【インタビュー】チョコレートの新しい世界。生産者・製造者・消費者をつなぐBean to Barの先鋒「Minimal-Bean to Bar Chocolate」

A Picture of $name Rie Watanabe 2016. 9. 24

サードウェーブコーヒーにクラフトビール。いま、素材や作り手、作り方など、商品の生産過程にストーリーがあるフードカルチャーが盛り上がりを見せている。その波はチョコレートにも。カカオ豆の仕入れからチョレコートの完成までを1つの工房で行う生産スタイル「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー) チョコレート」。2014年に創業し、今年6月、銀座に2店舗目をオープンした「Minimal(ミニマル)」は、日本のBean to Barの先駆けだ。

〈提供:Minimal-Bean to Bar Chocolate〉〈提供:Minimal-Bean to Bar Chocolate〉

「Minimal」が目指すのは、「チョコレートを新しくする」こと。「チョコレートの生産者、製造者、消費者が近づくことで、チョコレートの新しいカウンターカルチャーが生まれていく」と、Bean to Barの醍醐味を語るMinimal創業者の山下貴嗣さん。Bean to Barの世界と「Minimal」の挑戦を追った。

山下隆嗣(やました・たかつぐ) 株式会社βace代表取締役。1984年岐阜県生まれ。慶応義塾大卒業後、リンクアンドモチベーションにて数多くのコンサルティング業務に従事。新規事業立ち上げにも携わり、3年間で売上15億円のビジネスを立ち上げる。Bean to Barチョコレートとの出会いをきっかけに独立。2014年、仲間とともにMinimalを創業。

山下貴嗣(やました・たかつぐ)
株式会社βace代表取締役。1984年岐阜県生まれ。慶応義塾大卒業後、リンクアンドモチベーションにて数多くのコンサルティング業務に従事。新規事業立ち上げにも携わり、3年間で売上15億円のビジネスを立ち上げる。Bean to Barチョコレートとの出会いをきっかけに独立。2014年、仲間とともにMinimalを創業。

アメリカ、ヨーロッパでチョコレートに新しい流れ

私たちが普段、店頭などで目にしているチョコレートの多くは、2段階の製造工程を経ている。

まず発酵・乾燥したカカオ豆を焙煎し、チョコレートの生地を作り、これを菓子メーカーやショコラティエがミルクや香料などを加え完成する。「Bean to Barチョコレート」は、その名のとおり、「豆から板チョコまで」を一つのメーカーが一貫して管理。生産者と直接取引を行うため、生産地が明確で消費者に届くまでのプロセスがクリアだ。また、ほかの種類の豆を含まない「シングルオリジン」を使用し、副原料は砂糖のみ。栄養価も高く、豆ごとにレシピを変えて調理するため、豆が持つ本来の味を楽しむことができる。

Bean to Bar の始まりはアメリカ。2008年頃からITや芸術といった異業種の人々が、大量生産されるチョコレートに対抗し、自分たちで豆を仕入れ、自宅のガレージで小さな焙煎機やコンチングマシン(チョコレート練り上げる機械)を使い、スモールバッジ生産を始めたのが発端だ。2009年に創業したニューヨークの「MAST BROTHERS CHOCOLATE(マストブラザーズチョコレート)」や、2011年創業のサンフランシスコの「Dandelion Chocolate(ダンデラオイン・チョコレート)」がヒットし、注目が集まるように。また、チョコレートの本場であるヨーロッパでの「よりおいしいものを作りたい」というショコラティエによる素材回帰の流れも合わさり、ムーブメントになった。

日本のBean to Barを牽引するMinimal

現在、日本国内でBean to Barチョコレートを扱う店舗は50店ほど。デパートやメディアで特集され、大手菓子メーカーでも商品化されるなど、新たなトレンドとなりつつあるが、この先駆けが2014年に創業した「Minimal」だ。

文化になる」 ―― Bean to Barチョコレートを初めて食べたとき、創業者の山下貴嗣さんは直感した。

出身は、美濃和紙のうちわ作りが盛んな岐阜県の町。後継者が育たず、徐々に活気を失っていく故郷を見て、日本ならではの伝統・文化への存続に危機感を持っていた。「日本の良さを世界に発信し、日本に貢献する仕事がしたい」と、大手経営コンサルテンィング会社で管理職として活躍していた29歳のとき、決意した。

