【連載】Behind LOVES 〜恋の裏側のぞいてみました〜【全6回】

人材ビジネスから農業へ…… 畑で人生の答えを見つけた夫婦のストーリー

A Picture of $name 石根ゆりえ 2016. 2. 14

「疲れた顔してない? 畑に来たらパワーもらえるから、遊びにおいでよ!」

今回のきっかけは、大手人材会社のエースから独立して人材会社を経営というエリート街道から飛び出し、それまでのキャリアと真逆の農業に挑戦する卓志さんの一言でした。

なぜ畑……? そんな疑問を持ちつつ、白土夫婦を訪ねました。

農園の中で、自然体に生きる白土夫婦。二人には、どのようなストーリーが隠されているのでしょうか?

(右)白土卓志さん 大手人材会社に9年勤務後、独立。人材会社を経営する傍ら農業を始め、2014年11月人材会社取締役を退任し、2015年3月株式会社いかす(iCas)を創業。農薬・肥料を使わない無農薬野菜の生産・流通・販売などを手掛ける。 (左)白土栄子さん 同じく大手人材会社に入社後、人材開発会社に転職し、研修プログラム開発やセミナーなどを経験。現在は人事コンサルティングや企業研修に従事しつつ、システムコーチングの国際ライセンス取得に向けて活動中。 (右下)長女・心海(ここみ)ちゃん・5歳、(左下)長男・志空(しくう)くん・1歳

(右)白土卓志さん
大手人材会社に9年勤務後、独立。人材会社を経営する傍ら農業を始め、2014年11月人材会社取締役を退任し、2015年3月株式会社いかす(iCas)を創業。農薬・肥料を使わない無農薬野菜の生産・流通・販売などを手掛ける。
(左)白土栄子さん
同じく大手人材会社に入社後、人材開発会社に転職し、研修プログラム開発やセミナーなどを経験。現在は人事コンサルティングや企業研修に従事しつつ、システムコーチングの国際ライセンス取得に向けて活動中。
(右下)長女・心海(ここみ)ちゃん・5歳、(左下)長男・志空(しくう)くん・1歳

―― まず、お二人の出会いを教えてください。

卓志: 栄子は、僕が新入社員のときの教育担当。当初から仲は良かったですが、入社2年目で同じチームになり、厳しい状況をともに戦ううち、自然と付き合うようになりました。

栄子: 出会って15年になるんですね。長いような、あっという間のような……。でも彼って、結構重要なタイミングで無職なんです(笑)。結婚式のときも無職で、長男が生まれたときも無職が確定していました(笑)。

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―― え? それはなんでですか?

卓志: 結婚式のときは、ちょうど新卒で入社した会社を辞め、独立準備中。そして長男が生まれたときは、独立した会社の役員を退任するのが決まったタイミングだったんですよね。

栄子: 長男が生まれた翌日に、突然「俺会社辞めるわ!」と報告があり、「お、おう……!」という感じでしたね(笑)。

卓志: そのタイミングで、本格的に農業をやろうと決断しました。

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―― 家族が増えるタイミングで、栄子さんは心配はありませんでしたか?

栄子: それが、大きな心配はなかったんですよね。卓志は、誰にでも物怖じせず意見を言い、そのうえで互いに気持ち良いコミュニケーションを取れる希有な人。そんな彼はいつか起業するだろうと思っていたし、彼のやりたいことを応援したい気持ちが強かったです。

卓志: 結婚式の際、互いへの約束事を書いたのですが、栄子は「起業家の妻として夫を支えます」と書いてくれました。昔もいまも、本当に支えてくれています。僕は志低く、「一年に一回旅行に行く」「一週間に一回はいっしょにご飯を食べる」「一日に一回は栄子と話をする」と書きました。もちろんずっと守っています!

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―― 卓志さんがそれまでのキャリアを断ち切り、農業に踏み切ったのはなんでだったんですか?

