カラフルな柄が目をひく「kapuwa(カプワ)」。間近で見ると、機械的なプリントとは違って、規則的に柄が並びつつも、色と色の境い目は柔らかく滲み、色に染まった部分は水彩絵の具で平面を何度も塗り込めたときのような濃淡が。一枚一枚の生地から、それぞれ異なる「表情」を感じました。
(※筆者撮影)
聞けばその柄は、全て手作業でプリントされているとのこと! 人の手によるものとは思えない正確な技と、手仕事ならではの温もりが同居するプリントに、心をギュッと掴まれました。このプリントがどのようにして生まれてくるのか、お話を伺いに「kapuwa」代表兼デザイナーの宮本愛子さんを訪ねました。
「kapuwa」=メイド・イン・ジャイプール
「kapuwa」のアイテムに用いられるのは、インドの「ブロックプリント」。インド西部に位置するグジャラート州で生まれた伝統的な技法です。いまも伝統的な技法としてインドに根づくブロックプリントですが、商業的な拠点は、ジャイプールのとある村に集約されつつあるのだといいます。
ジャイプールは、旧市街地の建物の壁が全てピンク色に塗られていることから、「ピンクシティー」と呼ばれる街。インド国内では観光地として知られ、穏やかな気性の人々が住まうというこの街で、「kapuwa」の製品が作られています。
50年使用できる木版を制作
「kapuwa」の服づくりは、まず宮本さんがブロックプリントの図案を描くことから始まります。
イメージをパソコンで図案化します。ブロックプリントは1色ごとに木版が必要なので、その部分を考慮し、1版ごとの図案に落としこみ、ジャイプールの工場へ送ります。
この段階では、なるべく自身もジャイプールへ向かい、工場のビジネスパートナーとともに柄が生きる生地を選ぶのだそう。
宮本さんの図案をもとに、ジャイプールでは、木版制作の職人が木版の制作を開始します。
図案を1色のパーツごとに木版に転写したら、その線に沿って木版を彫っていきます。転写に3~4日、彫るのに3~4日。計1週間程度で、色ごとの木版ができ上がります。
木版に使用されているのは、シダの木の一種。適度な重みがあり、彫るときは柔らかく、オイルに浸けて1日置くと固くなる、木版としては理想的な木なのだそう。
こうしてできあがった木版は、その後50年間、彫ったラインが変わらず、くり返し使い続けることができます。
木版に用いられる木は、限られた資源。職人たちは、なるべく無駄のない大きさの木片を、それはそれは真剣に探す、と宮本さんは言います。
「kapuwa」も、1つの図案に使用するのは、4色までと決め、その中での可能性を楽しんでいます。新しいコレクションで増やすのも1~2柄程度。それ以外は、これまでに作った図案を色や生地の組み合わせを変え、使用しています。
風を読み、生地を仕上げる職人技
でき上がった木版で、いよいよ生地にプリント。職人たちが1人1版を担当し、追いかけっこのように連なって色を重ねていきます。
木版には小さな穴が掘られていて、色持ちが良くなるよう、その穴に染料を染み込ませた綿を詰めています。綿から染みだす色の濃淡や、木版を引き上げる際に生地が吸いつく度合いなどでブロックプリント独特の表情のある風合いが生まれます。
長いものでは500~600mにも及ぶという生地を、手作業で同じ色味に仕上げるのは至難の技に思えますが、職人たちは、日照時間や、気温、湿度によって、そのつど染料の配合を変え、色味を調整していくのだそう。
インドは1週間で天候が全く変わってしまう国。天候に左右されるので、職人はみんな風で天気を読んで行動します。朝5時の時点で晴れていないと、その日は1日お休みになるんですよ。朝晴れていても夕方には雨だ、ということも。それが本当に当たっちゃうんです。
生地がなりたいものを描く
仕上がった生地が、日本に届き、ここで初めて宮本さんが服のデザインを描き出します。
「kapuwa」は、コレクションごとにテーマを設けることはもとより、最初から何を作るかを決めません。プリントされた生地が届いてから、ゆっくり向き合い、生地がなりたいもの、その風合いが最も生きるかたちをデザインします。
さらに、工場の持つ現在の技術レベルを加味し描かれた宮本さんのデザインは、ジャイプールで裁断・縫製され、「kapuwa」の服として日本へ届けられます。
ジャイプールで見つけた特別な場所
ブランドの立ち上げ当時から「kapuwa」アイテムの生産部分を担うのは、ずっと同じ工場。
光が差し込み、風の通る空間で、みんなが楽しそうに働いています。でもこれって、ヒンドゥー教のカースト制度が根づいたインドでは、当たり前のことではないんです。
そう気づいたのは、「kapuwa」の立ち上げ前。最良のかたちを模索していた宮本さんが、いまとは別の工場にプリントを依頼したときのことでした。
その工場では、オーナーが高価な持ち物を自慢する一方で、作業する場は地下にあり、働く人々からは、オーナーを悪く言う声ばかりが聞こえてきました。その光景を見たとき、どの立場の人々も楽しそうに働くいまの工場の環境は、インドでは特別なのだと気づきました。
現在のパートナー工場の創業者は、技術を身につけカースト制度の階級を自らの力で上った稀な人物。自身の経験から、人の気持ちを慮り、雇用している人々を絶えず思いやる姿勢が現在の環境を作り出した、と宮本さん。
2008年の出会いから7年。共に仕事をするようになって5年。その歳月が育んだ、心の葛藤までもを吐露できる「家族」のような絆。そしてどんなオーダーにも「No」と言わず、妥協なく向き合うプロフェッショナルな両者の姿勢が、「kapuwa」の軸なのだと感じました。
「kapuwa」の成長はジャイプールとともに
「kapuwa」の生産過程を伺いながら伝わってきたのは、どちらかがどちらかを助けるのではなく、お互いに「今」できることを尊重し、ともに歩む姿。
彼らが新しい技術を身につけると、「kapuwa」としてもできることが増えていく。いつも楽しそうに働いている彼らを見習って、あまり頑張りすぎず、共に成長していけたら、と思っています。
ジャイプールの工場は、宮本さんが出会った当時から、管理部門だけでも人員が5倍以上になるほど、成長を遂げているそう。
一方、「kapuwa」も今年法人化。5月には、リラックスウェアを中心とした「kapuwa home」を発表し、フランスで開催されるジャパンエキスポに出展が決まるなど、インドのブロックプリントの可能性を広げ続けています。
「kapuwa」を会社にまで成長させてくれた彼らに、心から感謝しています。これからも、「kapuwa」のアイテムを通して、ジャイプールのブロックプリント技術を「メイド・イン・ジャイプール」として伝えていけたら……そう思っています。
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