インドのファッションというとどんなものを想像するだろうか?
インドのファッションブランドをキュレーション・販売するオンラインショップ「Indelust」の設立者・Sana Rezwan Saitと出会ったとき、筆者は彼女が身につけていた品々の美しさに目を奪われてしまった。それらはもちろん「Indelust」で展開されているアイテムたちだ。
悲劇的な事故に動かなかった経営層
Sana Rezwan Saitは、インドでIT都市と知られるベンガルールの出身。いまでこそ、インドで最新ファッションを扱うショップを経営していたり、ファッション誌に毎月寄稿する彼女だが、18歳で渡英したのは心理学を学ぶためだった。
心理学の限界を感じてファッションに転向。ファッション・マーケティングを学び、卒業後は「Stella McCartney」「Georgio Armani」「Jasmine de Milo」や家業を手伝って「CHANEL」「Givenchy」「Emilio Pucci」などのマーケティングを担当。インドとロンドンを往復する日々を過ごしていた。
2011年には、自身のコンセプト・ショップ「Maison」をインドにオープン。「Phillip Lim」「Thakoon」「Givenchy」「Saint Laurent」などを取り扱っている。そういった高級レディース・アパレルを提供する店は、インドにはまだまだ少ないのだという。
ラグジュアリーファッションのフィールドで働いていた彼女。しかし、あるファッション系の会議に参加したときに、転機は訪れた。
数多くのビッグ・ブランドのCEOが居並び、100人をゆうに超える人々が集まっていました。そこであるCEOが、バングラデシュの事故について言及しました。ファッションのために、大勢の人が亡くなった。『服のために? そんなに大切なこと?』と思いました。
だけど、その会場の参加者が誰一人として『この事態を変えるためにコレをする』と言い出さなかったことも、すごくショックでしたね。彼らは世の中の消費に大きな影響を与えられる人々。一般消費者から何十億も儲けだす人々。そんな彼らが、自身の会社の社会的責任を果たそうとしないことが非常に悲しかったです。
以来ものがどこから来て、誰がどのように作って私の手元に届くのか、意識するようになりました。
いまのインドを最高にオシャレに紹介する「Indelust」
インドではいま、新しい才能が次々と芽吹いています。その才能の種を芽吹かせながら、エシカルなセンスを広めていきたいのです。
そんな思いで2014年秋にスタートした「Indelust」。現在はインドのみならず、パキスタン、スリランカ、ネパールでものづくりをするデザイナーのアイテムも展開している。全てのデザイナーに対し、生産背景をレビュー。そのサプライチェーンを監査して紹介している。
いま、どのブランドのサプライチェーンも、世界中にまたがっています。その全てをきちんとサステナブルなものにするのは困難です。しかしインド圏に特化したことで、その地理的な問題を乗り越えられました。サプライヤーたちの生産環境をすぐ確認することができます。
ヨーロッパのハイエンド・ファッションでキャリアを積んできた彼女がキュレーションすればこそ、Indelustのアイテムは洗練されたものばかり。しかしインドらしさもしっかり感じる。「自分の祖国を、最高に美しく紹介することがミッションなの」と彼女は話す。
温故知新はファッションなればこそ
インドにインスピレーションを受けてデザインをおこすブランドは大小問わず無数にある。そんなブランドに対してもSanaは、「ぜひインドを信頼してほしい」と話す。
インドのセンスを知り抜いた、才能あるデザイナーは必ず見つかる。諦めずに彼/彼女を探してほしいわ。きっとすばらしいものを作ってくれるわよ。この国には、知られなければならない才能がたくさんあるんだから。
西洋に影響を受けながらも、極めてインド的に独自に解釈してデザインする者。西洋の解釈よりもかっこよく解釈する者。さまざまな才能に出会うたびわくわくするという。
最後にSanaは、「Indelust」に参画するデザイナーの一人・Rahul Mishraの言葉を紹介してくれた。
彼は「ファッションを、伝統技術を蘇らせて現代に伝える乗り物なんだ」って言うの。ファッションは本当にダイナミックで、常に新しさが必要。本当にそうよね。3カ月、ううん6カ月ごとに生まれ変わらないといけない。だからこそ、ハンドメイドや2000年も前に生まれた伝統的なものが、いまのスタイルにもそぐうことができるのよ。
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