メモを取ったり、レシピを書きとめたり、日記をつけたり……「記録に残す」方法は数あれど、やっぱり手書きならではの醍醐味ってありませんか? 手を使ってペンを走らせること。ページをめくること。机に広げること。それは、本来カタチのないものを、カタチにするものだからかもしれません。
そんなノートは、自分らしいものが嬉しい。そこで、代々木八幡にあるノート屋さん「HININE NOTE(ハイナイン・ノート)」へ。ここでは表紙や紙、リングなどのパーツを自分で選び、“自分だけのノート”を作れます。
自分だけのオリジナルノートが作れるお店「HININE NOTE」は、代々木八幡の駅から徒歩3分。井の頭通りに抜ける細い道沿いにあります。
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印刷会社である株式会社ハイナインが、2016年2月にオープンしたお店です。
訪ねたのは平日の昼間でしたが、店内にはノートを作っているお客さんがちらほら。
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窓に書かれた「オリジナルノート作れます」という文字に吸い込まれるように、中を覗き込む人はもちろん、次々とお客さんがお店を訪ねてきます。
週末になると、10〜20組くらいの方がノートを作っていくそう。
ノートづくり 基本のステップ
ノートづくりを教えてくれるのは、株式会社ハイナインの飯田綾さんと、アルバイトスタッフの穴田成美さん。
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(左)ノート担当の飯田綾さん、(右)大学生のアルバイトスタッフ・穴田成美さん。
基本の作り方は、5ステップです。
- ノートのサイズを選ぶ
- 表表紙と裏表紙の2種類を選ぶ
- リング製本かテープ製本か、綴じ方を選ぶ
- 本文用紙を選ぶ
- よりオリジナルなノートに仕上げるための、オプション選び
選べるのは、サイズ・表紙・本文用紙・綴じ方。そのほか、オプションでゴムや丸タックで留めたり、箔押しでの文字入れが可能です。
BASIC | OPTION | |||||||
サイズ | 表紙 | 本文用紙 | 綴じ方 | 留め方 | ハトメ | 箔押し | ||
テープ製本 | リング製本 | ゴム | 丸タック | |||||
3 | 38 | 64 | 8 | 17 | 22 | 15 | 2 | 4 |
組み合わせの数は、単純計算で実に7,224万通り! 印刷会社ならではの品揃えです。
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左から、オプションでいっしょに綴じられる封筒、ポケット、マンスリーカレンダー。(提供:HININE NOTE)
このほかにも、用紙のタテ/ヨコはもちろん自由なうえ、サイズは追加料金で好きなサイズに変更が可能。自由度はかなり高く、飯田さんも「ぜったいかぶることないですよ!」。
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めくるめく「紙」の世界
筆者も早速ノートづくりに挑戦。作る際は、オーダーシートに沿って選び、記入していきます。
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しかし目の前に溢れんばかりの選択肢に、悩む悩む。
「リングが好きだけど、小さいサイズだと手に当たるのが気になる……」と、早々に「綴じ方」で頭を抱えていると、飯田さんのアドバイス。
「それなら、横綴じ(短辺で綴じること)にして、縦使いにするとストレスがないですよ」
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綴じ方は2種類。リング製本(奥)と、テープ製本(手前)。飯田さんが初めて作ったときは、リングで〈横綴じ+縦使い〉にしていたそう。
ノートの「顔」になる表紙選びは、選んでも二転三転してしまうほど悩んでしまいます。質感や色味は多岐にわたり、めくるめく紙のワンダーランドです。
「この紙は柔らかいけど破れにくい紙質ですよ」
「コツは、柔らかい紙を表紙に選ぶなら、裏表紙は硬めの紙を選ぶこと。書くときしっかりします」
と、飯田さんにアドバイスをもらいつつ、ゴムや丸タックとも合わせながら選びます。
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最後に取り掛かったのは、ノートの要・本文用紙選び。7種類の紙質があり、それぞれ無地・罫線・方眼から選べます。
ノートを使い終わった後は、本文用紙だけ新しいものに入れ替えることも可能。
「ボールペンが多いなら、いちばんサラっとした書き心地の『しらおい』がオススメ」
「『モンテルキア』は、裏写りがしにくいので人気。いちばん白味が強い紙です」
「スケッチなどをされる方は、『タブロ』『アドニスラフ』など、クッション性の高い紙が良いかもしれません」
筆者のふだんのノートづかいや希望を話すと、それに合わせた紙の特徴を教えてくれる飯田さん。実際に一つずつ書き心地や手触りを確かめていると、それぞれの個性が指先から伝わってきます。
なお本文用紙は、最大4種類を1冊に綴じることもできるそう。
学生さんで、教科ごとに紙を変えて色分けしていたお客さんがいらっしゃいましたよ。
用紙の厚みによって、用紙の枚数は若干調整される。
振り返ると、ほかのお客さんも穴田さんに「この合わせ方は変かな?」「こういう使い方したいんだけど……」と、相談中。穴田さんも丁寧に相談に乗っていました。
やっぱり、みなさん悩まれますよね……!