偶然の出会いが、山下さんの背中を押すことに。友人の紹介で、カフェでBean to Barチョコレートを提供する朝日将人さんと知り合った。

味の振り幅に、チョコレートの概念を覆された。素材に向き合っていて本質的。チョコレートの世界にも、日本特有のきめ細やかさに通じる世界があるんだと衝撃を受けました。

朝日さんを誘い、2014年12月、仲間と共に渋谷富ヶ谷に「Minimal」1号店を開店。Minimalは、最小限の意味。本質以外をそぎ落とすという思いをブランド名に込めた。

カカオ豆と砂糖のみで作る僕らのチョコレートは、素材の良さを引き出す和食と一緒。僕らのチョコレートは引き算なんです。

砂糖とカカオ豆のみから作られるチョコレート

アジア、アフリカ、中南米15カ国以上のカカオ豆を使ったMinimalのチョレコートは、香りや味わいごとに3つのカテゴリーに分けている。ナッツのような香ばしい香りの「NUTTY(ナッティ)」、果実のような酸味の「FRUITY(フルーティ)」、スパイスやハーブのような香りの「SAVORY(セイバリー)」。季節によって豆を入れ替え、常時6、7種類のチョコレートが商品として並ぶ。カカオ豆は気候条件によって味わいが異なるため、豆の味が最大限生かされるよう、同じ産地でも収穫時期で製造法を変えている。店舗では、チョコレートの製造工程を見ることができ、試食を楽しみながら、好みの味を見つけることが可能だ。

2016年9月現在の商品ラインナップ

商品ライン 特徴 生産地
NUTTY CHOCOLATY
(チョコレートらしい風味が特徴)
・飴がけアーモンドのような深みのある甘い風味
→余韻にローストしたアーモンドの香りと柑橘系の爽やかで軽い甘み
ハイチ
FRUITY BERRY-LIKE ①
(ベリーのような複雑な風味が特徴のライン)
・ブラックベリーのような爽やかな風味
→ワインビネガーのような強い香りとベリーのような味わい深い渋み
ベトナム
BERRY-LIKE ②
(ベリーのような複雑な風味が特徴のライン)
・レーズンパンのような風味
→香ばしく焼けたパンの香りと濃密なレーズンのような味わい
コロンビア
CITRIC
(爽やかな柑橘系の風味が特徴のライン)
・青りんごのような爽やかな風味
→青りんごのような爽やかな香りと柑橘のような爽やかな酸味
タンザニア
VEGETAL
(甘みのある野菜のような風味が特徴)
・甘納豆のような風味
→軽く煮た黒豆のような香りとザラメのようなしっかりとした甘み
フィリピン
SAVORY HERBAL
(ハーブや木の香りのような風味が特徴のライン)
・微かにハーブを感じる複雑な風味
→爽やかなミントのような香りとクリームのような口当たり
トリニダード・トバゴ
FLORAL
(花のようなみずみずしい風味が特徴)
・バラの花のような華やかな風味
→ドライローズのような香りとローズジャムのような味わい
コロンビア
〈提供:Minimal-Bean

〈提供:Minimal-Bean to Bar Chocolate〉

男性からも支持。チョコレートを楽しむシーンをもっと多様に。

お客さんの4割強は男性。従来のチョコレートの甘さや後味が苦手だった、という人が多という。「Minimal」のチョレコートは香りが強く、後味がすっきりしている。コーヒーやお酒、葉巻など、香りや味とのマリアージュにも最適。また、カカオの濃度が高いため、テオブロミンという天然由来の目が覚める成分を多く含む。朝起きたときや大事な会議の前など、気持ちを引き締めたいときに食べるのもお勧めだ。

「Minimal」が扱うのは、「チョコレート」だけではない。カカオ豆を砕き、チップ状にしたカカオニブは、ビタミンやミネラル、マグネシウムを含み美容・健康への効果があり、スーパーフードとして注目されている。サクサクとした食感で、ミューズリーやアイスクリームなどにかけ、簡単においしく、栄養を取ることができる。

実はこのカカオニブ、Shake Shack 外苑いちょう並木店限定メニューのアイスクリーム「The Tokyo Editon」にも使われている。メニューイノベーションディレクターであるマーク・ロザッティ氏から、「Minimalと組みたい」と直々にオファーがあった。

カカオやチョコレートを楽しむシーンはもっと多様でいい。ブランドとしてそれを提案して、消費の仕方をどんどん変えていきたい。
(山下さん)

