「防災のファーストアクションを、防災ガール★に聞いてみた。」で、とにかく簡単にできる防災アクションを教えてくれた一般社団法人防災ガール★(以下、防災ガール)代表の田中美咲さん。
さらにお話を伺っていく中で見えてきたのは、先頭、頂点、中心、そのどこでもない場所から発揮される田中さんならではのリーダーシップがつくる、少し変わった組織のかたちでした。固定観念を覆す「オシャレで分かりやすい防災」が生まれる理由が見えてきます。
防災ガールはこうして生まれた
東日本大震災が起こったとき、復興の力になりたいと、それまで勤めていた会社を辞め、福島へ移住した田中さん。しかし、時が経つにつれ、自分にできることが少なくなっていったと言います。
震災から3年が過ぎた頃、現地の方々と専門的なスキルを持つ人々が被災地復興の中心になっていきました。でも、この思いを絶やしたくないし、これまでの経験も無駄にしたくなかったんです。
しかし、これからも日本には南海トラフをはじめとした大災害が高い確率で起こると予想されていました。それなら、身のまわりに災害が起きたとき、自分で自分を守り、まわりに手を差し伸べられる人を増やしながら次に備えることが、いまのわたしにできること。そう思い、防災ガールの活動を始めました。
防災ガールの中にも被災地でのボランティア経験者は多く、田中さん同様、災害への意識を持ち続けたいという思いが、防災ガールとしての活動につながっているそう。
新しい避難訓練を開発したり、高校で講義をしたり、はたまたモデルとして活躍するメンバーの防災カレンダーを制作したり。2012年の設立以来、常に斬新に活動する防災ガールは、今年3月11日に一般社団法人化。これからさらに大きく動き出す気配をひしひしと感じます。
全国をつなぐ新しいコミュニケーション
現在、防災ガールとして登録されている77名(※2015年4月2日現在)のうち、被災経験があるメンバーは5〜6名のみ。東京・大阪をはじめ、全国で活動するメンバーのほとんどは、被災経験がない女性たちで構成されています。
彼女たちのほとんどが他の仕事を持つボランティア。事務局運営に関わる数名のメンバーも、ダブルワークで関わっています。そのため、それぞれが使える時間はまちまち。全国に広がり、活動時間も違うメンバーとの大きなイベントや開発には、「SNS」をフル活用しているのだそう。
防災ガールの防災グッズブランド「SABOI」商品化の過程では、Facebookのグループにスレッドを立て、その中でアイディア出しや意見交換をしました。
被災経験のあるメンバーが経験から必要なものを提案すると、より具体的なアイディアが別のメンバーから出てきます。そこに被災経験のないメンバーから「デザインはこうしたら?」という一般的な女性の意見が加わる。常に違った角度の目線が存在し、互いを俯瞰で見られることが、防災ガールの強みだと思います。
もっと防災を当たり前にするために、リアルな声に耳を傾ける
商品づくりのベースになるのは、女性の、ときに「ネガティブ」ともいえるほど現実的な視点なのだとか。
避難用の靴「携帯シューズ」のポーチは、履いていた靴を入れるバッグにもなるんですけど、これは「脱いだ靴持ち帰れないから、マジ無理(使わない)」っていう声から始まったんです。しかもけっこうみんなかたくな。そんな気持ちを溶かそうとする中で、ポーチをバッグに変えるアイディアが生まれて、より良いかたちになったと思います。
メンバーの思考が止まってしまいそうになるとき、田中さんは、「じゃあ、どんなものだったら使いたいと思う?」など、興味を持ってもらえる糸口を見つけるため、ひたすら「違った見方」を提案し、発言を促していくのだそう。
そうして生まれた「携帯シューズ」は、シューズ自体も、かかと付きの固いソールに、内側にクッション付き。足への負担を意識した作りになっています。そしてなによりかわいい! 「履きたくなる靴」という目線があってこそ生まれた防災グッズだということが分かります。
防災を広める「攻め」の姿勢
一般社団法人化に際して「これからは野心的な目標を掲げて活動していく」という言葉が印象的だった田中さん。田中さんがその決意を固めたのには、あるきっかけがありました。
それは、今年3月に開催された国連防災世界会議。
1994年の横浜、2005年の神戸に続き、宮城県仙台市で開催された第3回の会議。東日本大震災の被災地での開催ということもあり、より具体的な目標と戦略が打ち出されるのでは、と世界から注目が集まっていました。
しかし、貴重なこの機会に得られた合意は、2030年までの大枠の目標のみ。戦略の策定は2020年を目標に進められ、具体的な数値目標も「算出が困難」と、見送られました。
世界的な数値目標が掲げられると期待していただけに、とてもショックでした。ならば、私たちなりの指針を持とう、明確な目標を立てて活動していこうと気持ちを切り替えました。
まず2016年までに、防災ガールを通じて16万人がなんらかの防災アクションを起こすこと。次に東京オリンピックが開催される2020年には、142万人(東京都に住む20~30代の10人に1人にあたる)の防災アクションにつなげることが目標です。
2015年は「種まきの年」と位置づけ、これまでとは違った動きを考えているとのこと。防災ガール一人ひとりの限られた時間を有効に使いながら「必ず防災ガールでなければいけないこと」などを軸にしたアクションをしていくと話します。例えば、いつ、どこで被災しても、自分たちで考えて避難できるようになることを目指す「次世代版避難訓練TOLAF(Think our life and future)」の開催を企画中なのだとか。
寄り添い導いて、築いた「防災ガール」のかたち
最後に、田中さんが描く理想的な社会を伺ったところ、こんな答えが。
防災ガールの田中美咲としては「防災があたりまえになる社会」。個人としては、「それぞれの考える幸せの定義の中で、幸せになってほしい」と思っています。
人々の幸せの土台となる「安全」や「安心」を築くために「防災」を広めていくと、田中さんは言います。
それぞれの立場や状況に寄り添い、発言を促し調整していくファシリテーション型のリーダーシップを発揮する田中さん。それは、災害時、背中に手を置いて、話しかけながら、時に隣を、時には最後尾を走る姿と重なります。個人を尊重し、粘り強く寄り添えるからこそ、「オシャレでわかりやすい防災」を伝える術を、次々と生み出しているのではないでしょうか。
防災のイメージを次々と塗りかえていく防災ガール。従来の組織のかたちでは、とても達成できそうにない大きな数値目標も、防災ガールなら「もしかしたら」と思えてきます。
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