2016年9月1日から10月31日まで、ベトナムで生まれたハンドメイドシューズ「Saigon Socialite(サイゴン・ソーシャライト)」の日本先行販売を兼ねたクラウドファンディングが「CAMPFIRE」で行われている。
(提供:NPO法人ポレポレ)
まるでアートのような「Saigon Socialite」の靴には、古い王宮が佇む古都・フエの街の職人たちの技が凝縮されている。
クラウドファンディングを実施し、日本での販売を請け負うのは、NPO法人ポレポレの
靴に込められた思いと、その挑戦について尋ねた。
まず目を惹くのは、ウェッジソールの木彫りだろう。
美しい流線型は、ベトナムの中部の街・フエの王宮の柱に使われていた装飾技術によるものだ。
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「TRIAD -龍-」十二支の中でもベトナムでは幸運や名誉の象徴とされる龍のデザイン。(カラー:BLACK、ヒール:High)〈提供:NPO法人ポレポレ〉
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「UNRAVEL -解-」長く続いたベトナム伝統工芸の継承を祈ってのデザイン。(カラー:NUDE、ヒール:High)〈提供:NPO法人ポレポレ〉
フエは、1802年から1945年にかけて現・ベトナムに存在した国、阮朝の首都。皇帝の住まう場所、そして国を導く政治の場として、王宮は輝くように建っていただろう。
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Some Rights Reserved by Hao Nguyen, via flickr
しかし阮朝が衰退する時代の推移とともに、王宮の威光も色あせてしまう。
使う人がいなければ、王宮を美しく彩っていたさまざまな装飾も、すっかり手入れの必要がなくなった。
それとともに失われてしまったのが、装飾を任ぜられていた職人たちの技術である。
仕事がないなら当然か。
現在職人たちは、家族に伝わる物語のように、細々と技術を受け継いでいるのが現状だ。多くの職人たちは、知識・技術はあれど、ふだんは別の生業で生計を立てている。
木彫りだけでなく、革染、縫製……この靴は、フエに集う多くの職人さんたちの技術の結晶。失われつつある伝統の技術を、一つでも多く守り伝えるためにデザインされた靴なんです。
そう話すのは、日本での販売を請け負う、NPO法人ポレポレの高橋邦之さんだ。
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高橋邦之(たかはし・くにゆき)
バルト3国エストニアの島嶼部、農閑期の高齢者女性の雇用創出に携わった経験から、新興国の手工芸品の流通支援、技術協力などを通じて、社会的課題の解決に取り組む。〈提供:NPO法人ポレポレ〉
靴を販売する難しさ ……それでも靴でなければ意味がない
フエのあちこちに点在する、さまざまな伝統技術の職人たち。
彼らの技術をかけ合わせ、「Saigon Socialite(サイゴン・ソーシャライト)」を始めたのは、ベトナム系アメリカ人、グェン・ラン・ヴィーさんだ。
高橋さんは2年前、知人の紹介でラン・ヴィーさんに出会ったという。
アメリカではじわじわと人気を集めているそうで、ぜひ日本でも……ということだったのですが、靴は難しいビジネスなので勇気がいりましたし、準備にすごく時間がかかってしまいました。
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「TIGER LILY -百合-」涼しげに咲き誇るオレンジ色のオニユリをイメージ。花がワンポイントに。 (カラー:NUDE、ヒール:High)
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「WAVE -波-」緩やかに流れるメコン川にダナンの海。水の都らしいカーブを足元に。(カラー:ORANGE、ヒール:High)
靴は、ファッションビジネスの中でも特に勇気のいるジャンルである。
その理由は、ほかのファッションアイテムと比べて在庫リスクが高いことがまず一つ。靴は、揃えておくべきサイズが多いうえ、回転率が低い。
輸入ならば、なおさらリスクが高まる。
国内皮革産業保護の輸入規制として、レザーの靴は関税が極めて高く設定されており、輸入者の財務的な体力がなければ非常に苦しい。もちろん、消費者に向けた最終コストにも影響がある。
それでも高橋さんが、「どうにかやれる道を探そう!」と思ったのは、靴でなければならない理由を聞いてからだという。
