ライブ出演を目指して義足用のハイヒールを作ったことから始まった両足義足のアーティスト・片山真理さんの「ハイヒールプロジェクト」。その中で真理さんが知ったのは、福祉と装いを取り巻く環境についてでした。
「オシャレするという選択肢を持てない。そもそも選択できるということを知らない」。
このプロジェクトでは義足を見せ、ハイヒールを履いて街へ繰り出した真理さん。その姿に、「『オシャレしたい』って言っても良いんだと思えた」という声が、障がいを持つ方々から集まっています。
今回、真理さんが「先生」と呼び、同プロジェクトを当初から支えた、衣服・介護シューズコンサルタントの岩波君代さんと対談。40年以上、義肢装具や福祉機器の現場を見続けてきた先生と、〈障がいとオシャレ〉の現状や関係について話しました。
「みな、自分の体がどうなっているのかをきちんと知ることが大事。骨まで愛して〜♪ ってね!」と言う岩波さんと脚の骨を持って。
装いを取り巻く福祉の状況
しくみの問題
片山: ハイヒールを作り始めて感じたのは「自由のなさ」だったんです。ヒールは当然ダメって言われたし、義足に色を着けるのすら製作許可が降りなかったり……。確かに義肢装具は公費から支給を受けて作るのですが、ワガママを言いたいんじゃなくて、「見た目の選択肢はコレだけ」というのが疑問だったんです。
岩波: いまも昔も、義肢装具はデザインじゃなくて、機能ばかりが優先されていますね。
私は昭和46年に東京都補装具研究所に入って、医者、義肢装具士、PT、OT、心理士、社会福祉士、エンジニアから成るチームワークの中で、障がい者の衣服・靴の機能とデザインの研究開発という、ちょっと変わった立ち位置にいました。
いろんな障がいの方と出会いながら、ずっと「使う人がどんなものを身につけたいのかが、義肢装具づくりに反映されていない」と、感じていたんです。どんなものが着たいか、作る側も聞かないし、使う側も語らない。それはなぜかというと、義肢装具は「治療」の一環であって、装うことは「治療」ではないから。
本来、機能とデザインは切り離せないもののはず。「義肢装具ももっとその両立にチャレンジしようよ」と、思っていました。
義肢……外傷や病気などで手足を失った場合に用いる人工の手足。義手と義足に大別される。
装具……外傷や病気などで負った障害を軽減するために使用する補助器具。
(※義肢装具は高額なため、障害者自立支援法で製作や修理費用の支援を受けることが可能)
PT……理学療法士。医師の指示の下、座る・立つなどの基本的な運動能力の回復を援助する。
OT……作業療法士。医師の指導の下、リハビリテーションを行い、食事・更衣・排泄・入浴動作など、日常生活に必要な能力を高める。
義肢装具士……医師の処方の下、義肢・装具を作るための採寸・採型から製作、フィッティングまでを行う。身体に触れて型取りや装具の調整することは、国家資格を持った義肢装具士だけに認められている。
片山: 私自身、義肢装具を作ったり直したりしてくださる方と、使う人が顔を合わせる機会が少ないというのは感じますね。そもそも「オシャレにしたい」「こうしたらいいのに」っていうアイディアがあっても、義肢装具は資格がないと作れないですし。
岩波: 職種によって、して良いことダメなこと、厳格に線引きされていますね。例えば義肢装具士は、身体を動かしやすく、生活できるよう医者が処方したものを作るのが役割。だから「もっとオシャレにしたい」って言われても、「それは自分の役割にない」って認識かもしれません。必要があってそういうしくみになっているので、「誰が悪い」ということではないんですけど。
コミュニケーションの問題
片山: それに作る人も使う人も、「オシャレに〜」なんて気を配る余裕がないというのもありそう。だって、「ここがかすれちゃう」「ここがぶつかって痛い」っていうのを、何度も何度も直して、ようやく「やっと歩けるようになったね」ってところまでいく。やっとそこまでたどり着いたのに「ここの色が気に入らない」って言われたら、作るほうはイラッとすると思うし、本人もそのときには気力が残っていないんじゃないかな。
岩波: そもそも本当に合う義肢装具を作るのすら大変なことだからね。
昔、もう何軒も義肢屋さんをめぐっている方がいました。その人は運動まひなんですが、医療関係の仕事をされていたので、ご自分の筋肉の状態などが分かるんです。だから、装具が身体に合ってないから歩けないと分かっていらした。それで「この筋がまだ使えるから、ちゃんとここを固定する装具にしてくれたら歩ける」って、ずっと言い続けていたんです。ところが、なかなか思うとおりのものができない。あちこちでトライするうちにまひが進行して、歩くのもたいへんになってきて……。結局諦めて、その後は車いすを使うことになりました。
片山: 加えて、単に「オシャレにする意味が分からない」っていうのもあるんじゃないかと思うんです。例えば私が「ここ5mmくらい削ってシャープにしてほしい」「ここのステッチは黄色がいい」とか言うと、義肢装具士さんとかに「は?」って真顔で言われる。「なんでそういうリクエストを言うのか?」と思う以前に、単純に「なに言ってるんだろう?」って、思ってるんじゃないかな。だから、伝え方や付き合い方なのかなって最近思うんですよね。
岩波: それでいうと使う人も、できることを知らないから伝えていないというのもありますね。どういう加工ならできて、またはできないのか、使う本人が分からず「絶対にこれを履かなきゃいけない」と、思い込んじゃう。
ある方が、短下肢装具が合わなくて、靴が破れちゃう悩みを長年抱えていらした。でもあるとき「ここをあと2mm削ってくれたら、靴が破れないのに……」ってふとこぼしたら、「じゃあ、削っておくね」って、あっさり削ってもらえて、驚いたって言ってましたね。
片山: 結局、使う人が「この装具でこの靴を履くんだ」とかって伝えたりして、コミュニケーションがあればいいんですよね。できないならなぜできないのか、理由が分かれば納得できますし。
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