ラオスという国を聞いて、みなさんはなにを思い浮かべるでしょうか?
ラオスは、人口約700万人。日本の1/3の面積の、豊かな小さな国です。町を少し外れると大自然が広がり、そこに暮らす人々はとても穏やか。
なにごとにも「ボーペンニャン(=心配ないよ)」と口ずさみながら、日々を過ごすラオスの暮らしは、小さな悩みや悲しみをそっと包み込んでくれます。
そんなラオスで、単身でラオスに住みラオス織物を学ぶ女性職人・富田紘子さんに出会いました。
ただ純粋に「織物を学びたい」と単身でラオスに渡る男前な職人
富田さんは現在、首都・ビエンチャンから車で約20分ほどにある、織物・染物によるラオスの女性の職業訓練を行うホアイホン職業訓練センター(以下、ホアイホンセンター)でマネージャーのアシスタントを務め、日々ラオスの職人たちと手作りの布や織物商品を制作しています。
富田さんが初めてラオスに訪れたのは2010月9月。アパレル販売の仕事をしている中、休みを利用してラオスに旅行したそう。たちまち、その穏やかな空気に吸い込まれ、その後ラオスに数回通うようになりました。そして2011年11月、ホアイホンセンターに訪れ、初めてラオスの織物体験をしたそうです。
織物をやってみたら楽しくて、もっとやりたいと思ったんです。純粋にただそれだけで。その先のことはあまり考えていなくて、まずは学ぼうと長期滞在を決めました。
富田さんは2013年1月単身ラオスに渡り、ゼロから織物を学びはじめました。
ホアイホンセンターでラオス語を勉強しながら織物・染め物のトレーニングを受け、勉強する日々が続いたそうです。
(Photography: Courtesy of Hiroko Tomita)
ただ気持ちだけで来てしまったので、自分になにができるとも思ってなかったんです。だからトレーニングではやれることを全部やりたいと先生に伝えていました。でも先生が話せるのはラオス語だけ。もっと理解するためにラオス語も勉強しました。
トレーニングの中でどんどんラオス織物に魅せられていった富田さんは、ホアイホンセンターで働きながらより織物技術を身につけていくことを決心しました。
それまで趣味で洋服を作ったことはありますが、生地から作るという経験は初めてでした。
日本だったらほとんど布は既成品で、服づくりはそれを裁断するところから始まります。一方でホアインセンターでは、その一歩手前の段階である「布を作る」ところからのスタートであり、この〈服を遡る〉感覚を味わうことが魅力の一つだと思っています。
富田さんは現在、織物・染色によるものづくりの現場で女性職人のマネージメントやツーリスト対応・日本のオーダー窓口業務を行う傍ら、オリジナル作品を丁寧に手がけているそうです。「全て手づくりだから時間はかかるけど、とても愛着がある商品が生まれるんですよ」と富田さんは語ります。
工芸品を“ファッション”にする
富田さんの目標は、ラオスの工芸品をファッションにすること。
ラオスの織物は、北部と南部、部族によって技術が違い、技術によって模様や色合いも変わります。富田さんは、織物技術のさまざまな表現を身につけ、服生産の場に技術提供したいと考えているそうです。
例えばブランドとコラボして一緒にデザインを考えて、ラオスの村の人たちと一緒にその商品を作ったり、ラオスの伝統技術の提供をしていきたいです。
でも私もぜんぜん地方に行けておらず、一部の地域の技術しか見れていません。幸い、いまは村人もスマホを持っていてやり取りできる状態なので、できるだけ自分で足を運んで、村人とのネットワークを作りながら、時間をかけて少しずつかたちにしていこうと思っています。
また織物に限らず、ラオスに根づくいろんなもので、なにかものづくりができないかということを常に模索しているそうです。ラオスの伝統的な竹細工や銀細工といった工芸品はもちろん、日常に溢れる雑貨もファッションアイテムに活用する方法を考えていると言います。
ラオスは物資が豊かではなく、材料も限られています。いまでは布を作る生糸も、国産だと高くなってしまうので、ほとんどが周辺国からの輸入品です。でも、ラオスにあるものでメイド・イン・ラオスを作りたくて。だから、日常生活の中でラオスにある出来事やモノでなにかを作りたいんです。
ラオスを理解し、ラオスに根づくものづくりを実践しようとする富田さん。小さな身体には、ものづくりに対する情熱が宿っていました。
知れば知るほど未熟さを知る、深いラオス織物の世界
富田さんいわく、ラオスの織物の魅力は“表現のバリエーション”だそう。
ラオスには各部族に伝わる織物技術があり、そのパターンは数えることができないほど。「知れば知るほど、自分の技術の未熟さを感じます。一人前になるには、まだまだ時間が掛かります」と、富田さんは目を輝かせながら言います。
いまはラオスの織物を工芸品にして、お土産物として価値を付けていこうという動きになっています。もちろんモノを売るうえでとても大事なことですが、値段が高くてなかなか多くの方の手に届かず、もったいないというお声をよく聞きます。
でもラオスの織物は、ラオス人の生活スタイルから生まれたもので、いまでも日常に根づいているものなんですよね。正装や制服は「シン」という織物からできたスカートだし、赤ちゃんが生まれたときの敷物として手作りの布を使ったり……。毎日使い、生活に溶け込んでいるのが、ラオス織物の特徴だと思っています。だから私も毎日使えるファッションとして織物を捉えています。
筆者にとって、「その身一つで未知の場所に飛び込み、現地に溶け込んで暮らす、不思議な女性」という印象だった富田さん。
しかし、お話をお伺いする中で、ボーペンニャン(=なんとかなるよ)な部分と、織物職人として目標に向かう芯の強さをバランス良く持ちあわせながら、日々まっすぐに歩む姿は、凛々しく美しいと感じます。
「ラオスの工芸品をファッションに」 ――そんな富田さんの挑戦は続きます。ラオスに訪れた際は、ぜひホアイホン職業訓練センターを訪ねてみてはいかがでしょう!
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