デザインしないライフデザインはいかが?|作家・曽田耕×ふるもとひろし「NPW的」をめぐる対談

2015. 5. 8

広島を皮切りに全国で開催され、人気を高めているワークショップ「NPWの学校」。「NPW」とは、「ヌメ革パッチワーク」のことで、文字どおりメーカーで余った多様な色・かたちの革端切れをパッチワークする。使うのは、ハサミと金槌だけ。深く吟味せずに、手に取った革を順につなぎ合わせて自分だけのレザーバッグを作るというものだ。

npw
主催するのは、広島市の中心地でセレクトショップを11年経営していたふるもとひろし。店を運営する中で、革の靴や鞄の職人・曽田耕の作品シリーズ「NPW」に出会い、店を畳むことを決意。曽田から専任講師の認定を受け、2014年からワークショップ講師として新しい一歩を踏み出した。

ワークショップは常に満員御礼。これまで10回以上開催し、延べ100名が参加。リピーターも多い。口コミで広まり、開催のリクエストは全国で後を絶たない。その理由は、「NPW」に、日々の暮らしでは体感しにくいニュートラルなリズム感で作業に没頭できることじゃないか、というふるもと。そのリズム感とはなんなのか。ふるもとの店舗創業当時からの付き合いになる曽田が語り合った。

(左)作家・曽田耕。「NPW」を考案した。(右)ふるもとひろし。「NPW」に「こと」の価値を見出し、ワークショップに。(撮影:CARLOS)

(左)作家・曽田耕。「NPW」を考案した。(右)ふるもとひろし。「NPW」に「こと」の価値を見出し、ワークショップに。(撮影:CARLOS)

そもそも、曽田耕の作品「NPW」とは

ふるもとひろしさん(以下敬称略、「ふるもと」): 曽田耕さん(以下敬称略、「曽田」):  自分の持っている技術の、一番少ない技術で作ってみたのが「NPW」。もともと、2つの「美」のかたちがあると思ってたんです。匠の技とこだわりの素材っていうものづくりもするし、好き。でも同時に、その反対の美しさもあるな、と。だって、僕の娘がチョキンと切った端切れも、「美しいな」って感じるんです。

曽田が作った「NPW」のシリーズ。(提供:季の雲)

曽田が作った「NPW」のシリーズ。(提供:季の雲)

曽田: 20年前、作家としては、こだわりの素材に匠の高度な技術、っていうもの作りをしていたんです。だけどだんだん生産性の問題がでてきたり、材料ではロットの問題や、使っていたパーツが廃盤になる問題も出てきた。「安定した生産を目指すのが、そもそもの問題だ」って思うようになってきたんですね。
 そこで、さっき言った「もう一方の価値」を目指したら、いろいろ辻褄が合うと気づいた。そうした思いが膨らんで行き着いたものの一つが「NPW」です。材料は端切れの革で、技術は組み合わせてカシメで留めるだけです。

ふるもと: 最初に「NPW」の写真を見せていただいたとき、「さすがにこれは稚拙すぎるんじゃない?!」って思ったんですよ。「いくらなんでも手抜きなんじゃないの?」って。

鞄が壊れたことがきっかけで、「こと」の価値を見つけた

ふるもと: だけど、2013年に僕の店で曽田さんの鞄展「100bags」をやったとき、「NPW」の実物をあらためて見たら「いいな」って思って(笑)。それで仕入れ始めたんですけど、ある日店頭の「NPW」のカシメがポロッと外れて。だから曽田さんに「(修理に)送りましょうか?」って聞いたんです。

曽田: だから僕、「誰でも直せるので、パーツを送るからやってもらっていいですか」って返事したんだよね。

ふるもと: そう。それでパーツ送ってもらってやってみたら、金槌一つで直せちゃった。「これは良い!」と思って。廃材っていう社会問題をはじめ、美術教育やモノづくりなど、あらゆる要素が詰め込まれているうえ、誰でも気軽に作れる。これは、ただのモノ売りを超えた有意義なコトが届けられるかもしれない、ってひらめいたんです。
 実は、お店を約10年やっている中で、「匠の技・こだわりの素材」のものづくりが、だんだん良いと思えなくなってたんですよ。展示会に行っても、どこのブランドも「技術」や「デザイン」を売りにしてる。だけど、やっぱり消費されて消えてしまったり、売れなくて廃棄されたりしている。そんな、消えてしまうものを届けるために、お店をやってるわけじゃないのにってずっと思ってて。それで、モノじゃなくて消費されないもの、つまり「コト・体験」っていうのを届けたいなって思うようになってたんです。

→Next:「NPW的」なリズムとは? なぜ、マーケティングもファッションも、現代のスピードに追いつけないのか?

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