黒一色で装飾の少ないドレス、リトル・ブラック・ドレス(LBD)。
タイムレスな定番かのように扱われるLBDですが、実はその歴史は100年にも満たないもの。もっと言えば、近代ファッションに起こった「革命」でもあるのです。
リトル・ブラック・ドレス誕生
リトル・ブラック・ドレスを生んだのは、かのココ・シャネル。1926年、Vogue誌上で、シンプルなドロップウェストの黒一色のドレスを発表しました。
それまで「黒」……特に「黒一色の服=喪服」と認識されており、ヴィクトリア朝時代には、多く作られていました。しかしシャネルが発表するやいなや、20年代の「イット・ドレス」として一世を風靡します。
シャネルがインスピレーションを得たのは、第一次世界大戦の農家の寡婦といわれています。
黒いドレスは汚れを目立たせず、合わせるアクセサリーで表情を変えることができ、シャネルが重視していた機能性の面でも抜群。
折しも1929年に米国に起こった大恐慌の頃は、質素倹約の時代。それが逆に追い風になり、リトル・ブラック・ドレスは定着。女性の「定番」となっていくのです。
ハリウッド全盛期はLBD新時代
第二次世界大戦後、リトル・ブラック・ドレスはクリスチャン・ディオールによってさらにブラッシュアップされます。
戦時中からの、実用性を是としたストイックなファッションは、ディオールによる「ニュールック」の発表で終わりを告げます。時代は、より女性らしさを強調するファッションを求めていたのでしょう。
ウエストを細く絞ったこのスタイルは、ハリウッドと相性が良く、リタ・ヘイワースやエヴァ・ガードナーといったハリウッドのスター女優たちがLBDを着用して登場。ディオールとハリウッドはともにLBDを進化させていったのです。
ヘップバーンとジバンシィが確たるものに
映画の中のLBDといえば、黒のシックなドレスを身にまとった「ティファニで朝食を」の絵を思い浮かべる方も少なくないはず。
このスタイリッシュな姿をファッション業界の人々の目に焼き付かせ、黒一色のワンピースはすっかりその地盤を固めました。
そう。この映画を通じて、ヘップバーンとユベール・ド・ジバンシィは、LBDを1960年代のファッションアイコンに育てたのです。
いま、多くの女性が1枚は持っているリトル・ブラック・ドレス。
仕事に着て行ってもヨシ。夜のパーティに着て行ってもヨシ。そしてもちろん、お葬式には黒でなければ。
黒一色でも、カットやデザイン、シルエットでまったく表情を変える、リトル・ブラック・ドレス。またその1着も、アクセサリーの合わせ方などで、幾通りにも着こなせる。
その万能さと多彩さは、多くの人が少しずつ育ててきた、新しい「定番」なのでした。