肌に沿う平面のフォルム、宙を舞う立体デザイン……「PENTA(ペンタ)」のジュエリーは、身につける者に寄り添い、ときに探究心を刺激する。躍動感あるエネルギッシュなカラーパレットは、デザイナーの人柄を映し出しているかのようだ。
そんな生命力溢れるジュエリーを創り出すのは、刺繍家のFUJI TATE P(フジタテペ)氏。
FUJI TATE P
「PENTA」クリエイティブディレクター。古典にとらわれず、現代のモダンなライフスタイルに提案を行う刺繍家。さまざまなクリエイターたちが集う「パールマンション」内にあるアトリエを晴れの日の昼下がりに訪問。
彼が「CRAFT AID(クラフトエイド)」のボランティアデザイナーとなったのは、2014年春のこと。「CRAFT AID」は、公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会が運営するフェアトレード事業だ。タイ・ラオス・カンボジア・アフガニスタン・ミャンマーの国々で、女性が子どもの教育資金を得ることを目的に手仕事の製品を展開している。商品を作っているのは少数民族や戦争で傷ついた人々、スラム街での生活を余儀なくされている人々だ。
デザイナーとして現場に通う彼の活動と、その背後にある思いについて話を聞いた。
デザイナーとして社会へ貢献したかった
中国雲南省で刺繍技法を学び、帰国後は衣装の制作工房でキャリアを積んだFUJI TATE P氏。3年間、刺繍デザイナーとして活躍したものの、「ふつうに刺繍を刺すことに飽きてしまった」と言う。
子どもの頃から、立体物やプラモデルを組み立てるのが好きでした。デザイナーとして働くうちに、だんだん「刺繍が起き上がってくればいいな」と思うようになり、個人で立体刺繍の制作活動を始めました。
そのうち、「肌に刺繍を刺したらどうなるかな」と考え、ビーズを使ったジュエリーを作るようになった同氏。初めは「トラベルジュエリー」というコンセプトで、インテリアショップ・IDÉE(イデー)のオリジナルアイテムとして販売を開始。これが後の「PENTA(ペンタ)」の礎となる。
2012年、正式にジュエリーブランド「PENTA」を設立。広島のビーズメーカーと手を組み、日本の職人が手がけるガラスビーズの美しさを、モダンなデザインで発信している。ブランドを手がけるようになり、今年で4年が経つ。
コレクションごとに着実にファンを増やし成長を重ねる一方、デザイナーが社会貢献活動をする難しさを感じてきた。
デザイナーとして個人で動いていると、社会との接点の薄さを感じることがあります。社会的に意義ある活動をしたいと思っても、なかなか一人では始められない。会社に属していれば、CSR活動などで実現できるかもしれませんが、なかなかそうした機会もない。募金のような方法ではなく、デザインの仕事でもっと世の中に貢献できないだろうかと考え続けてきました。
自分のしたい活動を周りの人に話していくうちに公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(以下、シャンティ)のフェアトレード事業に出会ったFUJI TATE P氏。
2014年頭に契約が決まると、わずか3カ月間の準備を経て「CRAFT AID」デザイナーとしての活動が始まった。
伝統を尊重し、素材を生かした生産を
「本当にフェアに作られている、現地のリソースを生かしたものづくりがしたい。だから実際に現地を訪ねながら仕事させてほしい」 ――当初からシャンティにそう伝えていたFUJI TATE P氏。いま、「CRAFT AID」の仕事では、タイ、ラオスなどの国を中心に回り続けている。
デザインをゼロから考えることもありますが、実際は制作工程の中で気づいたことを伝えていく、というだけの関わり方もあります。例えば、先進国の都会でも使えるディテールをイメージしてみたり、できる限り廃棄を抑える生産の方法を考えたり。
カンボジアのアトリエでは、「スン」と呼ばれる民族衣装の巻きスカートの織り生地から、ポーチやバッグなどを作っている。ここでは、生地を無駄なく利用できる裁断方法を提案した。
「スン」は全て手で織り上げられていて、実物を手に取ってみると、とても美しい生地なんです。せっかくこんなに素敵なんだから、無駄なく全部使えるようにしたいと思いました。
巻きスカートに使われる生地なので、柄が集まっている部分とそうでない部分があります。それまでは使えそうな部分を中心に切り出していて、柄の少ない部分の多くが使われずにいました。そこで、うまく長方形に切り出しながら、生地を余すことなく使える柄の配置を考えました。
こうしたことは、実際に現地の様子を見なければ分からない。
最初はコミュニケーションもかなり大変でした。すでに習慣になっている生産工程を変えようと提案しても、まるで理解してもらえませんから(笑)
それでも、ものごとを前へ進めていけるコミュニケーション能力は、FUJI TATE P氏の強みの一つと言えるだろう。
遊びながら伝統を進化させる
既存の伝統工芸を重んじる一方、彼らしい茶目っ気の効いた斬新なアイディアのデザインが、いまの「CRAFT AID」の人気につながっている。
もともと世界中のさまざまな民族が生み出すデザインが好きで、「PENTA」のカラーパレットも、彼らの色づかいから大きな影響を受けています。
昔から生地や装飾のサンプルをコレクションしている同氏。その中でも気に入っているのが、タイのアカ族の刺繍生地だ。デザイナーの友人から譲り受けたものの、どこで誰がつくったものかは知らなかった。
「CRAFT AID」の活動でタイの民族をリサーチしていくうちに、アカ族と巡り会う。彼らがが織り出す生地は、コレクションの1枚と同じものだった。
アカ族の刺繍を紹介されたときは感激しました。自分が大切にしていたサンプルが彼らの生地だったのだと分かって!
アカ族の生地の商品化を進めていくうち、ミェン族の民族衣装に使われる赤いモコモコの装飾を一緒にあしらってみようと閃く。そうして実現したのが「族コラボ」だ。
思い切って、全く異なる部族のモチーフをミックスしてみました。部族を超えたコラボレーションなので、「族コラボ」と呼んでいます(笑)。現地のみなさんに提案したら、いままでないことだったので驚いていましたが、「素敵!」と喜んで、楽しんで作ってくれています。
伝統として受け継がれてきたルールを守ることは大切。だからできる限り学んだうえで取り込んでいます。でも、案外遊んでいい部分も残されているんですよね。
例えば、上写真のアイテムにあしらわれた赤いモコモコの装飾。作っているミェン族では、長らく赤色のものしか作っていなかった。しかし同氏が現地でヒアリングしてみると、赤でなければならない明確な理由はないことが分かった。
聞いてみたら、現地の人から「色を変えてみよう」という提案があったくらい。伝統といえども、自由な部分もあるようなので、そこは楽しんでいきたいですね。
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