「突然街中に出現する本屋・
いつの間にか、日常に「本」が忍び込んでくる……。
「寿司? 食べたことないね! 食べたとしても刺身!」
という人には、未だかつてお会いしたことがない。
本を読まない人も、寿司は食べる。自明のことである。
人はおいしそうなものが、レールに乗って流れてくると無意識に手を伸ばす。
「ああ、お腹いっぱい。食べた食べた」と言いながら、流れてくるお皿に手を伸ばす貴婦人を、あなたは見たことがあるはずだ。
というわけで、今回は「回転寿司のお皿に乗ってきそうな本」を紹介する。
ZOO
乙一(著)、 集英社、2006年
控えめに言って、マグロである。
というか、むしろマグロである。
この本は5話の短編から成っており、1編読み切るのに必要な時間は、お寿司のレーン1周分くらいである。
狙っていたお寿司のネタを取り損ねたときに、1周待つのにうってつけだ。
この本のテーマは「抗うことができない別れ」だと思う。
自分や身の回りの人たちが ――時には残酷な方法で―― いなくなってしまうことが分かっているとき、人はどのように考え、どう行動するか。
自分の力ではどうしようもできないままならなさや葛藤、なにかを受け入れる強さを、マグロの赤みのように鮮やかに描いている。
しずく
西 加奈子(著)、 光文社 2010年
お寿司好きは、薄いピンク色の物体を「ビントロだ!」と認識する癖がある。
例えば、こじゃれた薄ピンクのネクタイをプレゼントしようものなら、開口一番「ビントロだ!」と叫ぶだろう。
iPhoneの新色ローズピンクが発売されたときも、「ビントロだ!」と叫びだす人が続出した。
さて、紹介する『しずく』だが、色合いがまさにビントロである。
回転寿司で流れてきて、手に取る。そしてお醤油をつける。そこでふと気づく。
「これ、ビントロちゃう。水分が乾ききってる。まるで文庫本だ(このあとスタッフがおいしくいただきました)」と。
2人の女の友情をめぐる物語だが、途中「私がう◯こを食べるまで」という話まで出てくる。
大衆的なお寿司。体臭的なう◯こ。
食すことの神秘を、お寿司屋さんで知ることになる。
軍艦物語―太平洋海戦を彩った12隻の生涯
佐藤 和正(著)、 光人社、新装版、2003年
想像してほしい。軍艦巻きのない世界を。
あらゆるネタが、シャリの上に直に置かれる世界を。
宝石のように光輝くイクラは、口に運ぶまでに60%が地面に叩きつけられる。
コーンは寿司職人さんが「やってられるか!」とボイコットを起こしそうである。
軍艦巻きは偉大である。軍艦巻きがあるのは軍艦のおかげである。
それなのに、私たちは軍艦のことをあまりにも知らない。
ご存知だろうか。軍艦の中にエレベーターがあったことを。
軍艦たちがどのように沈められていったのかを。
軍艦にはさまざまな個性と物語がある。お寿司と同じである。
小さな軍艦巻き。大きな軍艦。
味わい深いのはどちらだろうか。
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