10年近くにわたり、テキスタイルを用いたものづくりに取り組んできたという、デンマーク出身のテキスタイルデザイナー・Rosa Tolnov Clausen(ローサ・トルノフ・クローセン)さん。ヨーロッパという地域が育んできた技術や強み――それを理解して深い洞察を得るために、これまでさまざまな取り組みを行ってきた彼女の目標は、デザイナーじゃないいろんな人を巻き込んだインタラクティブな織物づくり。
そんなローサさんが「Design with People(人といっしょにデザインする)」をテーマに、ヨーロッパでのさまざまな取り組みを紹介します。
素晴らしいクリエイターとの出会いは、私の感性は刺激してくれる。そんな私の「ヒーロー」は、テキスタイルデザインの分野のみならず、音楽であったり職人だったり、多岐にわたる分野に存在する。
デザインスタジオ「COMPANY」のこと
フィンランドのデザインスタジオ「COMPANY」は、2012年に存在を知って以来、常にチェックしている私のヒーローだ。「COMPANY」は、フィンランド人のJohan Olinと韓国出身のAamu Songの二人からなり、2000年にデザインスタジオとして活動を始めた。
彼らの作品で初めて見たものが、「The Reddress」。しかし、最初はそれが「COMPANY」の作とは知らず、ただただ作品に圧倒された。
「The Reddress」は、550mもの長さの赤い生地を使った巨大なドレスで、演奏家の衣装として制作された。ミュージシャンが地面から3mの高さに立ちってドレスに身を包むと、裾は直径20mにもなる。裾には238個ものポケットがついており、人が一人すっぽり入るくらいの大きさになっている。つまり、オーディエンスがポケットに入って寝転がり、演奏を楽しむことができるのだ。
ドレスは、デンマークのルイジアナ近代美術館で2005年に初めて使用された。以来、世界中のコンサートで使用されている。クラシックなコンサート会場の場で、なんとも言えない心地よさと、演奏者と観客の間に温かい絆が生まれ、ポジティブなムードが漂っているであろうことは、想像に難くない。
ステージデザインからプロダクトデザインまで。「COMPANY」は、あらゆるクリエーターとコラボレーションしながら、広範にわたる分野のプロジェクトを手がけている。そんな「COMPANY」の姿勢は、飽くなき探究心と挑戦する勇気そのもののような気がする。彼らのジャンルの垣根を越えていく挑戦は、学ぶべきところが多い。
「Secrets of…」
「COMPANY」の「Secrets of…(〜のヒミツ)」というシリーズは、その地方特有のローカルな実用品から着想を得たシリーズだ。その土地に受け継がれる伝統工芸品を、モダンに「翻訳」するだけでなく、伝統工芸品と私たちの間に新しい関係性を作り出している。
「COMPANY」は、ウェブサイトで次のように作品について説明している。「このプロジェクトは、一つの疑問からスタートした。『フィンランドでいまだに作られているものにはどんなものがあるのだろう?』。しかし私たちは一つも答えられなかった。ならば、探してみよう」
「COMPANY」は、フィンランドでいまもものづくりを続けている工場・工房を探し当て、その伝統工芸品がどういったものなのか、どのように作られているのかを念入りにリサーチ。そして、それを元に現代的な新しい解釈を加えたプロダクトを考案し、伝統工芸品を作る工場で作っている。
その作業を繰り返し、シリーズとして作り続けられているのだが、フード付きバッグやフェルトのダンスシューズなど、さまざまなプロダクトが生まれている。いずれも、長い歴史を持つフィンランドの工場で製造された。また、一連のプロダクトは、ヘルシンキ現代美術館(キアズマ)で個展が開かれた。「Secrets of…」がおもしろいのは、ユーモアがあるところだ。そしてそのユーモアをもって、工芸品とそれを作る技術を紹介している。
(Photography: Courtesy of COMPANY)
「確かに私たちが作った品だけど、なんだか新しい感じがするね」
筆者が自分のプロジェクトを作るためにあちこち旅をするわけだが、その道中、私はいつも次のような問いを持って旅するようにしている。「この土地に受け継がれている伝統的なテキスタイルにはどのようなものがあるのだろう?」「どのように作られているのだろう?」「いまはどのくらい作られているのだろう? そして誰が作っているのだろう?」そんな問いから、伝統工芸品の本質まできちんと理解したいと思っている。
「Secrets of…」プロジェクトは、エストニア、ロシア、韓国と地域を拡大しているのだが、近年、「Secrets of Northern Japan」として日本北部の伝統工芸品に着目したシリーズを発表。2015年夏、青森県立美術館で展示されたが、8月に私はそのオープニング・セレモニーに参加し、彼らのトークショーを聞いた。
(左)こけしをスツールに再解釈した。(右)フィンランドの木材を使った箪笥と、下駄のローラースケート。
感動したのは、その会場にいた伝統工芸品を作る職人さんが「確かに私たちが作った品だけど、なんだか新しい感じがするね」と言ったこと。これはすごい発言だと思った。なぜなら、工芸品の本質まで理解して作品に落とし込んでいなければ、本質を保ったまま新しい見せ方はできないし、作った当人からそういった発言を引き出すことはできないと思うからだ。
この8月のトークショーは、デザイナーと職人の協働について、さまざまな示唆が含まれていた。次回はそのトークの内容を基に、デザイナーと職人の協働ということについて、深く考えてみたい。
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