1960年代に東アフリカ・タンザニアで生まれた現代アート「ティンガティンガ」。デフォルメされた動物、風景、植物、人々などが鮮やかな色彩でいきいきと描かれ、タンザニアを代表するモダンアートとして世界中で広く親しまれています。
単身タンザニアにわたり、このティンガティンガを描く女性アーティストがいます。それが、ダダマサヨさん。
ティンガティンガを学びに、単身タンザニアへ
ティンガティンガは、建築資材用のボードにエナメルペンキで鳥、野生動物、現地の日常生活、昔話などを、奇抜にカラフルに描く現代アートです。
「ティンガティンガは、タンザニアの楽しさがたくさん詰まったもの」というダダマサヨさんが、一人タンザニアに渡ったのは2005年。愛知万博でたった一度だけ会った、ティンガティンガ・アーティストのマイケル=レヘムさんの下へ弟子入りします。
最初に教わったのは、背景の塗り方。幅が広い筆を使って、青いエナメルペンキで塗っていきます。青を塗って乾かしたら次に木を描き、さらに乾かしたら木の上で休む鳥を描き、さらに乾かしたら鳥の羽根の柄を描き……熱い日差しでペンキを乾かしながら、ゆっくりと色を重ねていくのがティンガティンガの画法です。
たいへんだったのは、グラデーションの描き方。パレットの上で色を混ぜるのではなく、描いているボードの上で色を混ぜ合わせながらグラデーションを作っていきます。しかしおよそ8カ月もすると、師匠の絵の手伝いを任されるようになり、腕を認められた感触があったといいます。
子どもたちに絵本を作りたい
しかしそれまで、アーティストとして絵を描いたことはなかったというマサヨさん。しかも子どもの頃は、担任の先生と話すだけでも泣きそうになるくらいの「ノミの心臓」だったとも。そんなマサヨさんがなぜ、日本からは遠く離れたタンザニアにわたり、ティンガティンガを学ぼうと思ったのでしょうか?
タンザニアに来る前は、子ども英語教室の講師を5年ほど勤めていて、0歳の赤ちゃんから高校受験生まで幅広く教えていました。
ゲームを取り入れたりなどいろんな指導を試みましたが、音楽やアートを混ぜて、想像力を働かせるような指導をすると、子どもたちの頭に残りやすく、成長に良い影響を与えているのを目の当たりにしました。
20歳の頃から子ども向けの絵本を出版したいという夢を持っていたのですが、「子どもたちの想像力を掻き立てることをしたい!」という気持ちと合わさって、ティンガティンガを見たときに「これで絵本を作ろう!」と思ったんです。
ティンガティンガはかわいくて元気がある。ひと目見て、自分が子どもたちに提供したいイメージにぴったりだったんです。
そんな思いから生まれたのが絵本「NUMBODY(※NUMBER〈数字〉とBODY〈身体〉を掛けあわせた造語)」。体を使って数字のかたちを表現するとどうなる? と、子どもたちが自分で工夫して数字を表現できるようデザインされています。タンザニアでは数学の教育が課題になっているといい、計算力をいかに子どもたちにつけるかが重要な議論になっています。そこで、幼い頃から数字に慣れ親しむきっかけを作っています。
想像力と好奇心を掻き立てる
そんなマサヨさんがいま取り組んでいるのが、タンザニアの子ども向けのテレビ番組づくり。急激な経済成長を遂げるタンザニアでは、ゴミ問題や環境破壊が深刻化。水路も、車の部品やらオイルやら汚水が垂れ流し。郊外では林や森の木が無計画に切られています。
そこで、タンザニアで普及しつつあるテレビに着目。史上初の日本とタンザニアの合同番組制作チームを生み出し、子ども向けの教育番組づくりに取り組んでいます。アニメでは、タンザニア中の大自然を冒険して感動や疑問を抱く姉弟が登場します。その2人に、知恵袋のバオバブじいさんが、動物や自然の秘密をタンザニア独特のユーモアで愉快に解説していくというものです。
この番組が、子どもたちが自分で自分の未来に必要な「何か」に気づくきっかけになってほしいです。その想像力の素地になるのが「学び」ですが、好奇心がその特効薬だと思うんです。
子どもたちには、自分で感じて考えて答えを見つけようとする時期が必ずあると思うんです。自分たちの未来を、自分で想像して、描いて、作り上げていくための「素材集め」は、好奇心がなければ進みません。
タンザニアの教育は「暗記教育」が主流。しかし答えが分かっているものを教え込まれるだけでは、自分の力で考えて行動を起こすことから遠ざかってしまいます。だけど、好奇心があれば自分で動きたくなる。そうやって自分で行動を起こしていきながら、人生を謳歌していってほしいです。
大人になっても、好奇心を忘れないでいれば、どんどん自分の人生を描き出していけるかもーーマサヨさんの姿は、そんな勇気を生み出すアートかも……と思わずにはおれません。
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