2015年9月、とある展示会でお目見えした美しい陶器のマグカップとカップ&ソーサー。乳白色の優しい色合いと艶に惹かれ、「これ、欲しい!」と両手で包むように手に取ると、手づくりの温かみとなんともいえない品が。
フェアトレード陶器 プリスティン・シリーズ マグカップ(¥3,900+税)/ カップ&ソーサー〈1脚〉(¥5,000+税)
こちらのカップ、「THREE PANS(スリーパンズ)」というブランドのもの。ギフト、特に結婚式の引出物として販売されるそう。新郎新婦が引出物として参列者に手渡す際には、式場を満たす幸せを寄付というかたちでお福分けできる“しくみ”が備わります。
「THREE PANS」を「人のやさしさを引き出すエシカルギフトブランド」と話す、代表の久保田優さんのお話から見えてきたのは、ブランドの根本にある久保田さんが抱いてきた思いと、ストイックな姿勢でした。
本当に幸せになるために
「THREE PANS」の陶器製のカップは、フェアトレード認証を受けたネパールの生産者団体を通じて一つ一つ手作りされており、長年陶器づくりをしてきた職人を中心に、シングルマザーなど社会的に地位が低い女性たちも参加しています。
どんなものが好まれるかは、国により大きく違うもの。
デザインを図面化したり釉薬の組み合わせまで細かく伝えたりしても、全く違う色や柄のものがあがってきて驚きました。
しかし、彼らの基準で良いと思うものを提案しているのだと気づき、まず日本の感覚を理解してもらえるよう努めました。
品質に最も厳しいといわれる日本で、しかも選択の基準がより厳しくなるギフト市場で受け入れられるものを……となると、求めるレベルはより高くなります。
一方的に指示をするのではなく、職人たちのこだわりや提案に耳を傾けながら、互いを理解したうえでともに作り上げたい ――その思いで形やデザイン、1ミリ単位のやり取りを数えきれないほど繰り返したのだそう。
作る人も受け取る人も、本当に幸せになれるものづくりを彼らとしようと決め、心を鬼にしてのことだった、と久保田さんは振り返ります。
貧困が可能性を制限する
「幼い頃から貧困問題に強く関心を抱き、貧困は人の可能性を制限すると感じていた」と語る久保田さんがフェアトレードの概念に出会ったのは2008年、奨学生として入学した大学からの推薦で留学したイギリスでのこと。
私自身、生まれ育った家庭環境の中で、思いどおりになることばかりではなかったので、他人事には思えなくて。
なんとか世界の貧困問題を解決できないかと考えていました。だからフェアトレードを知ったときには、これだ!と思いました。
帰国後はフェアトレードを広める学生団体を設立。海外のフェアトレード機関に直接コンタクトを取り、単身現場を視察するほか、エシカルを軸にしたプランでビジネスコンテスト奨励賞受賞など、起業を念頭に置き精力的に活動。
卒業後はさらなる力を身につけるため、一度は一般企業への就職という道を選びます。選んだのは商社の営業職。しかも自ら希望し、大阪へ。
営業職はオールラウンダー。このスキルを身につけたいと思い、営業が最も活躍する商社を選びました。商売に厳しい大阪で営業ができれば、どこでもできると聞いていましたので、それならば大阪で、と。
静岡で生まれ育ち、大学時代を東京で過ごした久保田さんにとって、まったく馴染みのない大阪での、初めての社会人経験。
忙しい日々に思い浮かんだのは、「勉強がしたいけれど、家の仕事を手伝わなければいけないから学校に行けない」と話すフィリピンの農家の12歳になる女の子や、「フェアトレードの仕事のおかげで子どもを養えるようになった」と笑うネパールのシングルマザーの姿。
くじけそうになる心を支えたのは「ここで諦めたら起業なんてできるはずがない」という思いだったといいます。
幸せを共有するにはしくみが必要
フェアトレードと並ぶ「THREE PANS」の大きな柱は、優しさを引き出す“しくみ”づくり。久保田さんの思いがしくみを生み出しています。
例えば、冒頭で紹介したカップについているしくみは、こんな思いから生まれました。
初めて友人の結婚式に参列したとき、式場に満ちる幸せのエネルギーがすごくて! このエネルギーを式場だけにとどめておくのはもったいないと思いました。ネットやSNSで世界中の人々とつながり、情報をシェアできるなら、幸せもきっとシェアできるはず。それから、式場の外にこの幸せをお福分けするしくみを考えるようになりました。
そこで生まれたのが、引出物に寄付をつけ、寄付先を新郎新婦に選んでもらうしくみ。さまざまな社会問題の解決に取り組む複数の団体の中から寄付先を選ぶ。この「選ぶ」プロセスで、優しさが引き出されていくはずと、久保田さんは言います。
支援先をどこにしようかと「THREE PANS」独自のカタログを眺めると、世の中にあるさまざまな問題に出合い、もう少し詳しく知ってみようと興味を持つこともあるでしょう。
問題解決への取り組みをより深く知ったうえで、自ら支援先を選ぶ。この過程が、思いやりの気持ちや優しさが少しずつ引き出されるきっかけになるよう、願っています。
日本ならではのエシカルを世界に
引出物は、福をひとり占めせず、皆で分けようとする精神が反映された日本らしい慣習。日本人にもともと備わる優しさのやり取りを通じて、式場の外の困っている方々にも優しさを届ける――久保田さんは、日本のエシカルはそういうものではないかと提案します。
「THREE PANS」は3つの天秤皿=日本古来の考え方、三方よしをベースにしています。
商品を作る人と使う人の幸せのほかにも、どこかで誰かが笑顔になるようなしくみを添えて、日本ならではのエシカルを世界に発信していきたいと思います。
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