着物の和の柄。その美しさに感嘆すれど、やはり日本人にとっては、どこか見慣れてしまったものなのか……だからか「着物をリメイクした作品」と聞くと、どこかステレオタイプを持ってしまうことはないだろうか?
フランス・アルザス出身のデザイナー・Clémentine Sandner(クレモンティーヌ・サンドネール)が手掛ける「着物をリメイクしたコレクション」を目にしたときには、「やられた!」と打ちのめされてしまう。「〈着物のリメイク〉に、こんな表現があったんだ!」
Clémentine Sandner 2017AWコレクションから(Photography: Matthieu Fischesser, Courtesy of Clémentine Sandner)
ストリートスタイルに、和がフェミニンに調和する。そんな新しい解釈を可能にするのは、異国の文化を背景に持つからだけではない。Clémentineはいかに「日本」を解釈しているのか尋ねてみた。
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―― まずはあなたのバックグラウンドについて教えて?
ESMODリヨン校でファッションデザインを学んで、ロンドンで働いてから、2014年に来日。同じ年に自身のコレクションをリリースしたわ。現在は京都にアトリエを構えているの。
日本へ来たとき、着物がとにかく美しくって。着物をメインに使うことを決めたわ。
どうしても日本を離れたくなかったから、専門学校でファッションデザインを教える仕事をもらって、早くも3年目。でも、まだ3カ月くらいしか日本にいない気がしちゃう!
いままでは仕事の合間にコレクションを作っていたけど、昨年から本格的にブランドとしてスタートしたわ。
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Clémentine Sandner 2017AWコレクションから。(Photography: Matthieu Fischesser, Courtesy of Clémentine Sandner)
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―― コレクションに使用する着物はどこで入手しているの?
私が使っているのは、古物市で見つけたヴィンテージ着物やアンティークの布。
東京、京都と比べると、大阪のほうが淡い色の着物が多く見つかるわ。大阪ではあえてそういうライナップにしているのか、私には分からないけれど……でも、京都は高い! きっと、旅行者向けのお値段ね。東京、大阪はお手頃よ。ダメージがひどい処分品が多いかも。
私の場合は、汚れや穴を楽しんでるからぜんぜん気にならないの。着物は直線でできているから切り出しやすいし、ステッチや刺繍を掛けて、デザインのギミックにしたりしているわ。
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Clémentine Sandner 2017AWコレクションから。ダメージの見られる箇所にはプリントを施したりなどして生かすのが流儀。(Photography: Matthieu Fischesser, Courtesy of Clémentine Sandner)
―― デザインする際はどうやって進めているの?
まず着物を見つけてきて、買ってきたものを床一面に全部広げるの。それで、どんな文様・カラーが揃ったか眺めてみるの。すると、コレクションのストーリーが湧き上がってくるわ。
例えば、2017年秋冬コレクション用の着物を買ってきたときは、花柄が中心だった。そしてちょうどミリタリーな気分だったから、ミリタリーと花を掛け合わせていったの。
最初から、「今期はこういう方向性で、こういう服を作る」って、決めて取り掛かることはないかな。
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Clémentineの、柄のセレクト・組み合わせの妙。
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―― 着物のどこに魅了されたの?
着物に描かれるモチーフには、小さくさりげなく配されているものも多くて、そこがデリケートで好きだわ。近くで見ないと、それが何か分からないの。
このボーダートップス(下写真)に使った生地にあるモチーフなんて、なにかの箱であることは分かるけど、見る人によってぜんぜん答えは違うのよ。
ある人は薬入れ、ある人は貴重品入れって言ってた。私は弁当箱って思ったけど、「あなた食べ物のことしか考えてないのね!」って笑われちゃった! でも、お弁当は貴重品よ(笑)?
