ライブ出演を目指して義足用のハイヒールを作ったことから始まった両足義足のアーティスト・片山真理さんの「ハイヒールプロジェクト」。その中で真理さんが知ったのは、福祉と装いを取り巻く環境についてでした。
「オシャレするという選択肢を持てない。そもそも選択できるということを知らない」。
このプロジェクトでは義足を見せ、ハイヒールを履いて街へ繰り出した真理さん。その姿に、「『オシャレしたい』って言っても良いんだと思えた」という声が、障がいを持つ方々から集まっています。
今回、真理さんが「先生」と呼び、同プロジェクトを当初から支えた、衣服・介護シューズコンサルタントの岩波君代さんと対談。40年以上、義肢装具や福祉機器の現場を見続けてきた先生と、〈障がいとオシャレ〉の現状や関係について話しました。
「みな、自分の体がどうなっているのかをきちんと知ることが大事。骨まで愛して〜♪ ってね!」と言う岩波さんと脚の骨を持って。
昔から変わらないメッセージ
岩波: 障がいの方々が困っていることは、40年前からまったく変わらないですね。昭和45年頃、小さなエッセイ集を買ったんです。いま読んでも書かれている話はいまに通じるんですよ。一つ読んでみますね。
これを書かれた方は両足が悪く、特に左足が小さい。自分の足に合う左右サイズの違う靴を作ったら、すごく歩きやすかったけど、みんなと見た目が違うから気になった。だからといって、既成品のスーツを買ったときは身体に合わず、動くと着くずれが起きるのか、足が悪いのが目立つ気がして居心地が悪かったーーこれは、障がいの方から本当に多く聞かれる悩みですね。
そんな方が、ゴッホの絵を見に行ったときの話です。
僕は絵が好きなので、よく展覧会を見にいきます。ゴッホのひまわりの絵に出会った事があります。強烈でクラクラし、僕など初めのうちはその美しさがわかりませんでした。
でも、みなは一目でゴッホの美しさに感嘆するのです。ゴッホはひまわりの花を借りて、自分の花を創りだしたのです。ピカソ、マチス、みな自分のものを創ったのです。ですからみなが感嘆するほど美しいのです。
身障者はみな体の形が違うのですから、人のコピーでは美しくないのです。僕はいつも人の事ばかり気になり、自分のものを作る努力を怠ったと思います。僕は印鑑を彫る事を仕事にしてから十年以上になりますが、まだまだ自分に気に入ったようには彫れません。
この小さな印鑑が美しく彫れるようになったら、僕も美しくなれるような気がしております。(「パラモード’70」身障友の会、1970年9月6日初版、大竹一郎、p.21より引用)
岩波: まだファッションの「ファ」の字もない時代に書かれたものですが、読むと、街や人前に出ていこうとするときの人間の気持ちは、いまも昔も変わらないって思うんです。自然と「オシャレにしたい」って気持ちが芽生える。だから周りの受け止める人たちこそ変わらなければ、これからもなにも変わらないと思うんです。
片山: すごい。46年という時間を超えて、ぜんぶ分かる……。これを書かれた方は、きっと一生懸命「美しさってなんだろう?」と考えたんだろうと思う。
岩波: 私もすごく教わりました。昔の人たちも「機能と美しさ」を両立させるために、「ここをファスナーにしたら?」「こういうパターンにしたら?」って試行錯誤してきましたし、リメイクやリフォームで自分なりに工夫してオシャレしてきた人もいっぱいいます。その経験や思いを、作る側の人たちに知ってほしい。患者さんの経験が受け継がれていくことで、社会全体の経験が増えて、深みになります。
片山: 障害が似てても、一人ひとりとにかく違って、同じ「人」はいないから。人がおもしろいっていうのは、そういうことですよね。
経験を伝えていくために……
片山: 子どもの頃から足を見てくださってた方々が、そろそろ引退するんです。世代交代のタイミングなんですが、これまで伝えてきた思いや意見が伝えられてないのを見て、「また一からか」って、正直思ったんです。
岩波: せっかくそれぞれ専門の中で、いろいろな経験をしている人たちがいらっしゃるのに、共有されなかったら自分の中だけで終わってしまいます。そうすると、次の世代の人は同じ悲しい思いを繰り返すほかないですよね。
じゃあどうやって継承すればいいかというと、みんなで共有できる場があるだけでいいのかな、と思うんです。患者さん、義肢装具士さん、お医者さん、アパレル業界の人、そのほかいろんな人たちが、学んだり触れ合ったり、共有したりできる場。
片山: 昔の人たちが頑張ってやってきたことを受け取れる場、ですよね。
岩波: 時代によって価値観が違うならその必要はないですけど、人の思いが変わらないのを見て、若い人たちに伝えたいことが、結構出てきたんですよ。年をとったっていうことね(笑)。同じことを繰り返さないでほしい。だからつなげていきたいんですよ。私は接着剤の役かなと思うの。
片山: プロジェクトをやってから、義肢装具や靴を作っている若い子たちからの連絡をたくさんいただくんです。話を聞くと、みんないろんな挑戦をしてる。
いままでたくさん年上の先生方から知恵や愛情をいただいて育ってきたので、今度は私もそれを彼らにも伝えて、もっと深めていけたらいいなって思うんです。
先生、「義肢装具女子のための女子の会」とかどうですか?
岩波: まさに「女子会」って言っただけで、オシャレで話題になりそうですね(笑)。
片山: じゃあ、そのときは来てくださいますか?
岩波: もちろんです!
コメントを投稿するにはログインしてください。