淡いグレーに染められ、独特のフォルムを成すバッグに思わず足を止めた。
彼、足立真規氏と出会ったのは、とある大型展示会のことである。
大理石のように繊細で美しいマーブリングに、柔らかなシルエット……このようなバッグを作るのはどのような人だろうか……! と思うだろう。
どのブランドも気合いのプレゼンテーションを繰り広げる中、足立氏は「寝起きそのままに来ただろう」というジャージ姿で立っていた。
足立氏は、24歳。2015年3月に大学を卒業したばかりという。専攻は法学部。趣味はアイドル観賞。
バッグと作る本人の持つありとあらゆるギャップとに興味を抑えきれず、横浜にある彼のアトリエ兼住まいのアパートに向かった。
インタビューに訪ねたその日も、足立氏はパジャマのような出で立ちで、出迎えてくれた。
―― わ、意外にちゃんとアトリエじゃないですか。
―― すごい。どのくらいバイトしたんですか?
―― でもアトリエ部屋以外は、やっぱりわやくちゃですけどね。昨年(2015年)大学卒業したって言ってましたけど、バッグ作りはいつからやってたんですか?
―― おぉ。具体的にどんなバイトなんですか?
―― しかしこないだもジャージだったし、正直ファッションとか興味あるように見えないんですけど。
―― 展示会で発表してたのとぜんぜん雰囲気違いますね。
※魚籠……魚釣りなどのとき、とった魚を入れておくかごのこと。
―― 現代っ子め。でも、魚籠のかたちをそのまま
―― この染めも自分で?
―― しかし、なぜバッグ?
―― まぁ、それはある種、いちばん正しい答えだけれど。
でも、子どもの頃からものづくりを仕事にしたいとは思ってたんですよ。服のリメイクも高校生の頃からやってましたし。
手を動かしているのが好きなんです。作業台もベッドも自分で作ったくらい。
(提供:足立真規)
―― それはスゴイけど、さすがに親御さんとか、就職しないって言ったら心配しませんでした?
―― そりゃそうだろう。
――で、いまはどうやって生活してるんですか?
――おい、作れよ。
レザーの醍醐味の一つは経年変化。同じように、この若き才能が今後大きく花開くことを楽しみにしたい。
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