筆者は幼少期の5年間を、ドイツのハンブルグという街で過ごした。2016年の今年、帰国して25年が経つ。この間にもいくつかの国へ訪れ、人生のハイライトに数えることのできるすばらしい経験をし、母国・日本でたくさんの時間を過ごしてきたが、いまもハンブルグは、私にとって特別な場所として存在し続けている。
3年前から、長い友人である江崎絢子がこの街で暮らしている。私は両親と弟と暮らし、彼女は夫と息子と。30年という時の流れを経て、ハンブルクという街はそれぞれの目にどう映るのだろう? そこで、彼女を誘ってこの連載を書くに至った。
第4回目の今回は、江崎絢子の目を通じてハンブルグの消費生活をご紹介。ハンブルグのリアルなエコ/エシカル事情をお届けする。
1つの街でも、その表情は見る人によって違うだろうーーもしこれを読んでくださるあなたがいつかハンブルグを訪ねたとき、あなたの目に映ったハンブルグもぜひ聞かせてほしい。
アメリカにいる頃は、環境や社会問題に関して「ヨーロッパは進んでいる」という見方が強いと感じていた。
しかしドイツに住むようになってから、ドイツ人は外から思われるほど「環境大国」とか「進んでいる」という意識は強くないのではないか、と気づいた。「エコ」の概念がずいぶん前から特別でなくなっているドイツでは、逆にエコやグリーンといったラベルや売り文句には満足せず、「本当に?」「どこが具体的に?」と突っ込む傾向がある。
ファストファッションより身近な古着ショップ
もともと衣類はセカンドハンド(古着)を買うのが好きなので、セカンドハンドのものを見つけられる機会がたくさんあることも、いま住むエリアが好きな理由の一つだ。いわゆる「古着ショップ」から、チャリティーショップ(※赤十字やオックスファムなどNGOが運営する店で、無料で寄付された衣類を販売する。売上金はチャリティーになる)、そして週末や定期的に開催されるフリーマーケットなど、チャンスはいっぱいだ。
もちろん、新しい服を買うのとは違い、良いものが見つかるかどうかは運しだい。「古着を買う」というのはそういう体験だけど、選択肢もいろいろあるし品揃えも意外に良い。ドイツ人の平均と比べたら体格の小さい私のサイズはあまり人気がないため、良いものがたくさん見つかるという利点もある。
子どもの衣類はフリーマーケット
私は自宅勤務のため、毎日会社に出勤する人に比べたら新しい服を買う必要があまりなく、衣類にかける出費がもともと少ないほうだ。
一方で、子どもができてから古着やフリーマッケットなどで気軽に子ども服やおもちゃなどが見つかるのがとてもありがたいと思うようになった。小さな子どもはどんどん成長する。1シーズンどころか1〜2カ月着たら、もう服が小さくなってしまっている……ということもある。
だから「買うならセカンドハンドで、できるだけ良いものを」という親も多く、子どもが大きくなった親が出店している「子ども服専用フリーマーケット」もたくさんある。幼稚園や公園、イベントスペースなどで開かれるフリーマーケットでは、コーヒーやスナックを売っているスタンドもあり、天気が良い日には週末の楽しみとして散歩がてらに足を伸ばす。出店する人たちが手作りケーキを持ち寄って売り、売上金は地元のチャリティーに寄付されるなど、地域コミュニティ活動とのつながりも見られる。
オーガニックよりもローカル
オーガニック(ドイツ語では「bio〈ビオ〉」)の食品は、大手のスーパーマーケットでもたくさん売られていて、消費者にとってふつうの選択肢の一つになっている。
広く受け入れられている一方で、「オーガニックであれば良いってわけじゃない」「遠い国から輸入されたオーガニックの野菜・果物より、正式に『bio』でなくても、生産地が近いローカルなものを地元のマーケットで買うほうが良い」という姿勢の人も多い印象だ。
毎週決まった曜日には、歩行者用道路や広場が「Wochenmarkt(ヴォッヘンマルクト、『週ごとのマーケット』の意)」に早変わり。野菜、果物、チーズ、パン、蜂蜜……売る人や作った人と交わりながら、「互いに顔が見える買いもの」ができる。
私も週に一回は、近所のWochenmarktにいくつか行ってみる。最初の頃は、ドイツ語で注文するのにドキドキして気が引けてしまっていたけれど、最近はマーケットに行かないとなんだかもの足りないと思うようになってきた。朝早く起きて、犬の散歩に行くついでに近くにマーケットがある日には足を伸ばしたり、市内の違うエリアに住む友だちと会うときはそのエリアにあるマーケットを紹介してもらったり。
多くの人がローカルな消費を好む理由の一つは、マーケットでの買いものが好きだからだと思う。
食料品以外でも、ローカルを強みにする地元ビジネスの人気は高まっている。ハンブルグに愛着を持つ地元市民や、そのイメージに共感を持つ旅行者などの間で「Made in Hamburg」は魅力的なブランドだ。
ハンブルグで「肉なしハンバーガー」
ドイツは日本のようには食にこだわる文化はない。しかしハンブルグのみならず、外食してみるとほかの地域・国の影響を受けた多様な味が楽しめる。料理の種類だけでなく、最近では外食の楽しみ方や食生活のあり方の多様化を反映してか、レストランやメニューの選択肢も少しずつ変わってきている。
最近では一般的なレストランやマーケットなどだけではなく、若い起業家による新しいかたちの食体験がいろいろ展開されている。例えば、地元地域でとれる果物を個人が直接採集、または売買できるプラットフォームができたり、料理教室と貸切りパーティーを組み合わせたイベントが開催されたりしている。
そして、基本的に肉料理が大好きなドイツで、ベジタリアン(菜食中心)・ヴィーガン(純粋菜食)の食も近年広がりを見せはじめている。その波は、「ハンバーガー」の普及に一役買ったこのハンブルグの食事情にも。肉なしのヴィーガン・バーガーだけを売っているフードトラックがあったり、ヴィーガン・メニューを揃えるレストランも一般的になってきていたり。
私はベジタリアンなので、「ドイツは(肉ばかりで)食べるもの見つけるのはたいへんじゃないの?」と聞かれることもあるが、そんなことはなく、むしろ最近では見つけるのが一層簡単になってきている。
ハンブルグでの「カラフルな」地元生活体験
ドイツ語ではコミュニティの多様性を表現するときに「bunt(ブント、『カラフル』の意味)」という形容詞を頻繁に使う。例えば、去年「ハンブルグはカラフルな街」というキャンペーンによる反右翼のデモンストレーションが行われ、1万人以上の市民を集めた。文字どおりカラフルに着飾った人々が、人種差別やマイノリティへの偏見に反対するメッセージを掲げて中心部の道を埋めつくした。
私が出合って愛着を持つようになったハンブルグも「カラフルな街」で、多様な考え方・生き方を誇りを持って受け入れる街だ。「ローカル」な個性を大切にする一方で、多文化が共存する国際都市としてのアイデンティティを、これからもしっかり持ち続けてほしいと願う。
大人になってから移住し、「外国人」として始まった私のハンブルグ生活。
一方で、まだ1歳になったばかりの息子にとってはこれから「自分の記憶がスタートする」歳を迎え、自分の視点でこの街との関係を築いていく。変わっていく社会のあり方や、私たちが知っている「ふつう」とは違う新しい日常を含め、彼の目に映るこれからのハンブルグに出合うのが、私自身楽しみだ。
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