当連載では、私が訪問したシエラレオネで感じた違和感(第1回)、ダイヤモンドや紛争ダイヤモンド原石を予防する「キンバリープロセス」の内容と課題(第2回)、そしてクモの巣状のサプライチェーンにより、紛争ダイヤモンドがいまも一般市場に流通していること(第3回)をお伝えしてきました。
最終回の今回は、ダイヤモンドを取り巻く状況を改善するための動きや、私たちにできることをお伝えしたいと思います。
ダイヤモンドを取り巻く状況を改善するための動き
ダイヤモンドを取り巻く課題には、多くの利害関係者の利益や不利益が複雑に絡み合っており、一筋縄で解決できるものではありません。しかし、少しでも状況を改善しようと動き始めた人たちも存在します。
政府機関や国際機関
まず、政府機関や国際機関の取り組みがあります。
紛争ダイヤモンドを撲滅し、人権問題を改善するためには、ダイヤモンド産出国が自ら動き出すことが第一に重要です。しかし、政府と対等な立場にある組織・機関でないと支援はできません。政府機関や国際機関が取り組むことで、産出国で法律がきちんと整備・運用されることが期待できます。
例えば、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)では、「零細採掘労働者の土地及び財産の権利」という側面から支援しています。
ダイヤモンドは、所有権があいまいで争いに発展するケースが多くあります。それは、アフリカの地域によって、「土地の所有」とは「土の上にあるものを所有」という意味に捉えられているため。地中に埋まっているものは、国もしくはその地域全体の所有物であるとする慣習法があるのです。
USAIDでは、土地や天然資源に関する権利を明確にし、採掘と販売をモニタリングしたり、ダイヤモンドの恩恵を採掘地域に還元するための支援を、政府に対して行っています。それによって、零細採掘労働者が採掘したダイヤモンドが正規の市場に流通し、キンバリープロセスが要求している基準を各国が満たすことを目指しています。
これまで、中央アフリカ共和国(2007年)、ギニア(2008年)、リベリア(2010年)などで行われ、いまはEUと共同出資でコートジボワールに対して行っています。
また、ヨーロッパ諸国や日米を含む、34カ国の先進国が加盟するOECDでは、紛争地域(と、紛争が起こりやすい地域)で鉱物の採掘や売買をする企業が守るべきサプライチェーンの指針を、ガイダンスとして定めました。企業、政府、市民団体などが集まり、紛争に加担しないために、企業が守るべき行動を定めたものです。
企業が持続的な成長を目指すために、天然資源が紛争の資金源にならないのはもちろんのこと。労働者・周辺住民の人権を尊重する必要があります。ダイヤモンドは、まだこのガイダンスの対象には含まれていません。しかし、将来的にダイヤモンドも対象になれば、課題の多いキンバリープロセスに代わって効果的なものになることを期待する人々もいます。
ただし、こうした支援を通じて決められたことには、法的な拘束力がありません。作った法をきちんと運用するかはその国しだい。ガイダンスを守るかは各企業に委ねられています。
では、どうすればいいのか? 筆者は、次の2つの選択肢があると考えています。
(a) その国の政府が必要性を感じ、国際機関が定めたルールに準ずる法律を作り、きちんと運用する。
(b) 現地の採掘企業や売買する企業が、自主的にルールを守りたくなるようにする。
政府機関・国際機関は(a)の側面から、次に紹介するNPOなどの市民団体は(b)の側面から同じ問題にアプローチしていると言えそうです。
NGO等の市民団体
ダイヤモンドの問題に関する世論を作ったり、政府を動かしたりするうえで、NGOの活躍抜きには語れません。
例えば、シエラレオネでの内戦時、チャールズ・テイラー率いる反政府軍がダイヤモンド鉱山を支配していました。反政府軍は、そこで産出されたダイヤモンドをリベリアに密輸し、一般市場に販売。利益を内戦の資金源にしていました。その問題を突き止めたのは、資源問題を監視するNGO・グローバル・ウィットネス。独自調査の内容をを報道機関、欧米の政府高官、そして一般市民に伝えるキャンペーンを実施。そのキャンペーンがあったことが大きな影響で、ようやくキンバリープロセスが設立されました。
ほかにも、次のようなNGOが欧米では活躍しています。
・ヒューマン・ライツ・ウォッチ(http://www.hrw.org/)(本部:アメリカ)