僕だって最初、「靴じゃなくてアクセサリーやバッグじゃだめなの?」と、ラン・ヴィーに尋ねました。
でも、靴じゃなきゃだめなんです。
フエに点在する彫金、木彫り、革職人……。一つのジャンルだけでなく、あらゆる職人『みんな』に仕事を提供できる商品が、靴なんです。
彼らはいままで別々で仕事をしていてつながりはありません。彼らを結びつけることができるのが靴なんだ……と、ラン・ヴィーは言うんです。
その言葉にしびれちゃって(笑)。「やるしかない」と思いました。
実際「Saigon Socialite」シューズは、一つひとつ専用のシューズ・ケースと刺繍入りシューズ・バッグのついた、豪華なセットになっている。それにも、刺繍や縫製の職人までも関われるように、という目的がある。
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オリジナル刺繍の入ったシューズ・バッグ。
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専用シューズ・ケース。
信頼を生むのは実績にほかならないから
高橋さんは2年かけて、NPO法人・二枚目の名刺の社会人ボランティアメンバーといっしょに、100人以上の女性を対象としたアンケート調査を実施するなど、発売に向けて準備を進めてきた。
そしていよいよモニター販売を、クラウドファンディングというかたちで実施することになった。
最終的にビジネスとして卸もやっていくことを目指すと、98,000円くらいで販売しないと継続できない計算になります。
今回のクラウドファンディングでは、65,000円での販売分10足が完売したら、リターン(※クラウドファンディング上で支援した人へのお礼のこと)の追加として、次の10足は75,000円を予定しています。
反応を見ながら、徐々に価格を調整していくつもりです。
しかし、非難を恐れず率直に言えば、クオリティにはまだまだ改善の余地がある。
確かに凝っているし、高度な技術で作られている。
しかし、10万円前後の価格帯の靴だとしたら、アッパーに使われる牛革などは、チープな印象は否めない。接着剤の塗り方が少々雑なのも、気になるところだろう。
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アウターソールにも、職人による彫り込みが。ゴム職人の技だ。
ご指摘のとおりで、チームのメンバーとも議題になりました。
でも、まずは売ったという実績がなければ、なにを言っても説得力がありません。フェアトレードだ、職人の技術を継承しよう ――いくら同じ思いを持っているから、いっしょに頑張るから、と言っても、結果を出していなければ、作り手だって聞き入れる気にならないでしょう。
今回クラウドファンディングでご購入くださった方には、ぜひ率直な意見をいただきたい。「Saigon Socialite」の成長を、最初に願ってくださったみなさんの声は、心からのメッセージになります。日本の購入者の実際の声として届け、いっしょに改善していきたいです。
セミ・オーダーメイドで販売
デザインは4種類×3色。ヒールの高さも2種類から選べ、合計24通りの組み合わせが可能な、セミ・オーダーメイドのアイテムとなっている。
クラウドファンディング期間中ももちろん、デザイン・カラー・サイズともに、実際に試着することが可能。試着会の場所や日程は、クラウドファンディングのページ内にある「活動報告」で告知されるほか、各種SNSからも情報が配信される。
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筆者もトライ! 見た目によらず、プラットフォームの安定感はバッチリ。数歩しか歩いていないが、歩きやすく、疲れにくそうな印象。
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難癖をつけはしたものの、靴が好きな筆者としては、このように美しい1足には、やはりテンションが上がってしまう。
クラウドファンディング後も、セミ・オーダーメイドの受注生産というかたちで販売することで、在庫リスクを削減していき、百貨店などの店頭やイベントでの受注会を中心に販売していきます。
自分が履いた1足が、「Saigon Socialite」の次の1歩になるかもしれない。それがフエに残された職人たちの、未来につながるかもしれない。
始まったばかりの「Saigon Socialite」。日本での1歩が導いていく未来に期待したい。
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