Minimalでは、チョコレートの食べ方を提案するペアリングイベントも多く開催している。間もなく、新商品としてパンに塗るスプレッドを販売予定だ。

(提供:Minimal-Bean to Bar Chocolate)

カカオニブ〈提供:Minimal-Bean to Bar Chocolate〉

直接産地に行くことへのこだわり。おいしいもの作りは「知る」ことから

カカオ豆を直接買い付けに行く、日本のBean to Barメーカーはほとんどない中、「Minimal」では多くの産地に足を運ぶ。「Minimal」にとって生産者は、良いものを作りたいというものづくりの根源的な欲求をともに目指すパートナーだ。

農家の人たちは、自分たちが作っているものがなにになるか知らない。だから、彼らの豆で作ったチョコレートをお客さんの声と一緒に持っていきます。作ることや質への興味は、知ることから。毎年一緒にやることで、ものづくりが改善できる。

と、山下さんは語る。生産者と苦労や喜びを分かち合いながら作った豆が、消費者の新しいチョコレートの楽しみ方につながっていくことに、おもしろさを感じている。「Minimal」では、通常の3〜5倍の価格でカカオ豆を購入し、良いものにはしっかりと利益を持つ。 「契約したい」とアプローチをもらうことも多い。決め手は、農園と農家の人の顔。

カカオ豆の栽培に必要な土壌や手入れが行き届いているか、農園に行くと一目で分かるんです。良いものを作りたいと思っている人は、良い顔をする。長期間、関係を築きながら、一緒にやれそうだなっていう感覚を持てるかは大事にしています。ときどき痛い目に遭うこともありますが(苦笑)。

1年のうち、3か月は産地へ。電気がないところも多く、日が昇ると起き、日が沈むと寝るというシンプルな生活や生き方から学ぶことも多い。〈提供:Minimal-Bean to Bar Chocolate〉

1年のうち、3か月は産地へ。電気がないところも多く、日が昇ると起き、日が沈むと寝るというシンプルな生活や生き方から学ぶことも多い。〈提供:Minimal-Bean to Bar Chocolate〉

本当のグローバリゼーション―生産者、製造者、消費者の世界を縮められるBean to Bar。

生産者、製造者、消費者が、チョコレートでつながることができるBean to Bar。生産者が作る豆、その豆で「Minimal」が作るチョコレート、そのチョコレートを購入する消費者、これらの間の全てに、価値とそれに見合った対価があり、この循環がさらに良い豆、チョコレート、経験を生みだしていく。

大学時代、国際経済を学び、前職では企業に対しグローバル人材のコンサルティングを行っていた山下さんは、ここに、グローバリゼーションの本質を感じている。

チョコレートを介して、人の顔が見えるから、手触り感があるんです。心理的な距離が縮まるのが、グローバリゼーションなんじゃないかって。それぞれの価値観が一つのプロダクトでつながり、お互いが良い刺激を与え合える関係を、長期的に続けていければ。

いま、Bean to Barはブーム。これを当たり前にしていくため、さらに生産者と消費者が近づける仕掛けづくりに力を入れていく。

minimal-2

アジアのチョコレート文化を仕掛けたい

昨年10月、日本のブランドとして全米最大のBean to Barチョコレートの祭典「ノースウエストチョコレートフェスティバル」への初出店に続き、今年6月、世界の最優秀チョコレートを決める世界大会「インターナショナルチョコレート アワーズ」のアメリカ・アジア太平洋予選で最高賞を受賞した。評判を聞きつけたアメリカやロンドンの大手代理店やデパートから「扱いたい」とラブコールも多い。しかし、山下さんが狙うのはアジアだ。

アジアの人が作ったアジアの豆で、アジア独自の消費スタイルを作っていきたい。アジアのチョコレートの消費はまだ約10%。今後、人口が増えていくことを考えると、ポテンシャルは高い。店舗もアジアの生産地に近い場所に出したい。

予選で最高賞を受賞したチョコレートは、ベトナム産のカカオ豆。アジアの豆による新しいチョコレートが提示できるよう、10月にロンドンで開催される本大会に挑む。

Minimal

Website:http://mini-mal.tokyo/

富ヶ谷本店
Address:〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-1-9
Tel : 03-6322-9998
Open hours : 11:30〜19:00、月曜定休(祝日の場合は翌日休み)

銀座 Bean to Bar Stand
Address:〒104-0061 東京都中央区銀座3-8-13 光生ビル 1F
Tel : 03-6264-4776
Open hours : 11:00〜19:00、月曜定休(祝日の場合は翌平日)

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