・パートナーシップ・アフリカ・カナダ(http://www.pacweb.org/en/)(本部:カナダ)
・ダイヤモンド・ディベロップメント・イニシアティブ(http://www.ddiglobal.org)(本部:カナダ)
このようなNGO等の活動のほか、映画「ブラッド・ダイヤモンド」(レオナルド・ディカプリオ主演・ワーナーブラザーズ、日本では2007年公開)のヒットなどのメディアを通じ、欧米ではダイヤモンドに関する問題・課題が広く認識されるようになってきています。
特にヨーロッパでは、婚約指輪等、大きめのダイヤモンドを購入する際、どこで産出されたものなのか、紛争ダイヤモンドではないことはもちろんのこと、児童労働等の人権搾取によって採掘・カットされたものではないことを確認する人が増えています。
どうやって確認したらいいの? 認証機関の証明
第3回でお伝えしたように、一般の消費者が複雑なサプライチェーンをたどって確認することは不可能です。
紛争の資金源になっておらず、児童労働・強制労働・暴力等の人権侵害や環境破壊に加担していないダイヤモンドを購入したいとき、一つの目安になるのが、認証機関が認証したダイヤモンドを選択することです。
客観的な認証をしている認証機関に、ジュエルツリーファウンデーション(非営利団体・本部:オランダ)があります。同団体は、ダイヤモンドをはじめ、さまざまな宝石に関してエシカルかどうかを認証しています。フェアトレード基準に近い基準を定め、書類審査のほか、鉱山やカット工場を実際に訪問したうえで認証を行っています。
認証された鉱山とカット工場の両方を経た宝石だけが認証され、証明書に登録されます。ウェブサイト上で、証明書に記載された番号を検索すると、購入された宝石が辿ってきた道筋を閲覧することもできます。
ジュエルツリーファウンデーションのように、倫理的な宝石を目指す業界団体や認証機関は多数存在します。しかし筆者が調べたところ、鉱山やカット工場まで調査・認証する機関はまだまだ少ないのが現状です。それも、サプライチェーンをさかのぼることが不可能だからでしょう。
私たちにできることは?
ここまで読んでくださった方の中には、「ダイヤモンドは全部問題アリ!」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかしそうではなく、課題はどこで採掘やカットされたのかという情報が得にくいことなのです。
筆者が2011年に東京・大阪において、ダイヤモンドジュエリーを販売する有名10ブランドで行った覆面調査もそれを裏づける結果でした。店頭で、目玉商品のダイヤモンドジュエリーの産出国を尋ねたところ、回答できたブランドはゼロだったのです。ダイヤモンドの販売に携わっている人でも、ダイヤモンドにそのような課題があることを知っている方は少数派。知っていても、あえてお客様に言う人はいないでしょう。
ですから、私たち消費者は知識を身に着け、自分が本当に欲しいダイヤモンドを選別する目を養う必要があると考えています。
消費者の声が大きくなれば、販売側は無視できません。しかしいまは、「お客さまから『紛争の資金源になってない、人権侵害や環境破壊に加担していないダイヤモンドであることを証明をしろ』と言われていないから必要がない」という状況ではないでしょうか。
ダイヤモンド業界を変える2つの質問
ダイヤモンドを購入するときには、「そのダイヤモンドはどこで産出されたものですか?」と、聞いてみましょう。次に、産出国が分かったなら、「どのような鉱山で採れたものですか? どのようなカット工場で研磨されたものですか?」ともう一歩深く聞いてみましょう。
第1段階は、どの国で採掘・カットされたのかを知ること。ただし、同じ国の中でも倫理的に操業している鉱山/工場とそうでないところがあります。そこで、第2段階の質問です。その際、鉱山のことだけでなく、カット工場についても聞くことが大切です。なぜなら、カット工場でも児童労働等の問題がはびこっているからです。
ダイヤモンドにまつわる課題は複雑で多くの利害関係者が存在するため、一度に全てを解決することは困難です。しかし、一歩ずつ改善することはできるはず。そして、消費者である私たちこそ、その一歩を進めることができるのです。
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