そうですね。早い人は早いですが、だいたいみなさん1時間は悩まれます。最長2時間悩まれた方もいましたよ。
筆者は30分ほど悩んで、全パーツを選定完了。記入したオーダーシートの内容に沿って、飯田さんが作ってくれました。
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筆者が選んだのは、グレーにピンクのゴム。リングはゴールド。悩んだ挙句、横綴じに。好みを探す意味でも、中の紙は4種類で変えてみました。また、「Fragments」の箔押しもオーダー。
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筆者が選んだパーツは、このとおり仕上がりました。出来上がりまでの時間は、およそ10分ほど。ただし、混んでいるときは、1〜2時間掛かることもあるそう。
手順どおり選ぶだけでもその人らしさが現れるそうですが、驚きのアイデアに溢れた個性たっぷりのノートが、これまでたくさんあったそう。
(左)表紙を2枚購入し、上に配置した表紙を半分にカット。バイカラーの表紙をデザイン。(右)破れにくい紙『コルドバ』の性質を利用して、あえて表紙をクシャクシャに。さらに絵を描いたお客さま。持ち込みもOKなので、自分で描いた絵を表紙にされる方も少なくないそう。(提供:HININE NOTE)
私たちが思いもよらなかったアイデアを、お客さんのほうが教えてくれます。
と、飯田さんと穴田さんは口を揃えます。
忘れられない、それぞれのノートづくりの物語
1ステップずつ、じっくり相談に乗ってくれる飯田さんと穴田さん。
相談しながら作るので、お客さまとのコミュニケーションはすごく多いですね。
オープンから1年も経っていないものの、すでにたくさんの思い出深いノートづくりがあったと、飯田さんは振り返ります。
この間も大学生の男の子がいらして、「ミッフィーがすごい好きな女の子のために、ミッフィーの色の組み合わせでノートを作りたい」って。たぶん彼女さんへのプレゼントなんでしょうね。いっしょに選んでてこちらまで嬉しくなりました。
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穴田さんも、思い出深いお客さんがたくさんいると言います。
例えば、オープンした当初いらした女性のお客さまで、「16冊作りたい!」って方がいたんです。聞けば、その方は会社を退職されるらしく、「お世話になった人のロッカーに忍ばせておきたいんです」って。一人ひとりずつ、名前を入れてイメージに合わせて選んでおられました。
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「買ってくれたお客さんが店の前を通ると、『あっ!』って(笑)。いまも通ってたんですよ! その方が、どんなのを作ったかも覚えてるんです」と言って、窓に駆け寄る穴田さん。
「記念やお祝いに、複数冊作ってくださる方は多いですよ」と話す穴田さんが、もう一人すごく印象に残っているというお客さんは、ある社長さん。
会社全体にとって良いことがあったみたいで、「そのお祝いとして、社員みんなに」って、作ってくださった方がいましたね。
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この日も、「ちょっとすみません、子ども用に作れますか?」と、入ってきたのは、おじいさんのお客さま。小学生のお孫さんへの誕生日プレゼントに、ノートをオーダーされることにしたようです。
おじいさんは最後、お孫さんの名前を箔押しで入れていました。
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誰かとの思い出、なにかとの出合い……その人だけが持つたくさんの「記憶」の積み重ね。そんな「カタチのないもの」が、「自分だけのノート」を作るのかもしれません。
そんな「ノート」に残される「記憶」の数々が、またそっとその人の中に染み込んでいくのかも……。
あなたなら、どんな「記憶」をカタチにしてみますか?
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