卓志: その理由は単純で……。僕は学生時代から「未来日記」をつけて未来の計画を立てているのですが、32歳の欄に「農業大作戦!」と書いていたんです。だから32歳に近づいてきて、「あ、そろそろ農業始めよう」と。深い理由がなくてすみません……(笑)。

僕が実践している野菜作りは「炭素循環農法」という、農薬や肥料を使わず、自然の力で作物を育てる有機農法です。当時は、人材会社を経営しながら農園を耕すダブルワークの日々でしたが、オーガニック野菜のイベント出展や野菜の配達も始め、しだいに無農薬野菜のファンが増えていったんです。そして僕自身も、無農薬野菜農法の世界にのめり込んでいきました。

―― 無農薬野菜農法のどんな魅力に惹かれていったのですか?

卓志: まさに「活かす」ことですね。土に肥料を入れると、作物が肥料を奪い合い、肥料がなくなると病気になったり、枯れてしまったりします。でも、肥料がないと作物は生きるために土壌の微生物と共生関係を築き始めます。つまり、「奪い合いの世界」から「活かし合いの世界」へ変化するんです。互いに活かし合ってできた野菜は気持ち良いし、なによりも最高においしいんですよ。

この世界観はとても平和で生き生きしていて、無農薬野菜が世界中に広がることで、ピースフルな世界が築けると本気で思いました。

すっかりのめり込んだ農業に本格的にチャレンジするため、前職を辞め、株式会社いかす(iCas)を設立しました。そうしたら、いま一緒にやっている仲間たちが、いろんなところから自然と集まってくれました。やるタイミングだったんでしょうね。

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―― 農業を始めて、変化したことはありますか?

卓志: 僕は農業に出合って、大きく考え方が変わりました。問題が起きたときに、「なんとかする」という考え方から、「なんとかなる」という考え方になりました。いままでは、事態をなんとかしようとファイティングポーズを取っていましたが、自分が直感的に信じることをしていれば物事は正しい方向に転がっていくし、その方向に自分が寄ればいいんだと思うようになりましたね。いまは全く肩肘張っていない。農業と自然は偉大です!

栄子: 私は人材ビジネス・人材開発の仕事にやりがいを感じていました。しかし、組織の課題は研修一つですんなり解決するものではありません。知識を与えるだけでは変わらないこともある。なにが本当に組織のためになるのか、もっとできることはないだろうかと、いつも考えていました。
 でも、あるとき夫の農園で、「自然は完璧」という言葉を聞いて、その答えを見つけた気がしたんです。

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―― つながりが見えにくいのですが、農園と組織にどのような共通点があるのですか……?

栄子: 夫の仕事を横で見ながら、まさにこの野菜作りこそ組織作りそのものだと感じたんです。無農薬野菜農法は、関係する作物・土・微生物が、一切の無駄なく、あるべき姿で命を循環させています。お互いを完全に活かし合い、共存するあり方はまさに組織です。この農業の世界観を、現実世界の組織で実践したいと強く感じました。

そして、この考え方に近い「システムコーチング」という組織ビルディングの方法を学び、実践しています。いまはシステムコーチングを用いて、家族・夫婦・友人など、さまざまな組織の関係を豊かにしていきたいと思っています。

―― 農園=組織。農業って、本当に奥が深いです……。最後に、お二人の今後の目標は?

卓志: いかす(iCas)の合い言葉は、「つくって、とどけて、たべて、あそぶ。」。生産する・流通する・食べるのプロセスを可視化してつなぐこと、世界中の台所を無農薬野菜で埋め尽くすことが、一歩目の目標です。

栄子: 私は現在、子育て・仕事をしながら、システムコーチングの国際ライセンスを取るため、スクールに通っています。かなりタフなスケジュールですが、やっと自分が「これだ」と思う考え方を手に入れたので、これまで悩んでやり残したことをしっかりやりきり、自分を育ててくれた組織やみなさんに恩返しをしていきたいです。

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(インタビューここまで)

厳しい競争社会を勝ち抜いてきたお二人。そのお二人が、農園という一般には非日常の空間で、しかもいままでのキャリアと真逆の場所で、新しい価値観や人生の目標すら発見されたことに、ただただ圧倒されるばかり。
 農園を通じて、それぞれ人生をかけた目標を実行するお二人は、「かっこいい」の一言です。

「自然には、人間には到底及ばない力があるんだよ」と白土夫婦。お二人の笑顔の中に、その見えない力を感じました。

iCas storia

株式会社いかすが運営するレストラン。iCasが手がける無農薬野菜を提供している。
Website:http://www.icas.jp.net/icasstoria/

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