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でも一番は、文様かしら。ナイーブで繊細、ちょっとあどけなさもあって、無垢っていうのかしら。着物に描かれるのは、季節、自然、そしてそれらに支えられた「日常」。だって、人の営みは全て、自然に根ざしたものだものね。いかに日本人は、丁寧に自然を見つめてきたんだろうって思うのよ。
日本に来て驚いたものの一つは、桜。立ち止まって桜を眺めるのは、旅行者じゃなくて、他ならぬ日本人なの!
日本人って、みんな毎日すごく忙しくしてる。でも春になれば、多くの人が、わざわざ立ち止まって道すがらの桜を眺めているの。きっと、桜がすぐに散ってしまうことを知っていて、だからこそその一瞬を慈しんでいるのだと思ったわ。
フランスにいるときは、そんなこと思いもしなかった。「花は散るものでしょう?」くらいで、さっさと通り過ぎてたものよ。
―― 国内外問わず、いままで多くの人が「着物のリメイク」に取り組んできた。でもどこか、「ありがち」なものが多かった。ナチュラルに取り入れているところに感動する!
私は逆に、フランスの伝統的な文様を見ると、「ダサい」と感じてしまう。好きだけど、見慣れすぎて「古臭い」って思っちゃうの。例えば、故郷・アルザス伝統の花模様は、私には表現がオーバーと感じちゃう。日本人は「キレイ!」って言ってくれるけど。
きっと、着物を見るときの私の視線と同じなんだと思うわ。
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Clémentineの故郷、フランス・アルザスに伝わる文様の画集。
異なる文化をいかに「翻訳」するか ーーそれはどこの国でも「外国人」にとって自然なことで、私だけの特権ではない。けれど、コレクションを見て「こんなの見たことないわ!」と言われるのはやっぱり嬉しい。
―― 「エコ」「リサイクル」をはっきりコンセプトとして明言しているけれど、もともとそれらに興味があったの?
そうね。きっと親の影響ね。特に父がお金の使い方に厳しくて、何かを捨てようとしても、必ずリユースするように言われたわ。「まだ使えるだろう? 工夫しなさい」ってね。
ファッションを学んでみると、いつもみんな新しいものを探しているのに、結局みんな同じ生地を買って、似たようなものを発表しているの。それで、「何かみんなと違うことがしたい!」って気持ちが強くなって。「みんなが見落としてしまったものを使って、みんなの目を引く美しいものを作る」っていうのが、とても楽しかったのよね。
だからチャリティショップに通って、リユースする生地を探して、卒業制作もリサイクルをテーマに作ったわ。端切れを組み合わせた作品を発表したの。
ただ、ヨーロッパでもまだまだ「リサイクル」に良いイメージはないかもしれない。卒業制作を先生やプロフェッショナルの方々に見せたら「でも結局、『使い古し』でしょう?」みたいに言われちゃった。
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卒業制作の作品(2013年)。古布を繊維にしたリサイクル作品。(Courtesy of Clémentine Sandner)
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―― 「リサイクル」のおもしろいところは?
「リサイクル」が好きなのは、「あるもので作る」っていうのが、すごくクリエイティブだと思うから。
デッドストックや古着の生地を使うと、全く同じものをたくさん作るっていう「量産」はできない。いまのコレクションも、同じものを2枚と作れないものも多いわ。パターンや形、色目が同じでも、違う着物の生地を使っていて、「全く同じ」アイテムはないの。それをおもしろがってくれる方々が取引先になってくれているのは、すごくうれしい。
一方で、百貨店や大きなセレクトショップでは、「全く同じものをサイズ違いで揃えてくれないと売れない」って、言われちゃうこともあるけど……!
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Clémentine Sandner 2017AWコレクションから。(Photography: Matthieu Fischesser, Courtesy of Clémentine Sandner)
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―― 最後に、これからの予定は?
日本が大好きだけど、その魅力をインターナショナルに発信していきたい。だから、日本以外での販売に注力していきたいの。きっと、日本以外の国の人にも、新鮮な日本のイメージとして受け取ってもらえると思っているわ!
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