この写真の糸、何に使われていると思いますか?
実は、何にも使われません。ただ、廃棄処分されるだけ……。このように余っている糸や生地が、紡績企業や商社の倉庫にたくさん眠っています。
2015年5月に登場した新ブランド「RDF(アール・ディー・エフ)」。このブランドが掲げるのが、服ができるまでのムダを徹底的になくすこと。ファッションアイテムが私たちの手に届くまでのルートに、新しい道を作り出します。
実は、ファッション製品を作る各段階で、いっしょに「廃棄」も生まれています。その量は決して少なくなく、家庭から出るものを合わせると、年間で出る繊維ゴミの量は、およそ170万トンと推測されているほど。
しかし、この「廃棄」ってどういうものなのでしょうか?
ファッションが「廃棄」も作り出してるワケ
廃棄されているのは、デッドストックと呼ばれる売れ残り在庫。実際私たちは、作られた全体のほんの15%ほどしか消費していないと推定されています。
そう説明するのは、「RDF」を立ち上げた福屋剛さん。なぜこれほどのムダが生まれているのでしょうか?
1. 複雑なサプライチェーン
アパレル業界のモノの流れは、複雑。原料を輸入、加工、糸にして、生地にする工場と、それを取り仕切る商社や卸、メーカー。服が店頭に並ぶまでには、非常に多くのプレーヤーが存在しています。そのため、誰がどのくらい何を作っているか、把握するのは困難。全体を最適化するのは簡単な話ではありません。
2. 移り気なトレンド
また、ファッションとは切っても切り離せない「トレンド」も要因の一つだと、福屋さんは言います。
情報化社会になり、トレンドのサイクルがどんどん早くなっています。しかも、ただでさえ品種が多いのに、好みが細分化したことでさらに多品種に。それぞれの製品を短期間で売り切れる生産量を読み取るのは至難のワザです。売り切れリスクを回避するため、先に十分な量を買い付けるのですが、見込んだとおり売れることは稀です。結果、売れ残った商品が倉庫に残ることになります。
3. 厳しい品質への目
そして、「返品」。年々厳しくなる消費者の目に応えるため、過剰にまでキズに敏感になってきた背景があります。いつの間にか、本当なら誰も気にしないようなキズも「B品」として扱われ、倉庫に戻されることもしばしば……。
そうして積み重なった在庫が「デッドストック」として、たくさん生まれています。これらのデッドストックは、シーズンを逃すと売れません。倉庫の外に出ることなく焼却場か埋立地へと送られる「ゴミ」として扱われてきました。
「捨てられるもの」を「価値あるもの」として見直す
デッドストックは、保管するにも処分するにもコストが掛かるため、頭の痛い存在。誰もハッピーにならないもの。
「RDF」は、そんな誰も見向きもしなかったデッドストックを、価値ある資源として光を当て直し。企業から低価格で買い取り、スタイリッシュなインテリアやホームアイテム、バッグなどのアクセサリーに生まれ変わらせています。
見方を変えるきっかけになったのは、福屋さんの、商社に勤めていた経験からといいます。
商社に勤めていた最初の頃は、こんなにもったいないことをしていると思っていませんでした。机の上で、伝票に「廃棄」と記入するだけ。大量にモノを捨てている感覚がなかったんです。だけどあるとき倉庫で廃棄予定の糸や生地を見たとき、なんとかできないか、と思うようになりました。
企業にとってもコストが利益に変身するうえ、エコ。デッドストックを持つ企業に提案に行くと、「どうせ処分するなら『RDF』に使ってほしい」「理念に共感した。使わなくなった生地を提供したい」と言われるそう。みんなで廃棄を楽しく減らしていける、新しい流通ルートを編み出しました。
ただリユースするだけじゃない! 日本の職人が蘇らせるデッドストック
長くて複雑な流通ルートの中、「余剰」が出ているいっぽうで、「枯渇」している部分もあります。コストカットを追求しながら失ったものの一つは、国内の職人さんと彼らの持っていた技術。
「RDF」では、回収した高品質な糸・生地を使った生産や加工を国内の産地に依頼。倉敷デニムなど、日本の素晴らしい職人技や伝統を大切にしながら、外部デザイナーとのコラボレーションを通じて、モダン・ライフスタイルに合うデザインで生まれ変わらせます。
全ての段階で「ゴミ」をゼロに
デッドストックが生まれるのは、糸・生地・製品の3段階。いまは糸と生地の段階で、企業さんとお取り組みさせていただいています。現在準備しているのは、製品デッドストックへの取り組み。これで、3段階全てをカバーできるようになるので、早く発表できるようにしたいですね。
すでに、消費者のデッドストックは回収してバイオエタノールにリサイクルする取り組みに参加している「RDF」。その取り組みが実践されれば、サプライチェーン全体でムダを減らしていけるプラットフォームが完成です。
「廃棄」ではなく貴重な「資源」として使い切る。見方をほんの少し変えて、掘り下げてみると、新たな価値が生みだせるかも?
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