多様性が生まれるきっかけになるというのが、二人の思いだ。
デザインには、まだ知られていない文化や価値を伝えたり、それらへの偏見をなくす力があると、Mphoさんは話す。
言葉で説明すると伝わりにくくても、ヴィジュアルであれば親近感を持ち、もっと知ってみようと思ってもらえます。ほかの人との会話やディスカッションを生むこともできます。
私は、常に「Problem Solving(課題解決)」をするデザイナーでありたいです。見た目が綺麗なだけではなく、機能を持たせること。ビジュアルに妥協せず、みんなが欲しいと思うものの中に、どう実現できるかがテーマです。そして、自分にしかできないユニークなことをやりたいという思いもあります。これが自分のカルチャーやルーツを大切にし、発信していくことにつながっているからです。(Mpho)
アフリカのデザインがメジャーになっていない理由の一つは、アフリカ大陸やアフリカ人自身にあると、Mphoさんは指摘する。「もっと一つの集合体としてまとまり、『声』をグローバルコミュニティに発信していかなければならない」。そのために必要なのが、誇りを持つことだと彼女は語る。
まだ存在するアフリカに対する偏ったイメージを解消してきたいです。「プリミティヴ(原始的、発展していない)」ではなく、デザインを通して違った視点を伝えたい。いま、アフリカの現代デザインが盛り上がりを見せているので、アフリカも西洋も体験した私自身がアウトプットする「Maki & Mpho」のデザインを通じて、新しい視点を知ってもらいたいです。(Mpho)
また二人は、アフリカ人がプライドを持つうえで、グローバルな発信の機会を提供し、起業家精神を育むことも重要と考え、南アフリカの文部科学省と大学と連携して、学生デザイナーの人材育成を行っている。プログラムでは、テキスタイルデザインのプロセスや、学校で学んだことを、どう事業展開やキャリアに結びつけるかをサポートしている。
こういう機会は、南アフリカの大学環境ではまだまだ少ないようです。将来的には、彼らのような若手デザイナーを雇用してデザインに広がりを持たせ、ブランドとして大きくなっていきたいです。(Maki)
日本のものづくりとのコラボレーション
課題を持つものどうしを組み合わせることで新しい可能性を
いま、兵庫県の播州織物を扱うメーカーと、クッションカバーやスローなどに使うインテリアファブリックを共同開発している。きっかけは、ブランドとして良いものを作りたい、日本のものづくりとなにかできないかと考えていたときに参加した、日本デザインの展示会「ジャパンブランドフェスティバル」だ。デザイン会社シーラカンス食堂の小林新也さんと出会い、播州織物の紹介を受けた。
話を聞くうちに、播州織物もアフリカデザインと共通した課題があることに気づいた。その課題とは、歴史的な背景から一定のイメージがつき、本来の価値が伝わっていないために、流通が限定的になっている点だ。
播州織物はチェックやストライプなどのイメージが強く、本来持っている高い価値と質を発揮できていませんでした。繊維産業全体に言えることですが、流通量が落ち、アジアの安価なテキスタイルに取って代わられ、生産者も生産量も激減しています。
同じ課題を持つ二つを掛けあわせることで、新しい価値を見せることができるのはないかと思いました。先染め織物をユニークな新しい柄で表現することで、その可能性をもっと伝えられるのではないかと期待しています。(Maki)
今後、グローバルブランドとして、ヨーロッパと日本マーケットで同時展開を狙う「Maki & Mpho」。
世界観やストーリーを伝えたいので、ポップアップショップやオンライン販売などの直接販売を中心にやっていきたいと考えています。(Maki)
初来日のMphoさんからのメッセージ
「『旅』をして、可能性を広げて」
オープンマインドで、自分の可能性を広げ続けてほしい。人は自分自身の可能性も狭めがち。外に出て、いろんなことをして。それは他人を知ることにもなるけど、自分を知ることにもなる。自分とは違う人・文化・土地を知る「旅をする」ことで、共通点を見つけることができる。それが新しい考えや自分の可能性に気づくきっかけになると思います。(Mpho)
最後に、日本でやりたいことを聞いてみた。
映画などで見た竹林に行ってみたい。さまよいながら、物思いにふけって、アジアとアフリカの共通点を見いだしたら、また新しいものやストーリーが生まれそうです。
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